親亡き後の収入源、どうすればよい?

写真拡大

 親亡き後、ひきこもりのお子さんの収入源は主に、公的年金です。仮に、国民年金を20歳から60歳までの40年間払い続けたとすると、65歳から月額約6万5000円がもらえます。しかし、このお金だけで生活費をまかなうことは難しいことでしょう。足りないお金はどのように準備していくべきか、どのご家庭でも頭を悩ませています。

大学卒業後、家にひきこもるように…

 30歳ひきこもりの長男を持つ父親(57歳、会社員)は、筆者との相談時に自身の希望を述べました。

「親亡き後、長男の収入が月12万円くらいになるようにしたいと思っています。できれば、それが一生涯続くようにしたいのです。何か良い方法はありませんか」

 そう語る父親からは、「是が非でも親が何とかしなければならない」というような鬼気迫るものを感じました。どのような対策が検討できるのかを考えるため、まずは長男のお話を伺うことにしました。

 長男は10代の頃、双極性障害を発症しました。その後、通院や服薬を続けながら、何とか大学まで進学することができました。在学中にいくつかのアルバイトをしたこともありますが、人間関係やストレスが原因でいずれも長続きしなかったそうです。大学卒業後、就職することができず、自宅にひきこもるようになってしまいました。

 障害年金の支給対象になるほど症状は重くないとのことですが、「働いて収入を得ることも難しい」と父親はもどかしそうに言いました。

 長男の国民年金は免除や猶予をせず、20歳の頃から父親がずっと保険料を支払ってきたそうです。そして、長男が60歳になるまで支払いを続ける予定とのことでした。その場合、長男は65歳から老齢基礎年金を月額換算で約6万5000円もらえることになります。父親が希望する12万円から6万5000円を引くと、5万5000円。この5万5000円を何か別のもので準備していくことになります。

 そこで、筆者は国民年金基金を提案することにしました。

国民年金基金とは?

 長男は無職なので、国民年金の第1号被保険者となり、かつ国民年金保険料を支払っているので、国民年金基金に加入することができます。できるだけ少ない掛け金で一生涯の保障を受けられるようにするため、筆者は「終身年金のB型」を提案しました。

 終身年金B型に5口加入すると、65歳から月額換算で6万円がもらえることになります。次に、毎月の掛け金はいくらになるのかを調べることにしました。

 月額の掛け金は加入当時の年齢で決まります。30歳1カ月から31歳0カ月の男性が終身年金B型に5口加入すると、月額の掛け金は2万8950円になります。掛け金は長男が60歳になるまで支払うことになりますが、長男が60歳の時、父親は87歳です。その年齢になるまで掛け金を支払い続けなければなりません。

 すると、父親が言いました。

「毎月2万8950円の支払いなら何とかなると思います。大丈夫そうです」

 筆者は念のため、父親に確認を取りました。

「国民年金保険料もお忘れなく。国民年金保険料は月額1万6410円(2019年度の金額)ですから、これに2万8950円を足すと毎月4万5360円の支払いになります」

「毎月約4万5000円…結構な金額ですね。今は私が働いているので何とかなりそうですが、年金暮らしになったら厳しそうですね。一体どうすればよいのでしょうか」

「国民年金基金の口数は後で減らすこともできます。これを『減口』といいます。減口をすれば、その分の掛け金は減ります。年金生活に入り、毎月4万5000円の支払いが厳しくなってしまったら減口を検討することになるでしょう」

「減口をした場合、年金はどのようになるのですか」

「それまでの納付実績で年金額を計算するので、掛け金が無駄になってしまうことはありません。大丈夫です」

「本当なら減口はしたくないんですけどね…現実的には厳しそうですね」

「そうですね。親御さん亡き後に備え、より多くの収入を確保しておきたいお気持ちも分かります。しかし、親御さんができることにも限界があります。あまり深刻に考えず、無理のない範囲で準備していくだけで十分だと思います」

「すべて完璧に」は理想に過ぎない

 掛け金のお話をした後、筆者は次のようなことも父親に説明しました。

・国民年金基金は、前納することで掛け金の0.1カ月分が安くなること

・父親の口座から掛け金を引き落とすようにしておけば、父親の節税につながること(掛け金全額が社会保険料控除になるため)

 すべての説明が終わった後、父親は胸の内を語ってくれました。

「私は『完璧に何とかしなければいけない』という考えにとらわれすぎていたのかもしれません。今回の相談で、ちょっとだけ気持ちが軽くなりました。国民年金基金はぜひ手続きしようと思います。本日はどうもありがとうございました」

 父親の表情は幾分和らいだように見えました。親御さんの中には「ひきこもりの子どものために、何が何でも親の私が何とかしなければならない」という強い気持ちを持っている人もいます。しかし、その気持ちとは裏腹に、すべてを何とかしてあげたいという理想とすべてを何とかすることができないという現実のギャップで悩んでしまうケースが多くあります。

 100点満点を目指し、「すべてを何とかする」ということは現実的には難しいことでしょう。どこかで折り合いをつけなければなりません。そのため「無理のない範囲で準備をしていけばよい」という考え方も、時には必要なのではないかと考えています。