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令和7年9月に総務省統計局から発表された「統計からみた我が国の高齢者」によると、総人口に占める高齢者の割合は29.4%で、過去最高となったそうです。そんな中で明治大学教授である齋藤孝さんは、「長老と老害は紙一重。年齢を重ねたら、知恵や経験を生かして周囲に貢献する<長老力>を発揮し、老害とならないことが大切」と語ります。そこで今回は齋藤さんの著書『長老力 老害と呼ばれない人になる!』より一部を抜粋し、人生後半の成熟の流儀をお届けします。

【書影】慕われ、頼られ、愛される 人間力の磨き方と響かせ方。齋藤孝『長老力 老害と呼ばれない人になる!』

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若さに巻きこまれる力

高齢者だけで集まり、互いに経験談を交換しあうだけでは閉じた世界になりやすく、長老としての役割を十分に果たすことはできません。やはり若い人とかかわることが大切です。

私がまだ30歳前後で市民大学の講師を務めていたころ、その教室には若い受講生のなかに定年退職した男性がいて、最初は少し緊張関係のような空気が流れていました。年長者は自分の経験を武器に語ろうとし、若い人たちはそれを受け入れきれず反発する──そんな構図です。

やがて打ち解けていくにつれ、年長の受講生は若者の意見を聞き入れるようになり、若い世代に対する見方を変えていきました。

その際に大切なのは「距離感」です。

拒絶するのでもなく、無批判に同調してしまうのでもなく、一定の間合いをとりながら、やわらかくかかわっていく。そうして少しずつ若い人の流れに巻きこまれていくと、「若い人というのも悪くないな」と感じる瞬間が訪れます。

「最近の若者も、なかなか筋の通った考えを持っているな」「自分と似た考えをするものだな」「人間の本質は世代が違っても変わらないな」──そう気づいていくのです。

若い人は未来そのものです。

その未来に対して、否定的な姿勢で向きあうのは健全ではありません。

長老になったら、批評眼は控えめにすることです。

年齢を重ねたからこそ、否定よりも肯定を優先できるのではないでしょうか。

自己を確立することにこだわらない

若いころというのは、自己を確立しなければならないという焦りがあるため、どうしても他者を否定することで自分の立場を守ろうとします。

長老の段階に至ると、もはや自己を確立することにこだわる必要がなくなります。自分に固執することが無意味に思えてきます。すると自然に、他者を否定する理由も消えていくのです。

年齢を重ねてもなお他者を否定しつづけるのは、大人げない。つまり、長老としてふさわしくない態度だといえるでしょう。

若さが持つ力に巻きこまれる練習を重ねることで、長老力は磨かれていくのではないでしょうか。

そのプロセスは、若い人と適切な距離感を保ちながら、「いまはこんな音楽や漫画が流行っているのか」「自分もちょっと聴いてみようか」と、若い人の趣味や関心にいちおう触れてみること。ちょうど流れるプールに身を浮かべるようなものです。これが「若さに巻きこまれる力」のイメージです。

最初は「いまどきの音楽や漫画は受けつけない」と感じる方もいるでしょう。

けれども、慣れてくると「これは面白い」と思える作品に必ず出会えます。そこから若い世代と共通の入り口が開かれていくのです。

現代的な感覚にアップデート

若い人たちが夢中になっているものに自分から近づくと、感覚が少しずつ刷新され、自然に現代的な感覚にアップデートされていきます。そして自分自身のなかにも活力が湧いてきます。

私は職業柄、18歳から22歳の学生たちと40年近く接してきました。学生たちはよく「先生、いまこれが流行ってますよ」と新しい音楽や漫画をすすめてくれるので、私はその日のうちに確認して、次の授業では必ず話ができるようにしています。すると「先生、もう見てくれたんですね」と驚かれ、そこから会話が広がっていくのです。


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2年ほど前、K-POPアイドルグループのLE SSERAFIM(※1)をすすめられたときも、次の週にはメンバーの名前を覚えて、「カズハは、バレエをやっていたからやっぱりダンスがいいね」など語りあいました。こうしたやりとりは、学生にとっても「紹介してよかった」と思える体験になります。

※1 LE SSERAFIM(ル・セラフィム)=5人組のガールズグループ。メンバーは、韓国人2人、韓国系アメリカ人1人、日本人2人で構成されている。

若者の良い面を素直に受け取り、味わう

また、私は英語教師を目指す学生の授業も担当しています。そこで英語に自然に親しんでもらうため、授業の出席確認をとる際に自分の好きな英語の歌を紹介してもらうことにしました。

学生たちが紹介する曲は、テイラー・スウィフトなど比較的新しいものが中心ですが、たまにイーグルスの『ホテル・カリフォルニア』やビリー・ジョエル、マイケル・ジャクソンが出てくると、もう懐メロ扱いです。カーペンターズやビートルズとなれば、ほとんど古典の領域に入ります。

こうして、若い人がいまどんな洋楽を受け入れているのかを自然と学ぶことができますし、新しい曲を繰り返し聴いているうちに耳も慣れてくるのです。

ただし注意したいのは、若い人に迎合しすぎることです。

私はすぐに若い人の流れに合わせてしまう性格なので、時に学生よりもくわしくなり、驚かれてしまうことがあります。行きすぎると「気持ち悪い」と思われかねませんから、適度にとりいれるのが望ましいでしょう。

ポイント 若者の良い面を素直に受け取り、味わう

※本稿は、『長老力 老害と呼ばれない人になる!』(山と溪谷社)の一部を再編集したものです。