演説がうまいと感じさせる人とそうでない人は、何が違うのか。事業戦略コンサルタントのリップシャッツ信元夏代氏は「人に注意を向けさせるには、『間』を効果的に使うこと。上手な人は『えー』といった不要な言葉を使わず、心の中で3秒数えている」とアドバイスする――。

※本稿は、リップシャッツ信元夏代『20字に削ぎ落とせ ワンビッグメッセージで相手を動かす』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。

写真=AFP/時事通信フォト
2018年9月7日、米イリノイ州で演説するオバマ前大統領 - 写真=AFP/時事通信フォト

■“間”とは「聞いたことを消化する」大切な時間

スピーチをする時、緊張しているとやりがちなのが、スピードが速くなる、間を取らずにどんどん先に進んでしまう、という傾向です。聞き手とのキャッチボールをするためには、効果的な「間(ま)」が必要です。

間を取る理由は主に3つあります。

最も重要な理由は、聞き手にしっかり受け取ってもらいたい重要なメッセージを言った時に、聞き手に重要なメッセージを腹落ちさせてあげるという役割です。今言ったことを消化してもらうために時間を取るわけです。せっかく重要なメッセージを伝えたのに、すぐに先に進んでしまっては、そのメッセージは聞き手の心に深く届く間もなく、忘れ去られてしまいます。

2つめは、これから変化が訪れる時です。

次のシーンで何かが起こる前ぶれとして、ちょっと間を取ると効果的です。特にストーリーを語っている際、シーンが変わる箇所があることでしょう。そんな時、意識をして間をあけてみてください。

ただし、間は休憩時間ではありません。間を取ることでさらに聞き手の注目を引くことが目的です。ですから、間を取っている間も、目線は聞き手にしっかりと向けて集中し、エネルギーを持続させるよう留意しましょう。

3つめは、相手からの反応をしっかりと受け止めるためです。スピーチの最中、予期せぬところで聞き手が反応することもあるでしょう。笑いが起こったり、拍手が続いたり、驚きでざわついたり。そんな時は、急いで次に進まず、聞き手の反応が静まる直前くらいまで間を取って、じっくり反応させてあげましょう。

■オバマ氏の演説がうまく耳に入る仕掛け

せっかく聞き手が反応しているのに次に進んでしまっては、出鼻をくじかれたように感じて、聞き手とのキャッチボールの機会を失ってしまいます。聞き手が笑ったり、拍手をしたり、あるいは驚いたりした時には、間を取ることで共感させてあげる役割があります。

間の取り方といえば、オバマ元大統領がその達人でした。彼のスピーチは間の取り方、変化のつけ方が抜群にうまかったのです。

たとえばオバマ大統領が決めゼリフをいって、そこにドッと観衆がわき、拍手をする。

そこで彼は間を取って、観衆が拍手をしたり、声をあげたりする時間を与えるわけです。

逆に、観衆の反応が少なかった時でも、ここが重要ポイント! というようにしっかりと間を取ると、逆に観衆から反応を引き出せるのです。話し手であるオバマ元大統領も間を取ることで、とても自信に満ちて、その場をコントロールする余裕があるように映っていました。

このように「間」をコントロールするテクニックは、グッと話し手のレベルをアップさせます。

■話し手が考えているほど沈黙は長くない

といっても、スピーカーにとっては、間を取ることは非常に勇気がいります。たった3秒くらいの沈黙でも、スピーカーにとっては非常に長く感じ、不安になったりあせったりするものです。

ある時セミナーで公開個人コーチングをした際に、クライアントに間を取るようにアドバイスしたのですが、一瞬間があいただけでまた先を急いでしまいました。再度指摘すると、ご本人は、「今ものすごく間を取りました!」とおっしゃいます。

しかし他のセミナー参加者に尋ねてみると、全員口をそろえて、「全然間がなかった!」と答えました。

間を取ることになれないと、話し手にとっては、永遠に続く心地悪い沈黙のように感じられますが、聞き手にとっては、実はちょうどいい長さなのです。思い切って、心の中で3秒数えてみてください。

聞き手にコンセプトを理解してもらいたいとき、何らかの反応を得たいとき、考えてもらいたいときなど、つぎに移行する前に、しっかりと「間」を取る工夫を取りいれましょう。

■「えー」「あのー」とついつい発していないか

いろいろな挨拶やプレゼン、あるいは結婚式のスピーチの出だしで「えー」をつけるケースをよく聞きませんか。

「えー、本日の議題ですが」
「えー、本日はお日柄もよく」

こうした「えー」は、口にした本人すら意識していないケースが多いものです。

「あー、えー、えっと」「えーと、その」などの「不必要な言葉」は耳障りですが、自分でも気づかぬうちに口にしていることが多いのです。このような意味のない「えー」をつける癖を止めましょう。この「えー、あのー」を減らすだけで、非常に話が聞きやすくなる、スピーチがうまくなるのです。

こうした必要ない言葉を、英語では「(フィラーワード)」といい、埋めたり、詰めたりするための「意味がない言葉」とされます。こういう「要らない意味のない言葉」は極力なくしていきましょう。

人は次に何を話していいかわからない時に「えー」「あのー」といった言葉で、間をつなごうとします。沈黙となってしまうのを恐れて、意味のない言葉でつなごうとするわけです。この「えー、あのー」症候群を克服するために、つぎの3つのステップを試してみましょう。

