「面倒を見るって言ったじゃない…」〈年金月10万円・貯蓄60万円〉83歳母、息子との同居に涙した2ヵ月後に聞いた“冷たい一言”
高齢の一人暮らしでは、生活費だけでなく、日々の不安も大きくなります。買い物、通院、家事、体調不良時の対応。年齢を重ねるほど、身近に頼れる人がいるかどうかは暮らしの安心に直結します。
「これで一人じゃない」…息子の言葉に救われた83歳母
房枝さん(仮名・83歳)は、月10万円ほどの年金で一人暮らしをしていました。
夫に先立たれ、築古の賃貸アパートで一人暮らし。貯蓄は約60万円。家賃、光熱費、食費、通院費を払うと、毎月ほとんど手元には残りませんでした。
「贅沢なんてしていません。食べるものも安いものばかりでした」
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得が月11万8,465円、消費支出が月14万8,445円となっており、平均では毎月赤字です。房枝さんの年金月10万円は、この平均可処分所得を下回る水準でした。
そんな房枝さんに、長男の雅也さん(仮名・55歳)が声をかけました。
「母さん、一緒に暮らそう。面倒を見るよ」
雅也さんは離婚後、都内近郊の賃貸マンションで一人暮らしをしていました。収入は不安定でしたが、「一人で置いておくのは心配だ」と言ってくれたのです。房枝さんは、その言葉に涙が出たといいます。
「やっと安心できると思いました」
引っ越しの日、房枝さんは小さな仏壇と衣類、通帳だけを持って息子の部屋へ移りました。家賃を一人で払わなくてよくなり、夜に何かあっても息子がいる。そう思うだけで、心が軽くなったといいます。
最初の数週間は穏やかでした。
雅也さんは買い物に付き添い、病院にも一度だけ一緒に行ってくれました。房枝さんは、できる範囲で食事を作り、洗濯や掃除も手伝いました。
「迷惑をかけないようにしようと思っていました」
しかし、同居から1ヵ月ほど経つと、少しずつ空気が変わっていきました。雅也さんは、生活費として房枝さんの年金から毎月8万円を入れるよう求めました。
「一緒に住むんだから、それくらいは当然だろ」
房枝さんは戸惑いましたが、家賃や光熱費を考えれば仕方ないと思いました。
それでも、手元に残るのはわずかです。薬代や通院時の交通費を払うと、自由に使えるお金はほとんどありませんでした。
「俺だって余裕ないんだよ」…同居後に見えた息子の本音
同居から2ヵ月ほど経った日のこと。房枝さんが、通院費のために少しお金を残しておきたいと伝えると、雅也さんは不機嫌そうに言いました。
「俺だって余裕ないんだよ。面倒を見るって言っても、全部タダでできるわけじゃない」
房枝さんは、胸が冷たくなるのを感じました。「面倒を見る」という言葉を、房枝さんは生活全体を支えてくれる意味だと思っていました。
しかし雅也さんにとっては、「同居を許す」「家事を少し手伝ってもらう」程度の感覚だったのかもしれません。それから、雅也さんの言葉は少しずつ厳しくなっていきました。
「昼間は静かにして」
「電気をつけっぱなしにしないで」
「病院くらい一人で行けないの?」
房枝さんは、息子の家にいるのに、居場所がないように感じるようになりました。
雅也さんにも事情はありました。離婚後の生活費、仕事の不安定さ、自分自身の将来不安。母を助けたい気持ちはあっても、実際に介護や生活支援を担う余裕はなかったのです。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上の一人暮らしの人は増加しており、令和7年時点で男性18.3%、女性25.4%と推計されています。高齢の親を家族だけで支えることが難しくなる背景には、子ども世代の生活不安もあります。
房枝さんは、地域包括支援センターへ相談しました。
そこで、同居を続けるにしても、生活費の分担や通院支援、介護サービスの利用を整理する必要があると説明されました。場合によっては、低所得高齢者向けの住まいや生活保護の相談も選択肢になると聞きました。
「息子に迷惑をかけたくないと思っていました。でも、息子だけに頼るのも違ったんですね」
現在、房枝さんは一時的に親族の家に身を寄せながら、自治体の窓口で住まいと生活支援について相談を続けています。
雅也さんも、母を追い出したかったわけではありません。ただ、「面倒を見る」という言葉の重さを、十分に分かっていなかったのです。
高齢の親との同居は、安心につながることもあります。しかし、生活費、介護、家事、通院、互いのストレスが一気に表面化することもあります。
「面倒を見るよ」という言葉は、確かに優しさから出たものでした。けれど2ヵ月後に見えたのは、優しさだけでは支えきれない、親子同居の現実だったのです。
