Googleがソーシャルメディアアプリのファイヤーワーク(Firework)の買収を検討していると、ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)が10月4日に報じた。TikTok(ティックトック)の台頭に対抗する動きだと捉えられている。

3月にローンチしたばかりのファイヤーワークは、カリフォルニア州レッドウッドシティのループ・ナウ・テクノロジーズ(Loop Now Technologies)によるアプリだ。直近の資金調達ラウンドでは1130万ドル(約12.3億円)を集め、その時点で1億ドル(約108.7億円)の価値が付けられている企業だ。ファイヤーワークに興味を持っていると報道されている企業はGoogleだけではない。中国におけるTwitterとされるWeibo(微博)もまた、ファイヤーワークに興味を示しているが、Googleの方が交渉は先に進められているようだと、ウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。

先日、米Digidayの取材に応じたループ・ナウ・テクノロジーズの共同ファウンダーでありCEOのヴィンセント・ヤング氏は、報道内容に関して直接的なコメントはしなかった。しかし、「ここ数カ月のあいだに、買収や投資の可能性に関して、ベンチャーキャピタルやビジネス戦略関連の企業からの問い合わせが増えてきている。ファウンダーのひとりとしては、これらの潜在的パートナー関係がどのような形を取ることができるのか、我々の投資形のために探りたいと思っている。何らかの契約を発表するようなステージにはまだ到達していない。しかし、大きな動きをもうすぐ起こそうとしている」と述べた。

ファイヤーワークとは何か



ファイヤーワークとは、無料のスマートフォン向けアプリだ。30秒のホームメイドの動画を制作、シェアすることができ、ほかのユーザーによる動画も視聴できる。ファイヤーワーク・オリジナルのコンテンツも存在する。TikTokと同様、ファイヤーワークもユーザー向けに動画をキュレーションして紹介している。人間と機械学習によるキュレーションを通して、ユーザーの興味に基づいたコンテンツを紹介するという。動画はコンテンツの種類やトレンドとなっているトピックといったカテゴリーで分類されている。

ユーザーによるコンテンツのシェアを促すために、ファイヤーワーク上でユーザーは、ほかのユーザーによる動画を集めて、ファイヤーワークもしくはほかのプラットフォーム上で再投稿できるようになっている。そして毎週、スポンサードのハッシュタグ・コンテストが開かれる。ユーザーたちは関連した動画コンテンツを制作して、社会問題チャリティのための支援金を集めたり、自分のものとなる賞金を獲得することができる。

ファイヤーワークではユーザーは匿名でコメントを付けることができない。この種のコミュニケーションは、対話形式のダイレクトメッセージに取って代わられた。

なぜ、ポテンシャルのある買収案となったか



ファイヤーワーク買収によってGoogle、もしくはWeiboは、15秒から60秒の短い動画コンテンツという急成長を見せている市場に、より深く切り込むことができるだろう。動画コンテンツはすべて、モバイルでシェアされる。

特にGoogleにとっては、ファイヤーワークをポートフォリオに含むことで、YouTubeを含む彼らの動画ベース・コンテンツ・プラットフォームの幅を広げることになる。Googleは2006年に16億5000万ドル(約1794億円)でYouTubeを買収した。現在、YouTubeの月間ユーザー数は19億人を越えており、世界最大のオンライン動画プラットフォームとなっている。アナリストたちの推計では、YouTube単独でGoogle親会社のアルファベット(Alphabet)の年間広告収益の20%を生んでいるという。

しかし、TikTokやファイヤーワークといった新規サービスは、人々の注目と人気を集めている。特にブランドやメディア・パブリッシャーにとっての魅力を増しつつある若いユーザーのあいだで人気だ。2月にTikTokが米国のエージェンシーたちに送った売り込み用素材では、アメリカで月間平均ユーザー数が2650万人、そのうち60%が16歳から24歳となっている。TikTokの報告によると、ユーザーは平均で1日に8回アプリを開き、1日に46分、アプリで時間を費やすという。

TikTokを所有しているのは、北京を拠点とし、ソフトバンク(SoftBank)が支援する、75億ドル(約8157億円)の企業価値があるという、バイトダンス(ByteDance)だ。この6月には、彼らが所有するアプリ群全体で、10億人のアクティブユーザーを持っていると発表した。そのなかでも、TikTokがもっとも人気のアプリとなっている。マーケットリサーチ企業センサータワー(Sensor Tower)によると、2019年9月の段階で、TikTokは6000万回以上のインストール数で、世界で2番目に多くダウンロードされている非ゲームアプリとなっている。