■誰かに数えてもらうと「意外に多い……」

1.発していることに気づく

まず自分が「要らない」言葉を発していることを自覚する必要があります。

私が所属しているスピーチの団体、トーストマスターズでは、ある人がスピーチをする間に、フィラーワードを数える係がいます。そして終わった時に、「今のスピーチで、『えー』は4回、『そのー』は3回ありました」といったように報告します。

これは実際に体験すると、自分では無意識でやっていることなので、驚きます。私自身も最初は無自覚にやっていたので、自分がそんなに「えー」だの「あのー」だのといっていたことにショックを受けました。

つまり気づくためには、誰かに聞いてもらう、あるいは録画、録音して客観的に聞いて初めてわかることなのです。「えー、あのー」症候群を克服するためには、まずこの「気づく」というステップが重要なのです。

2.発する直前に気づく

今までは無意識にフィラーワードを発していたことに気づいたら、つぎは「発する直前」に自覚できるようにしましょう。「あ、出そうだな」「いってしまいそうだな」と自覚できるようになったら、しめたものです。次にフィラーワードをいわないコツに進みます。

■上や下を見てキョロキョロしない

3.間を取る

フィラーワードが出そうになる瞬間に気づいたら、飲みこんでください。つまりそこで間を取る、ということです。間を取るのは恐いですが、思い切って間を取ってみましょう。

そしたら「間」だらけになるんじゃないのか、と心配するかもしれませんね。でも話し手が取っている間は、聞き手にとっては間が空いているなと感じるものではなく、それほど心配することはありません。

ただし、人は考える時につい上を見るものです。次の言葉を探そうとして上を見てしまったり、時には下を見たりする人もいます。でも、上にも下にも原稿は落ちていません!

伝えたいメッセージは自分の中にあります。練習した自分を信じて、しっかりと間を取って、自分の中から言葉を引き出していきましょう。

スピーチ最中にフィラーワードを言いそうになる直前に、気づくようになり、不必要な言葉が出そうになったら、少しの間を取ること。この練習をすると、大きな効果があります。

フィラーワードは完全にゼロにしなくてもよいですが、少なければ少ないほど、聞いている人の耳には聞き取りやすくなります。

■上達にはずばり“録画する”しかない

スピーチ/プレゼンの練習をする上で一番効果があるのは、ずばり録画をすることです。

「鏡を見て練習をしています」という人もいるかもしれませんが、鏡を見て練習するのはNGです。なぜかといえば、誰も本番では自分の姿を見てスピーチをしないからです。本番では観客を見るわけで、本番では絶対に見ない鏡に映った自分の姿を見て練習するのはある特定の箇所の表情を確認する場合以外は、役に立ちません。

それより聞いている側からどう見えているかをチェックするためには、録画がもっとも正確です。聞き手の立場に立って、自分がどう話しているか、録画が一番正確に教えてくれます。

録画ひとつで効果絶大です。そして録画したものを3通りの方法でレビューしましょう。

1.そのまま見る
まずそのままの状態で自分を見てみましょう。それが、聞き手が見ているあなたの姿そのものです。
2.音を消して見る
音声をなくすことで、動きだけをチェックすることができ、無意味な動きの癖がわかります。2倍速で見てみるのも動きの癖がさらによくわかります。
3.音声だけ聞いてみる
映像をなくすことで、抑揚のつけ方や、フィラーワードなどの癖がわかります。声の調子が一辺倒だったり、重みが違ったりといったことが、音声だけにすることでよくわかるようになるのです。

■恥や苦痛をしのんでこそ上達の第一歩

「そんなのはイヤだ、自分が話している姿を録画して見るなんて、耐えがたい」と思う方も多いでしょうが、それがふつうですから、ご安心ください。

リップシャッツ信元夏代『20字に削ぎ落とせ ワンビッグメッセージで相手を動かす』朝日新聞出版

私が所属しているスピーチクラブで、スピーチを練習している方であっても、「録画しましょう」というと、とたんに怖じ気づいて、「いやいや、まだ私では早いので」「録画は勘弁してください」と後ずさりするものです。スピーチを学ぼうとする人でも自分の録画を見るのがイヤなのが、ふつうなのです。

全米プロスピーカーである私であっても、毎回練習のために録画して、それを見るのは耐えがたいし、苦痛なのです。それでも録画をして、その録画を少しずつ見て、「この言い方が違うな」「ここの動きが悪いな」と感じたら、また違うやり方をやってみたり、話し方を変えてみたり、試行錯誤を繰り返します。

どんな人にとってもイヤなほど、心理的ハードルが高いのが録画です。つまり練習を録画してビデオを見るという、その関門を超えられたら、上達への第一歩となるのです。

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リップシャッツ 信元 夏代(りっぷしゃっつ・のぶもと・なつよ)
事業戦略コンサルタント、認定スピーチコーチ、プロフェッショナルスピーカー
事業戦略コンサルタント、認定スピーチコーチ、プロフェッショナルスピーカー1995年早稲田大学商学部卒業。ニューヨーク大学スターン・スクールオブビジネスにて経営学修士(MBA)取得。伊藤忠インターナショナル・インク(NY)、マッキンゼー・アンド・カンパニー(東京)を経て、2004年に事業戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンスを設立。ニューヨークに在住し、調査分析、戦略設計、及びグローバルリーダー育成のための各種企業研修を提供している。2019年トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテストで世界トップ100入りを果たす。日本人で唯一のWorld Class Speaking認定講師。英語著書にブライアン・トレーシー氏との共著『The Success Blueprint』(Celebrity Press出版)がある。
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(事業戦略コンサルタント、認定スピーチコーチ、プロフェッショナルスピーカー リップシャッツ 信元 夏代)