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カモフラージュの目的

家にクリスマスツリーが飾られているなら、ツリーの下にプレゼントの箱は置かれていないだろうか?

プレゼントであればきらびやかな包装紙でラッピングされているはずであり、置いてあれば必ず気が付くに違いない。

初期のDBXでは既存のカモフラージュデザインが使われていた。

だが、中味の予想はついても、12月25日の朝、実際にラッピングを解いてみるまでは、実際に何が入っているかを知ることは出来ない。

そして、相当大きなツリーでもない限り、まさかその下にアストン マーティンDBXが置かれていることなどない。それでも、ラッピングが施された姿をうっとりと眺めながら、その中にはどんな真の姿が隠されているのだろうと思いを巡らすことになるだろう。

だが、サム・ホルゲートが彼の仕事を完ぺきにこなしていたとすれば、この新型SUVが先月正式発表されるまで、誰もその真の姿を知ることは出来なかったはずだ。

新型ヴァンテージといったニューモデルを担当していない時には、ホルゲートはアストンのカモフラージュフィルムのデザインを行っている。

自動車業界ではよくあることだが、最初は新型モデルのスタイリングをカモフラージュするというシンプルな目的で始まったデザインだったものの、いまではどれだけひとびとの注目を集めることが出来るかを競うようにまでなっている。

カモフラージュの目的というのは、新型モデルの存在を覆い隠すことではない。

黒と白の渦巻き模様や、最近では明るいパターンがよく使われるようになっているが、明らかに注目を集めるフィルムで車両をカバーする目的は、決して人目を避けるためではないのだ。

原理はシマウマ?

ではその目的とはなんだろう?

おそらくはシマウマと同じだ。その白黒の縞模様が捕食者の目をごまかし、その不揃いなラインによって幻惑された肉食獣たちは、シマウマがどちらに逃げたか分からなくなってしまうのだ。

奥深きカモフラージュの世界

この見解に異を唱えるものもいるが、だからと言ってこの「幻惑迷彩」が使われなくなったわけではない。

第1次世界大戦では、ドイツ軍が誇るUボートの指揮官を惑わそうと、連合国軍は軍艦を太く明るい縞模様でペイントしている。

公道でのテストが始まると、デザイナーたちは自らのデザインが人目に付くことを覚悟しなければならないが、細かなデザインを隠すために、カモフラージュが使われることになるのだ。

「お陰で多少は安心することが出来ます」と、ホルゲートは言う。

さらに、決して単にサプライズを残しておくだけのものでもない。主要なデザイン的特徴に関する知的財産については特許申請が行われるため、自動車メーカーでは特許が承認されるまで、そうしたデザインは人目につかないようにしておく必要がある。

最初のプロトタイプが公道テストを始めると、DBXのようなモデルであれば、「アストン初のSUVが公道に姿を現したということを隠すことは出来ません」と、ホルゲートも認めているからこそ、どうやってカモフラージュがデザインされたのかを知りたいのだ。

公道に出れば写真が撮られ、ネット上やAUTOCARのようなメディアに登場することは分かっている。

だからこそ、こうしたカモフラージュは、「アストンやパートナーのロゴが人目に触れる素晴らしい移動広告」になるのだとホルゲートは言う。「そのすべてが多くの期待に繋がるのです」

視線をごまかす

アストンは新型ヴァンテージで初めて専用のカモフラージュデザインを採用している。それはアストンの古いロゴと、あの幻惑迷彩模様の軍艦からアイデアを得てホルゲートがデザインした「クレージー・クリスクロス・ストライプ」というものだった。

さらにその配色も単なる白黒から、レースカーのヴァンテージGTEが採用していた目の覚めるようなグリーンへと変更されている。

サム・ホルゲートがデザインするカモフラージュは、同時にアストンであることをも主張する。

「この色がロードカーとサーキットモデルの双方に似合うことが確認出来ました」と、ホルゲートは付け加えている。

DBXの初期テスト車両ではヴァンテージと同じカモフラージュデザインが採用されていた。

だが、初めて「相応しい」プロトタイプ車両によるテストが始まると、「モデルの開発状況を示すために、カモフラージュに変化をもたらすというのは良い考えのように思えたのです」とホルゲートは話す。

