日韓関係に注目が集まらないと…

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 ネットニュースの編集者として、この20年、日々ネットを見続けているが、いわゆる「ネトウヨ」の存在感が全盛期と比べると随分と弱くなっていると感じる。ネット上で彼らが話題になることはほとんどないし、その言葉さえもはや忘れられつつある。

 一体なぜ「ネトウヨ」は消えつつあるのか。それは、昨今の世界情勢と大いに関係している。ネトウヨの多くは「韓国憎し」「在日コリアン憎し」という考えが行動の原動力であり、彼らの動きは、とりわけ日韓関係と大いに密接しているのだ。現在、韓国と在日コリアンのニュースが減っている中、抗議行動や、ネットで過激な発言をする理由がなくなっているのである。【中川淳一郎・ネットニュース編集者】

【写真】「フジテレビから放送免許を剥奪せよ!」2011年に行われたフジテレビに対する抗議デモの様子

よく分からない主張

 昨今、クルド人とアフリカ系移民の排斥を訴える人々も増えている。が、「伝統的ネトウヨ」は、屈強そうな彼らを恐れてなのかは分からぬが、路上で彼らに対してヘイトスピーチなどすることは滅多にない。ネトウヨがかつて、新大久保や大阪・鶴橋等でヘイトスピーチを堂々とできていたのは、攻撃対象が、女性や子供など、自らよりも立場が弱い人々が多かったというのは大きいだろう。

日韓関係に注目が集まらないと…

 私は2013年に『ネット右翼の矛盾』という書籍を共著で執筆したが、執筆しながら、「ネット右翼」という言葉に常に違和感を覚え続けていた。「右翼じゃなくて単なる韓国嫌いの人々なんじゃないかな……」と。別に保守派じゃないじゃん? と。

 彼らは、「在日コリアンと媚韓議員、そして韓国系企業により日本人が虐げられている」という論を展開するのだが、彼らの主張が妙なのである。まず、マスメディアに韓国系が潜入している、と主張するのだ。また、朝日新聞本社の中に東亜日報が入っているから朝日は韓国のスパイを引き入れている、となる。いや、ニューヨーク・タイムズも朝日の本社にあるのだが……。

 もちろん従軍慰安婦関連の誤報など、朝日新聞の主張に韓国寄りのきらいがあることは認める人も多かろう。だが、メディアに「在日枠」が存在する、という主張は本当によく分からない。多様な人材を採るということで、外国人枠がある会社は聞いたことがあるが、基本、試験と面接で入るものであるし、メディアのそれは偏っていない。私は1997年にメディア企業の一端を担う博報堂に入ったが、同期で外国人はインド人の男性が一人いるだけだった。

「キムチ鍋が1位」に激怒

 ネトウヨが一番元気だったのは、2011年頃である。在特会(在日特権を許さない市民の会)がしきりと新大久保等で排斥的なスピーチとコールをしていた。東日本大震災では「韓国人窃盗団が被災地に現れた」というデマも流れた。2011年8月7日と21日に「韓国コンテンツが多過ぎる」として、フジテレビに対してデモが発生したのもこの時期だ。21日には3500人規模のデモとなった。

 私自身が取材したフジテレビデモのコールを振り返ってみよう。これは8月7日のもので、私がメモしたものをジャーナリストの津田大介氏がXで再現したものである。

日本人は怒ってるぞ!/フジテレビから放送免許を剥奪せよ!/ネット民は怒ってるぞ!/売国奴!売国奴!/(デモの申請してないので)お散歩独り言オフだぞ!/売国奴は韓国に帰れ!/電波を返せ!/くたばれフジテレビ!/反日放送局のフジテレビー/日本のドラマを見せろー!/売国放送局のフジテレビー/なめんじゃねーぞバカ野郎!/フジテレビの教育に良くない!/売国テレビ!/韓流なんてだいっきらい!/純ニッポンです。日本人ばんざーい!韓国のごり押しやめろ!/ここは韓国じゃありません!/金儲けのために不正な報道するのやめろ!/ネットはリアルを変える!なんで、みんな来いよ!/無理矢理作られた韓流ブームはいらない!/ノーモア韓流!(←「のーもあはんりゅう」と連呼してたら中から「『かんりゅう』って言え!」とツッコミが入った)/最後に日本国民として国歌斉唱で占めたいと思いますがいかがでしょうか!/天皇陛下ばんざーい!

 また、8月21日に第二回が行われた時のコールはコレだ。

「フジテレビは偏向報道をやめろ!」
「我々はK-POPなんて聞きたくない!」
「フジテレビは日の丸・君が代をカットするな!」
「フジテレビは放送法の違反をするな!」
「フジテレビは電波免許を返上しろ!」
「フジテレビは公共の電波を利用し、グループ会社だけが儲かる仕組みを作った!」
「フジテレビと番組スポンサーは同罪だ!」
「我々はフジテレビスポンサーの不買運動を継続するぞ!」

 この時は、フジテレビがサッカー代表選を「韓日戦」と記したことや、「好きな鍋ランキングの1位がキムチ鍋だったこと」などを「韓国に支配されている根拠である」とするビラも大量にまかれた。

世界情勢の混沌が…

 ドナルド・トランプという強大な影響力を持つ大統領がアメリカに誕生したため、世界中が混乱に陥り、日本のメディアも韓国事情を報じる余裕がなくなっていった。そのため、ネトウヨにとっての「養分」がなくなっていったのである。また、昨今クルド人やアフリカ系、ベトナム系の狼藉が取り上げられることも増えており、元々「韓国・在日憎し」のネトウヨがどのように接すれば良いのかがわからなくなっているのだ。

 なにしろ2010年代前半、中東系やベトナム系はネトウヨからすると「韓国人より礼儀が正しい」的な扱いになっており、味方扱いをしていたのだから。「我々は(中韓を中心とした)反日外国人が許せないだけで、日本を好きな外国人は歓迎する」的な論説もあった。

 上記フジテレビデモの主張の内容を見ても「ボク達の大好きな日本のコンテンツを見せてください〜!」というテレビっ子のワガママのようなものであり、そこには日本を憂う国士様の姿はない。

 ウクライナやロシアやイスラエル、イラン問題についても特に知識がないからこそ、ある時は一定の勢力を誇ったネトウヨ各氏も国士としての声をあげられない状況にあるのではなかろうか? 韓国憎しの論調を信じすぎたあまりの現在のおとなしい状況であると、ネトウヨウオッチャーだった私自身は見ている。世界情勢が混沌とし、韓国情報が減ると、ネトウヨの養分が失われるのである。

ネットニュース編集者・中川淳一郎

デイリー新潮編集部