宇宙の “環境音” はどんな音? 「もしも重力波が聞こえたら」の答え

写真拡大 (全4枚)

宇宙には空気がないため、普通の意味での音は存在しません。ただ、宇宙はブラックホールや中性子星の合体で生じる時空のさざ波「重力波」に満ちています。そして重力波の周波数は、人間が音として聞き取れる値を取っています。ではもし、重力波が音として聞こえるならば、宇宙はどのような環境音に満ちているのでしょうか?


ジョンス・ホプキンス大学のFrancesco Iacovelli氏は、ブラックホールや中性子星の合体で生じる重力波の発生頻度や種類をシミュレートし、10分間の「宇宙の音」を作成しました。ブラックホールや中性子星の連星が奏でるこの音は、シチューを煮る時の音のような独特の雰囲気を構成しています。


なお、この宇宙の音について述べたプレプリントは2026年4月1日付け、つまりエイプリルフールに投稿されたものです。ただし、少なくとも筆者が確認した範囲において、内容そのものは科学的に妥当であり、嘘は含まれていません。とはいえ、エイプリルフール向けに作られている以上、原文にはかなりのジョークが含まれており、本記事でもその一部を拾っています。


重力波の周波数は聞こえる音と同じくらい

宇宙では音はどうなっているでしょうか? 音は空気や水のような物質を伝う波ですが、宇宙は真空であるため、音を伝えるモノがありません。このため普通は「宇宙は無音である」と答えるべきです。


【▲ 図1: 重力波は、質量を持つ物体が移動することによって起きる時空のさざ波です。特に、2つの天体がお互いの周りを公転するような状況は、連続的な重力波を放出します。(Credit: NASA & JPL)】

しかし見方を変えれば、宇宙は音とは別の波に満たされているとも言えます。例えば、時空のさざ波である「重力波」はその代表例です。一般相対性理論によれば、重力は時空の歪みとして表現されます。そして重力源である質量のある物体が移動すると、時空の歪みの変化が波として伝わるようになります。これが重力波です。


重力波は、強い重力を持つ天体が高速で移動するほど強力になります。このため、宇宙で最も極端に収縮した天体であるブラックホールや中性子星の連星から放たれる重力波は強力です。衝突前の最後の数分間、これらの天体はお互いの周りを1秒間に数十回から数千回公転してから衝突する過程で、連続的に強力な重力波を放出します。


ただ、重力波そのものはとても弱い現象です。最強クラスの重力波でも、周りに与える影響は極めて小さく、人類でも重力波の理論的な予言から実際の観測までちょうど100年かかったほどです。重力波は、数kmの間隔で配置された鏡の間で、数百回反射させたレーザーの干渉のズレでようやく捉えられるほど弱いものです。当然ながら、厚さが0.1mmしかない人間の鼓膜で捉えられるような波ではありません。


【▲ 図2: 世界初のブラックホールの写真として有名なこの画像は、電波での観測結果を数学的に分析して画像化したものであり、肉眼で同じような形や色に見えるとは限りません。しかし、それでも科学的な意義があります。重力波を音に変換するのもこれと同じような作業であると言えます。(Credit: Event Horizon Telescope)】

とはいえ、重力波の周波数だけに着目すると、それは数十〜数千Hzです。もしこれが音ならば、人間の耳でも聞き取れる周波数に当たります。このため重力波の研究に関するプレスリリースには、周波数を音に置き換えた音声ファイルが添付されていることもあります。これは、電波や赤外線など、本来人間が見ることのできない波長の観測データをカラー写真に置き換えた天体写真のような工夫だと言えます。




【▲動画: 世界で初めて観測された重力波(GW 150914)を音に変換したもの。(Credit: LIGO)】


公開されている重力波イベントの音を聞くと、途中から急激に音の高さが上がるように聞こえるはずです。最後の高音は、天体衝突の最後の瞬間をとらえており、1秒間に数百回から数千回も公転した結果、数百Hzから数千Hzの音として聞こえているわけです。一方でそれ以前の部分でも、数分間に渡って1秒間に数十回程度の公転しています。人間の耳は20Hz以上の音を捉えることができるため、ギリギリ聞き取れる低音域であることになります。


これらの音は全て、1回の重力波イベントに対するものです。それでは、そのような現象が頻繁に起きている実際の宇宙ではどのような状況になっているのでしょうか?