そのために、ホルゲートはDBXというモデル名を、まるでオフロードタイヤのトレッドパターンのように配置したデザインを考え出している。

カモフラージュのデザインに厳密な法則などないことを彼は認めており、車両の真の姿を覆い隠すようなシャープなエッジやパターンといったものを創り出すだけだと言う。

「デザインの目的は視線をごまかすことにあります」と、ホルゲートは言う。

「タイルのようなパターンを創り出して、A0サイズのビニールシートに印刷するのです。これをクルマに貼り付けると、その大きさと特徴的なラインを無視したさまざまな角度の線によって、真のスタイリングをイメージすることはほとんど不可能になります」

スピードも重要

ホルゲートは通常こうしたカモフラージュのデザインを2次元で行うが、時には仕上がりを確認するため3次元イメージを使うこともあると言う。

こうして出来上がったビニールシートが車両に貼り付けられた後、パートナーのロゴやその他のデザイン要素が追加される。

カモフラージュをほどこすにはグリルは大きすぎた。

「パターンは非常に複雑にしたいのですが、簡単に展開できるものでなくてはなりません」と、ホルゲートは言う。

「テストを終えて工場へ戻ってくると、しばしばパーツの交換作業が発生するために、毎回新たなシートに張り替える必要があるのですが、パーツを交換したことが一目瞭然になるようなマネはしたくないのです」

作業に掛かるスピードも重要だ。テストや開発のための時間は限られており、アストンのテストチームは、複雑なシートが貼り終わるのをただ待っているようなマネはしたくないと思っている。

まるで彫刻のようなアストン マーティンのモデルでは、そのラインをごまかすというのが非常に難しいために、彼らは「より分かり難く」偽装を行うためのパーツとして、車両に貼り付けるスポンジ状のブロックも使用している。

ビニールシートはこうしたブロックの存在を分からないようにする効果も担う一方、照明類は法律上必要最低限な範囲を残してすべてカバーされることになる。

それでも、どうしても覆い隠すことが出来ない特徴というものは残るのであり、ホルゲートもその点は諦めているようだ。

完ぺきなカモフラージュ

「グリルを目立たせることから始めました」と彼は言う。「非常に隠すのが難しいからです。いくつかのデザイン要素を強調する一方で、他の部分は極力カバーするようにしています」

もうひとつの例が、リアワイパーを不要にするため、空気の流れをリアウインドウへと導くDBXのリアウイングだ。

カモフラージュを脱ぎ去ったDBXのスタイリングにひとびとは驚いたに違いない。

「公開までは秘密にしておきたいと思っていましたが、狙った効果が得られていることをテスターが確認する必要があったため、カモフラージュすることは諦めました」とホルゲートは話している。

「デザインと機能が求められる場合、人目に触れることも覚悟しなければならないのです」

アストンではDBXのカモフラージュデザインを何度かアップデートしているが、一度はカラーを赤に変更するとともに、ウェールズのレッドドラゴンをデザインに加えている。これは、このクルマが生産されることになる新セント・アサン工場を象徴するためだった。

さらにホルゲートは、同じカモフラージュでの目撃回数が増えると、ひとびとの注目度が下がることで、機会が生まれるようになるとも話している。

「ひとびとが同じカモフラージュを見慣れると、こっそりと新形状のバンパーといったものを試すことが出来るようになります」

カモフラージュの目的とは、最終的にDBXのようなニューモデルが公開された時にも、その新鮮さを失わないようにすることにある。

そして、もしホルゲートが彼の任務を完ぺきに果たしたとしたら、その真の姿とは誰も予想出来なかったものになるだろう。

こんな話をしていると、ツリーの下にある箱の中味はDBXのキーだと思うかもしれないが、大丈夫、ただのソックスだ。

番外編:独創のカモフラージュ

フォルクスワーゲンID 3

フォルクスワーゲンにとって重要な意味を持つEVハッチバックモデルの後期テスト車両には、大胆なブルーとレッドの偽装が施されていた。

最初にこのデザインが登場したのは、カモフラージュ柄のガラスボックスの中からだった。
>h3>ランドローバー・ディフェンダートヨタ・スープラ

新型ディフェンダーで使用されていたのは伝統的な「ゼブラ」パターンだったが、その正体がディフェンダーであることは容易に見抜くことができた。

カモフラージュの下に隠されているのが、巨大な「史上最高の4×4モデル」であることが明らかだったからだ。

トヨタ・スープラ

スープラのテスト車両が採用していたのは、トヨタのモータスポーツ活動を象徴する赤と黒、そして白のカモフラージュだった。

このデザインは去年のトヨタの包装紙にも採用されている。