舞台となった「海喜館」の空撮写真(共同通信)

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 地主になりすまして他人の土地を売り飛ばし、カネを騙し取る--「地面師事件」と呼ばれるグループ犯罪は、 Netflixのドラマ『地面師たち』が大ヒットしたことにより注目を集めた。モデルになったのは2017年、積水ハウスが五反田の一等地に佇む老舗旅館「海喜館」をめぐり、地面師たちに55億円を詐取された事件である。

【写真を見る】地面師の“大物”として知られた北田文明のスキンヘッド写真。“パシリ”だったカトウも

「指示役」「なりすまし役」など様々な役職が存在する地面師グループ。ライターの河合桃子氏が取材した実行犯・カトウ(偽名)は逮捕当時、「連絡役」と報じられた男だった。その告白から事件の実態に迫った河合氏の近著『地面師連絡役カトウ』は、第32回小学館ノンフィクション大賞を受賞した。

 実刑判決を受けたカトウを含め総勢17名が逮捕された本件だが、うち7人は嫌疑不十分で不起訴となっている。不起訴になったうちの1人であり、過去に地面師事件での逮捕歴もある"大物"北田文明(現在別件で受刑中)にも、河合氏は事件について詳細に話を聞いていた。北田が語った「地面師になった経緯と理由」とは。【前後編の前編、一部敬称略】

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 積水ハウスが被害に遭った詐欺事件を描いた拙著『地面師連絡役カトウ』の主人公は、「指示役」と「交渉役」の中間連絡を担った中年男性のカトウだ。1977年早生まれの私と同学年のカトウだが、積水詐欺事件の共犯メンバーの中では最年少で、"ルーキー"的な立場だった。「連絡役」と仰々しく報じられたが、実際は指示役たちから言われた用事を済ませる"パシリ"のような動きをした者だった。

 カトウの指示役は、現在も服役中の土井淑雄である。交渉役のカミンスカス操(旧姓・小山)と連絡を取り合い、カトウは地主のなりすまし役の長谷川香織(仮名)を交渉現場に引き渡していた。彼らが獄中で「冤罪や無罪」を訴える言い分は拙著に詳しく書いたが、私が取材の過程で出会った人物として特に印象的だったのが、"大物"の1人、北田文明である。

 この界隈では、積水詐欺事件の主犯とされた内田マイクに並ぶ有名な地面師である北田。本件では不起訴処分となったが、私が関与について手紙や面会で尋ねると、「一切表には出ずに指示役と交渉役を繋ぎ合わせ動かした」「詐取金のうち10億円を手にした」という趣旨の内容を告白しており、その内容も拙書で詳しく記している。

 北田は過去にも一度、地面師事件で懲役6年の受刑歴がある上、金を詐取し逃げ切ったことも数知れないとされる。私は北田とは会ったことも話したこともないが、手紙のやり取りによる取材をしたい旨の手紙を送ると、2週間ほどで返事をくれた。

 積水詐欺事件をテーマに書いた作品をノンフィクション賞に公募する旨の手紙に対する返信は意外なものだった。「私の人生の汚点を正確に記した素晴らしい本を書き上げられることを期待します」としながら、取材協力するこんな理由も述べられていた(以下手紙の引用は原文ママ)。

《二十台の頃、自分で作った会社で、売れない週刊求人誌の巻頭からページを1台(16ページ)を企画から受けたり、いくつかの雑誌やMOOK本を書かせてもらいましたが、左脳が未発達の私には論理的なものはともかく、センスのある文章を書けないことに気付き、不動産の道に入ってしまいました。そんな私には文学賞に応募されるという河合さんは羨望の的です。河合さんの受賞に微力でも役立てれば幸いです。》(2025年4月11日消印)

 1959年生まれの北田は現在66歳であり、その北田が社会に出た当時の日本は安定成長期を経てバブル景気に向かう恵まれた時代だ。北田は国士舘大学を中退後に20代早々で編集プロダクションを起業したが、早々と転職を決めたという。その理由が以下のようなものだった。

《40年くらい前に、40ページくらいの原稿を書く仕事を頂いたことがありました。今と比べるとそれほど気温が高いわけではなかったのですが、当時は"死んじゃう‼︎"と思うくらい暑い夏でした。

