鹿児島発のスタートアップが、日本の「捨てる」常識を変えようと挑戦している。不要品回収ボックス「PASSTO(パスト)」を全国で展開するECOMMIT(エコミット)だ。

国内トップアパレルとも取引し、4月にはメルカリなどから約15億円の資金調達を実施。「Amazonの逆=商品を戻すインフラ」を目指す同社の情熱とビジネスモデルに迫る。

「Amazonの逆バージョンを作りたい」

回収した衣類をTシャツに換算すると約5000万枚、積み重ねれば富士山1500個分。それでも、日本で焼却処分されている衣類のわずか2%に過ぎない。

鹿児島県日置市で4月に開かれた本社移転発表会と事業説明会の会場で、株式会社ECOMMIT(エコミット・現本社:鹿児島県薩摩川内市)の代表取締役CEO・川野輝之氏(42)は「18年やってきて、たった2%。焦っています」と危機感を強調した。

不要になったモノを回収し、選別し、再び流通させる。「捨てない社会」を掲げる同社は、不用品回収ボックス「PASSTO(パスト)」をわずか3年ほどで全国6000か所に展開し、年間1万2000トンもの不要品を回収する。

直近ではメルカリなどが出資元となった資金調達を完了。川野氏は、「Amazonが商品を届けるインフラなら、我々は商品を戻すインフラを作る」と、世界規模の循環経済を見据える。目指すのは「循環のインフラ」だという。

22歳で創業 廃品家電からスタート

川野氏は大阪出身。高校卒業後、農業機械などの貿易会社に就職し、4年間の修業期間を経て22歳で独立。妻の実家がある鹿児島でエコミットを起業した。

「創業当時はそんなに深く考えずに起業しちゃいましたね」と川野氏は振り返る。自転車操業だったという日々の中、廃品回収業者から集めた家電を、リサイクル用として中国に販売するビジネスを展開していた。

自分自身が許せない 海外で見た「衝撃の風景」が転機に

転機は、その中古家電の行き先を自分の目で確かめようと、中国の現場を訪ねた時だった。

「村全体がリサイクルに特化したような場所でした。電子基板を窯で煮て金を取り出し、水銀が混じった排液はその辺にジャーッと捨ててしまうんですね。子どもも働いていました」

日本国内では、中古家電を海外に販売するのは「エコな活動」と言われていた。そのビジネスの裏側で、現地では深刻な環境破壊が起きていた。

結果的に加担していた自分自身が許せなかったという。

創業から3年、川野氏はすべての取引を見直し、中国への中古家電輸出を全面停止する決断を下した。

「それはいいけど、どうやってメシを食っていくんですか」売上の柱を失う判断に幹部からは大反対を受けた。

具体的なプランはなかった。しかし現地の映像を見せ、一人ひとりを説得した。環境と経済を両立させるモデルを作る会社に生まれ変わることだけは決めていた。

ここがエコミットのターニングポイントだった。

中古の衣類や家具、雑貨などまだ使えるものの「リユース」と、そのシステム化=循環の仕組みづくりに舵を切った。

特に衣料品は、大量消費、大量廃棄が当たり前になっている。そこを変えられればインパクトは大きい。

リユース衣料の輸出販売から始めて、現在は衣料品のリサイクルや再生に力を入れている。

「PASSTO」─捨てるでも売るでもない、第三の選択肢

鹿児島市内の商業施設イオンモール KAGOSHIMA BAYに設置された青いボックスに、子ども服やぬいぐるみが次々と入れられていく。利用者の女性は「ごみに出すよりもいいかなと思って。誰かに使ってもらえたら」と話す。