TikTokとファイヤーワーク以外にも、新規プレイヤーは存在する。短い動画プラットフォームというマーケットは、ほかの大手メディア企業たちの興味も集めている。11月にはFacebookは静かに、TikTokのクローンアプリ、ラッソー(Lasso)をローンチした。最初に短尺動画フォーマットで人気を集めたアプリのひとつ、Vine(ヴァイン)のクリエイターのひとりであるドム・ホフマン氏は、バイト(Byte)という新しいループ動画アプリのβ版をテストしている。Snapchat(スナップチャット)もまた、TikTokやその他のアプリが持っている動画ループ機能を真似するような機能をプラットフォーム上で増やしている。

GoogleやWeibo、そしてFacebookやSnapchatといった大手プラットフォームにとって短尺動画プラットフォームは、買収するか自分たちで構築するか、という問題となっている。

ヒュージ・グローバル(Huge Global)のCEOであるピート・スタイン氏は、Googleがファイヤーワーク買収を検討しているのは、ふたつの理由のうちどちらかだろうという。ひとつはファイヤーワークが有する、横と縦のデュアル動画技術を手に入れること、もうひとつはFacebookがインスタグラム(Instagram)を買収したのと同様に、台頭する競合他社を買ってしまう、ということだ。



「多くの人は、ほかのプラットフォームからの動画をYouTubeに再投稿するだろう。そのため、GoogleはYouTubeの利用率が上がる、もしくはファイヤーワークの動画アップロードが増える、どちらかが起きるだろう、というのが私の想像だ。特にZ世代とミレニアル世代の多くは、古い動画をまだYouTubeにアップロードしている。Vineの動画ですらYouTubeに投稿されている。Googleは異なるプラットフォームごとの人気度を見ることができ、数字が変わりつつあるのも彼らは確認しているのではないか」と、スタイン氏は言う。

ループ・ナウのCEOであるヤング氏は、特にファイヤーワークが「ここ2〜3カ月のあいだに多くの注目と興味を集めている」と語る。これはTikTokによって生まれた話題性が主な理由とのことだ。「アメリカの企業たちは目が覚めたと、私は思う。以前であればアメリカの人々は『YouTube、Snapchat、インスタグラムがあるし』と、それほど気にしなかった。しかしいま、人々はTikTokがどれだけ市場を席巻しているか、気づきはじめていると思う」。

ファイヤーワークのユーザーたち



ヤング氏によると、ファイヤーワークのオーディエンスの約80%は18歳以上であり、アプリは300万ダウンロード回数に近づいているという。ファイヤーワークの平均セッション時間は7分。比較すると、インスタグラムの場合は平均セッションは2分、Facebookはたったの90秒となっている。

ローンチ時のプレスリリースでは、ファイヤーワークは「β版でありながら5カ月で100万人のユーザー数を獲得した、もっとも成長が早いソーシャルメディアアプリであり、四半期比較で200%以上の成長を見せている」と述べている。しかしこれらのユーザーの属性構成に関するデータは何も明かさなかった。センサータワー(Sensor Tower)によると、アプリは8月に約5万回のダウンロード数を記録している。

ファイヤーワークのブランドパートナーには、リファイナリー29(Refinery 29)、Amazonミュージック(Amazon Music)、ファンダンゴ(Fandango)、NBCユニバーサル(NBC Universal)、そして中国テクノロジー企業のDJIが含まれる。ファイヤーワークに早い段階で取り組んだタレントにはVineの人気クリエイターであるマーロン・ウェブ、セレブリティのフランキー・グランデ、YouTubeコメディアンのダング・マット・スミス、そしてモデル・インフルエンサーのオリビア・ジョーダンなどがいる。

ファイヤーワークの収益



ヤング氏によると、ファイヤーワークの収益モデルは3つの異なるモデルから構成されるとのことだ。まず、広告。YouTubeのインスタースティシャル広告の使い方と類似するだろう。次に、スポンサードチャレンジやハッシュタグ、そして最後にeコマースだ。