 自宅で原稿用紙を広げ、2Bのシャープペンシルを持ったものの、原稿用紙には文字ではなく汗だけが記されていきました。初日はそれであきらめたものの、2日目も同じでした。これはダメだと、ペンを置き、イトウヨウカ堂までエアコンを買いに行きました(笑)。当然、その仕事単体では赤字になりますよね。その件から、夏は文字ではなく汗をかくだけにすることにしました。》(2025年10月12日消印)

 そうして北田が目をつけたのが不動産業界だ。当時は1986年に新設住宅着工戸数が130万戸を超えるなど、空前の住宅ブームだった。そこで不動産業に転じ、当初は純粋に仕事をこなしていたという。しかしバブルも弾け、次第に不動産が売れなくなる。そこで"生きていくために"不動産売買での詐欺を思いついたのだという。その当時をこう回想する。

《私が社会に出た時代はバブルまっ盛りの時。日本中の何割かの人達が「金に狂った」時代でした。その後、夢から目覚めた人とそのまま夢の中で生活し続けて、現実社会で失敗をした人に分かれていきました。私はもちろん後者ですよね。》(2025年6月10日消印)

 そして金融機関を悪用した融資詐欺の手口を綴った。金融機関に裏金を掴ませるという手口の詐欺で、一件につき詐取金は数百万円。それを何度も行ったとも書かれていた。だがそれも《3年くらい続けた頃、競売で金融会社が裁判に負けるように》(同前)なり、その度に次の新しいスキームを考えたという。それらは組織ぐるみではなく単独によるものだったという。《私には常に師匠はいなく、一人でお酒を飲みながら仕事を作ってきました。》(同前)

 話題になったNetflixのドラマ『地面師たち』の豊川悦司が演じたリーダー役のハリソン山中は、劇中で「冷徹な完璧主義者」だった。私には北田にそれに近いものを感じた。それは「悪い事をする時は完璧な仕事をしないといけない」「ミスがあれば誰もフォローしてくれないから」とした上で、このような一文が書かれていたからだ。

《私は銀行の業務、司法書士の業務、法務局の職員の要務を直接本人達に聞いて勉強していますので、実務レベルで相手のミスを誘うことを考えながらスキームを考えます。》(同前)

 そして、ハリソン山中が劇中の所々で土地や酒に関して講釈を垂れるように、その"スキーム"の構築法をこう語ったのだ。

《クラブで女の子と笑いながら頭の中で違うことを考えていますね。思いつくのではなく、ゴールからルートを見つけ出します。ゴルフでパー5(5打でボールをカップに入れる)のホールなら、最後のパターはどこから打てば確実に入るのか。次にそこにボールを置くために、その前のクラブは何を持って、どこから打った方が良いのか。これを第一打まで遡ります。これと同じことを仕事で考えるのです。》(同前)

 そうして、なぜ地面師になったのかと問うと、悪びれもなくこのように答えるのだった。

《地面師と呼ばれる人々。私が直接知っている人は10人くらいだと思います。そのほとんどが、元々不動産ブローカーです。不動産ブローカーは契約できれば大きなお金を手にできます。しかし昔から「千みつ屋」と言われ、1000回のうちに3回しか契約できない、不安定な仕事です。ということで、ただただお金が欲しくて地面師になった人ばかりです。》(2025年5月23日消印)

 自分が詐欺師になった経緯を淡々と綴る北田。カトウや他の地面師もそうだが、地面師たちには犯罪に対する罪悪感があまり感じられない。北田は、地面師として人を騙すことに抵抗がなくなっていった旨も、率直に打ち明けたのだった--。

(後編記事につづく)

【プロフィール】河合桃子(かわい・ももこ)/1977年、東京都生まれ。ライター。週刊誌を中心に執筆。幅広く取材活動を行なっており、特に性風俗にまつわる事件などアングラな業界を長年取材している。積水ハウス55億円詐欺事件の実行犯を取材した『地面師連絡役カトウ』(6月18日発売)で、第32回小学館ノンフィクション大賞を受賞。