PASSTOは、ECOMMITが展開する回収ボックスだ。衣料品やファッション雑貨、ホビー用品など「不要だけどまだ使える価値あるもの」を幅広く回収している。

「PASSTO」というネーミングには「誰かに渡す」という意味が込められている。

「モノを捨てるんじゃなく、売るんじゃなく、PASSTOしようという第三のインフラとして使っていただきたい」と川野氏は語る。

商業施設やマンションのほか、郵便局や自治体の施設にも導入が進み、設置場所は全国で6,000か所を超える。

昨年からは自宅まで不要品を取りに行く「宅配PASSTO」もスタート。すでに数千件の申し込みがあるという。

98%を循環させる「目利き」の力

PASSTOで回収された衣類などが集まるのが、薩摩川内市の「エコベース」をはじめとする全国8か所の循環センターだ。年間回収量は1万4000トン。衣類だけで約1万1000トンに上る。

ここでの要は「選別」だ。目利きのスタッフが届いた大量の衣類を衣類だけで52種、全体で123品目に素早く振り分ける。

「誰が、いつ、何を求めているか」というニーズをデータ化し、100以上ある国内外の再流通先に最適なルートで届ける。

リユースとリサイクルの組み合わせで、預かったモノの約98%を何かに生かすことに成功している。

「本来であれば燃やされて灰になるだけだったものが、引き継がれていく。地球環境に少しでも役立てているのかなと感じます」と現場スタッフは話す。

自動車メーカーへの素材提供や、ファミリーマートのコンビニウェアに使うリサイクルポリエステルの原材料供給など、再流通先は多岐にわたる。

原材料や認定中古品としてアパレルブランドに“返す”ビジネスも展開している。

データの可視化 アパレル業界トップ20社のうち8社が導入

現在、国内アパレル業界の売上トップ20社のうち、8社がエコミットの循環支援サービスを導入しており、ブランドと共同展開する回収拠点は2500か所を突破した。

なぜ、これほど急速に大手企業からの支持を集めているのか。

川野CEOはその理由を「データの可視化」にあると語る。 これまで、メーカーは「商品が売れるまで」のデータは持っていたが、「ユーザーから手放された後、商品がどこへ行き、どれだけリユースやリサイクルに回ったか」を追跡する術を持っていなかった。

エコミットは、自社の「目利き」を活かした「高精度の選別技術」に加え、この「手放された後のトレーサビリティ(追跡可能性)」をデータとして企業に提供できる。

どういう商品がリユースできるのか、どれぐらい原材料に戻せるのかなど、アパレルメーカーにとっても貴重なデータだ。

回収から選別、再流通までを一気通貫で担い、さらにそれをデータ化してレポートする。このデータが「他社にはない強みとなっている」という。

環境省・経産省も目標に掲げる衣料の再利用 日本は圧倒的に捨てている

ECOMMITのビジネスやデータが、大手アパレルからも注目される背景には、世界的な環境規制の波がある。

日本国内でも年間約50万トンの衣類が手放され、その多くが焼却や埋め立てに回っているのが実情だ。

環境省は2030年度までに衣類廃棄を25%削減する目標を掲げている。

経済産業省は、繊維産業を持続可能なものにするため、古着を燃やさずに、再び繊維や生地に戻すための技術開発や流通経路の構築を支援している。

ECOMMITが構築する「民間の回収・循環インフラ」は、国や大手アパレル企業が直面する課題に対し、有効な解決策のモデルを提示している。

「日本は圧倒的に“捨てる機能”は進化しちゃっています。それと同じぐらいに圧倒的に循環する仕組みをつくらなきゃいけない。今後進化させていくのは、回収の部分と、回収したものを素材としてモノづくりに生かしていく部分です」(川野氏)

「高度“循環”経済成長」─高度経済成長の歪みをビジネスでなおす

川野氏が掲げるのは「高度循環経済成長」という概念だ。

「大量消費、大量廃棄、使い捨てという高度経済成長の裏側で起きてしまった歪みに、我々は今立ち向かっている。当時の人類のKPIは利便性と経済性だった。では今は何か。環境と経済の両立です」

