(PANA=写真)

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意中の女性へプロポーズしたら、彼女の黒目が右へ動いた。さて、彼女の本心は? 表情、しぐさは雄弁だ。その意味をマスターすれば、相手の深層心理が手に取るようにわかるのだ。

■入国審査官の機密手法をビジネスに応用

入国管理局には特別審理官といって、空港などで日本への入国の可否を審理する専門官がいる。私は彼らに人の表情やしぐさを解読する技術を教えているのだが、オウム真理教の逃亡犯・高橋克也の逮捕劇は、人間観察のプロとして非常に興味深いものであった。

逃亡の途上、信用金庫のカウンターで預金を引き出す様子が公開されたが、このとき高橋容疑者は極めて特徴のあるしぐさをしていた。握りしめた両方の拳を、カウンターに伏せていたのである。

高橋容疑者は時間がかかることに激昂していたそうだが、興奮状態にある人間は拳を垂直にしてカウンターを叩いたりするのが普通であり、あの拳の乗せ方は明らかに不自然であった。「あれは指紋を隠そうとしていたのだ」と見なす人がいるかもしれないが、指紋を隠すためなら、握りしめた拳を垂直に乗せてもかまわないはずである。

人間は強い恐怖感に襲われると、逃走の準備のため、体中の血液を両足に集中させる。その結果、体の末端の血流が少なくなって震えがくる。真っ先に震えるのが指先なのだ。つまり高橋容疑者は、恐怖による指先の震えを必死に隠そうとして拳を伏せていたのである。

また、高橋容疑者が働いていた職場の同僚は、彼には「頭の後ろに手をやる癖」があったと証言しており、防犯カメラもそのしぐさを捉えていた。これは「転移動作」のひとつであり、「もどかしい状態」にあることを示している。高橋容疑者の17年におよぶ逃亡生活がもどかしさに満ちていたことを象徴するものだろう。

数多くの目撃情報が寄せられたにもかかわらず、警察は高橋容疑者の逮捕にてこずった。手配写真や青いバッグを購入したという情報が先入観となって、「生身の人間を見る目」を曇らせたのだろう。

人の表情やしぐさからその人の本心や置かれた状況を見抜く能力を、SIQ(Social Intelligence Quotient=社会的知能)と呼ぶ。SIQの高さはセールスや交渉の場面でも有効に作用する。事例を示しながら、表情としぐさの解読法を解説していくことにしよう。

■「重要な質問に返答する直前」がポイント

少々難しい言い方になるが、人間の特定の心理状態と関連している非言語的なシグナルのことをNVC(Non Verbal Communication)と呼ぶ。NVCにはさまざまなものがあるが、レオナルド・ダ・ヴィンチの最高傑作「モナ・リザ」はそのほとんどを見事に網羅している。

まず、モナ・リザの体の向きに注目してみると、胴体は向かって左側を向いており、頭部(顔)は正面を向いている。一方、目に注目してみると、向かって右側を向いている。つまり、モナ・リザはひとりの人間でありながら、同時に三方向を向いていることになる。

つまりモナ・リザが描かれたアトリエには、ダ・ヴィンチを含めて3人以上の男性がいた可能性が示唆されるのである。モナ・リザは、同時に三方を向くことで3人のいずれとも心理的な「結びつき」を保っているのだ。

また、左側の口角をわずかに上げた微笑は相手への好意を示し、体の正面で組まれた両手は若き女性の芳醇な胸のふくらみを強調しているようだ。

私は、モナ・リザはダ・ヴィンチの自画像であると推理している。実際、ダ・ヴィンチの自画像を反転させてモナ・リザに重ねると、口角の一部を除いてピタリと重なり合うのだ。男色家だったダ・ヴィンチはサライに想いを寄せていたが、若いサライにふさわしいのは老いた自分ではなく、モナ・リザのように若く美しい女性である。サライへの想いと老醜からくる嫉妬心をひとりの女性の肖像画に同時に託したのが、名画「モナ・リザ」なのではないか。

ともあれ「モナ・リザ」は人と人を結びつける表情・しぐさ=NVCのチャネルを余すところなく表現しているという意味でも、名画中の名画であると言っていいだろう。そして、「目は口ほどに物を言い」と言う通り、NVCの中でも目の動きは特に重要なものである。

目の動きから相手の本心を探ろうとする際のポイントは、「肺肝を衝く問いかけ」をして、それに相手が「返事をする直前の目の動き」に注目することである。

肺肝とは、読んで字の如く「肺や肝のような体の奥深く」を意味する。つまり、「肺肝を衝く問いかけ」とは心の奥底にズシンと響くような質問という意味だ。そんな重い問いかけをされて返答する直前の目の動きは、正直に本心を反映してしまうのである。たとえば……。

「あなた、A子と浮気してるでしょう」
「ま、まさか、そんなはずないだろう」

こう答える直前の夫の目が左斜め下を向いたら、「感情的に困惑している」証拠だ。口では否定しても、図星を指されて「参ったな」というのが夫の本心である。

あるいは商談の場で、

「500万円でどうでしょうか」

とクロージングにかかったとき、

「うーん。持ち帰って検討します」

と言う直前に相手が視線を真下に落としたら、これは「服従」のサインだ。500万円という価格で押し通して問題ない。反対に、相手の目が真横に動けば「拒否・拒絶」のサインだから、もう少し値下げをするか、交渉をご破算にする以外に道はないということになる。

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●黒目の方向別に7つの意味がある
・上――無心
・右、左――拒否
・下――罪悪感or服従
・右上――作為
・左上――追憶
・右下――当惑(理性)
・左下――困惑(感情)
※相手の目が斜め右下に動いたら「当惑」。理屈のうえで困った場合である。斜め左下は「困惑」。感情的に受け入れられない場合だ。

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(表情分析アナリスト 工藤 力 写真=PANA)