スポンサードチャレンジとハッシュタグとは、ブランドがチャレンジや特定のハッシュタグを企画してファイヤーワークと一緒にキャンペーンを組むというもの。ユーザーたちはこのハッシュタグを使ったコンテンツをアップロードするように促される。チャレンジの優勝者に選ばれたユーザーは、何らかの賞品を受け取り、スポンサーブランドはユーザーのエンゲージメントやインプレッションを得る、といった具合だ。

ファイヤーワークのeコマース計画に関して、ヤング氏は「最終的にはファイヤーワーク上で購入ボタンをローンチできるよう、多くのeコマースプラットフォームとのパートナーシップに取り組んでいる」と語った。これによってファイヤーワーク動画で目にしたプロダクトをユーザーが購入するのを容易にするためだ。

アプリの創業者たち



ループ・ナウは、LinkedIn(リンクトイン)とSnapchatの元エグゼクティブたちによって創始された。ループ・ナウ最高収益責任者のコーリー・グレニア氏はSnapchatのセールスとマーケティングの最初のディレクターだった。共同ファウンダーかつCEOのヤング氏は人工知能によってサポートされた、セールスとマーケティング・プラットフォームであるエバーストリング(EverString)の共同ファウンダーでありCEOを勤めていた。

今年前半に行われた資金調達ラウンドでは、IDGキャピタル、ライトスピード・ベンチャー・パートナーズ中国(Lightspeed Venture Partners China)、そしてGSRベンチャー(GSR Venture)といったベンチャーキャピタル企業たちから3000万ドル(約32億円)を集めた。

ファイヤーワークは、ほかと何が違うのか



初期段階であるファイヤーワークは、競合他社のサービスとそれほど違っているようには見えないものの、特許申請中の独特な機能、リビール(Reveal)を持っている。縦・横方向をシームレスに切替可能な動画コンテンツの撮影と視聴ができるというものだ(上記動画を参考)。Snapchat、インスタグラム、TikTokといった、ほかのプラットフォームでの縦方向フォーマットと異なる形だ。

「リビール技術は、プロのクリエイターたちによって作られた横方向のコンテンツとモバイルにおける縦方向コンテンツとのあいだを埋める助けとなる」と、ヤング氏は解説する。横方向で撮影された動画はそのまま縦方向、横方向どちらのフォーマットでも問題なく、ファイヤーワークで表示されることができる。それによってコンテンツの動画クオリティが損なわれることもない。

今年前半、ファイヤーワークは自社のオリジナルストリーミングコンテンツ・プラットフォーム「ファイヤワーク・オリジナルズ(Firework Originals)」をローンチした。ファイヤワーク・オリジナルズの最初のシリーズは女優でコメディアンのモリー・ターロブ氏による「ファイヤーサイド・チャット・フィーチャリング・モリー・ターロブ」だ。このシリーズでは有名人を15秒のセグメントに区切ってインタビューする。ほかのシリーズには「エクストラ・ファイヤー・ソース(Extra Fire Sauce)」、「フーズ(FOODz)」、そして「スタイル・セクター(Style Sector)」などがある。

高クオリティと大人のユーザー向けのプロ制作のコンテンツにフォーカスすることで、競合他社との差別化を行っていると、ヤング氏は言う。またコンテンツ内容もセルフィー形式よりも、ハウツーものであったり、インスピレーションを与えるものに偏っている、とのことだ。

ファイヤワークにとっての次のステップ



最終的には、ファイヤワークが「短尺形式の動画にとってのYouTube」になることが目標だと、ヤング氏は言う。

「たくさんのユーチューバーがファイヤワークを使っている。我々はYouTubeの競合ではない」と語る。10分以下の作品を観るような短い時間ができたときに、人々がファイヤワークにやって来ることを期待しているとのことだ。より長い時間を費やすときは、Netflix(ネットフリックス)やYouTubeを見るようにと、ヤング氏は説明した。

「いま、ちょっとした瞬間の隙間時間がたくさん存在しているが、ファイヤーワークはそんな時に10分でより楽しめるテレビチャンネルのような存在になることを期待している。全世界で展開される大きなソーシャルメディアプラットフォームになりたいが、ちゃんと他と違っているものでありたい」。

Deanna Ting(原文 / 訳:塚本 紺)