衣類だけにとどまらず、化粧品の空き容器やおもちゃ、小型家電など、あらゆる「不要だけど価値があるもの」へと回収対象を広げていく構えだ。

すでにタイでの実証実験もスタートしており、モノづくりの拠点であるASEAN地域で国際的な資源循環も視野に入れる。

「Amazonが商品を届けるインフラだとするならば、我々は商品を戻すインフラ。日本国内だけでなく、アジアへと展開していきたい」(川野氏)

メルカリも参画 “逆Amazon構想”で循環型社会を目指す

この「商品を戻すインフラ=逆Amazon」構想は、巨大なエコシステムへと成長する可能性を秘めているという。

2026年4月、エコミットは約15億円の大型資金調達を実施した。

引受先には様々な領域の大手企業が名を連ねるが、中でも注目すべきは国内最大手フリマの「メルカリ」の参画だ。

メルカリが持つ「オンラインの再流通プラットフォーム」と、エコミットが築き上げた「リアルな回収・選別のインフラ」

この2つが接続されることで、モノが循環するスピードと規模のさらなる拡大が期待されている。

ECOMMIT自体は、アパレル向けサービスなどが牽引し、2026年3月期の売上高は前期比2倍となる約30億円を見込んでいる。

今回の大型調達で得た資金は、「PASSTO」の拠点拡大に加え、東京にある国内最大級の循環センターのDX・自動化に投じられる。

3年後には現在の約4倍近い年間4万5000トンの回収量を処理できる体制を目指すという。

2027年、本社を日置市の「猫狐馬ノ杜」へ移転

エコミットは2027年春、本社機能を鹿児島県日置市にオープン予定の新複合施設「猫狐馬ノ杜(ねこまのもり)」に移転する。

現在の本社は人口8.8万人の鹿児島県薩摩川内市だが、そこから本社を移転するのは人口4.5万人の日置市だ。2026年4月には日置市との立地協定を締結した。

猫狐馬ノ杜は、鹿児島や地域に縁がある動物を冠していて、木造平屋約260平方メートルの建物にエコミットを含め5つの企業が拠点を設ける。

猫狐馬ノ杜が建設されるのは、日置市の中でも東市来町湯之元地区という小さな温泉街だ。

「鹿児島という本拠地から世界を変える、ぐらいの思いは常にあります」

建設を主導しているのは、鹿児島市から湯之元に本社を移した商社「小平」で、湯之元に点在する空き家や空き店舗を、オフィスや会議室、宿泊施設として再生させてきた。

再生がキーワードになっているこの街に、循環と再生を掲げるエコミットが本社を移すのは、双方にとって象徴的だ。

日置市の永山由高市長も意気込む。

「人口4万5000人の市で、“地球環境のために”というと呆れる人もいます。でも、実は地域内の経済循環率は市民所得と比例するんです。

市民が買い物を市外のブランドショップで買う。それは良いんです。でも、商品が使われてリユースされる段階で、日置を経由されたものがどんどん入ってくることで、結果的に大きな循環経済の輪の中に日置が入ってくる。

日置市内にもPASSTOが10か所以上あって、年間12トン回収しています。日置市を循環型社会のモデルケースとして全国に発信していきたい」

川野氏も「鹿児島という本拠地から世界を変える、ぐらいの思いは常にあります」と力を込める。

東京に本社を置くつもりはない理由は?

東京にも拠点を置くECOMMITだが、都会に本社を置くつもりはなかったという。これから本社を移転する日置市東市来町の「猫狐馬ノ杜」は、海も山も近い。

JRの駅裏も山で、近くには温泉神社が鎮座する森もある。その森を背に、川野氏は静かに「芯」を語った。

「循環経済って、究極は自然を守る仕事だと思っているんです。自然を守る仕事なのに、東京のオフィスの中で事業を考えるって、ちょっとナンセンスだなと思っていて。

自然に囲まれながら、どうこれを守っていくか?みたいなことを考えるほうが、理にかなっていると僕は思っています。自分たちが見ている美しい自然を、本当に何百年先にも続けていきたいという思いが根底にあります。」

消費する社会から循環する社会への変革を目指す川野氏。視線の先には、自然と未来がある。