宇宙の環境音はシチューを煮た音に聞こえる?

ジョンス・ホプキンス大学のFrancesco Iacovelli氏は、もしも宇宙を満たす重力波が人間の耳に聞こえたら、どのような感じであるのかをシミュレートし、 “数十億年にわたって演奏された宇宙のデビューアルバム” を作成しました。


前提として、重力波イベントに伴う音は重なり合っていることを踏まえる必要があります。現在の技術で観測できたのは10年間で200回ほどですが、実際にはその5万倍、年間で100万回ほどの重力波イベントが起きていると考えられています。そして、人間が聞こえる周波数に限っても、重力波イベントは数分間続くため、複数の重力波イベントに由来する音は重なりあっているはずです。


そこでIacovelli氏は、重力波イベントの規模や頻度の推定と、実際に観測された重力波に基づき、宇宙を満たす重力波の音を合成しました。このため、今回の宇宙の音の作成に当たって、破壊されたブラックホールや中性子星はありません。


重力波イベントは1年分の長さがシミュレートされました。それぞれ、ブラックホール同士の衝突が12万回、中性子星同士の衝突が72万回、ブラックホールと中性子星の衝突が4万5000回と想定されています。しかしさすがに、1年分の音声データは長すぎるため、今回は10分間が公開されています。 600万ドルの耳を持つリスナー に向け(※1)、普通の人間には聞こえない10Hzからシミュレーションされています。


※1…元ネタは1970年代のドラマ『600万ドルの男』か。


このような手順を踏んで作成された音は以下の通りです。また音声ファイルは、分析スクリプトと共に、Iacovelli氏がGitHub上でも公開しています(GitHubリンク)。



【▲音声: 今回の研究で作成された10分の「宇宙の音」。(Credit: Francesco Iacovelli)】


皆さんはどのように聞こえるでしょうか? 嵐の海の波の音、遠くから聞こえるジェットエンジンの音、あるいはシチューを煮る時の音に聞こえるかもしれません。


Iacovelli氏は、「この宇宙の音は、あまり旋律的とは言えないが、間違いなくバグパイプよりは良い音だ」と感想を述べています。また、人工的に生成されるホワイトノイズと比べ、自然に発生する音として素晴らしい代替品であり、プラネタリウムのBGMなどにふさわしいのではないかとも述べています。


なお、今回の宇宙の音はプレプリントと共にクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際(CC BY 4.0)にて公開されており、リミックスは歓迎されています。ただし、 “オリジナルの演奏権は宇宙にある” ことをお忘れなく。


単なるエイプリルフール向けのジョークということでもない

【▲ 図3: 今回の宇宙の音の音成分をグラフ化したもの。ブラックホール同士の衝突(BBH)は数こそ少ないですが、音の大半を占めていることが分かります。一方で中性子星同士の衝突(BNSs)は、数としては多いものの、音としては弱いものです。(Credit: Francesco Iacovelli)】

宇宙の音の成分について、もう少し詳しく説明しましょう。聞こえている音の大半は、ブラックホール同士の衝突によるものです。これは回数としては少なく、中性子星同士の衝突の6分の1しかないものの、いわばドラマーとして強く打ち鳴らしているために目立っています。一方で、数としては最も多い中性子星同士の衝突による音は、弦楽器の繊細な音のようなもので、全体の音色を決定する一方、強い音に紛れてしまいます。


大きな特徴として、周波数としては低い音の割合が高いことが挙げられます。今回の試みと似たものとして、宇宙の可視光線の平均値を取ると、緑がかった白(#FFF8E7)になるという「コズミック・ラテ」というものがあります。これは可視光線スペクトルのほぼ中間に位置します。中央から大きく外れている宇宙の音は、中々に大きな違いと言えるでしょう。


なお今回の分析では、超大質量ブラックホール、高速で自転する中性子星、超新星由来の重力波は含まれていません。このうち超大質量ブラックホールの重力波は、周波数が極めて低いため、人間が聞こえる周波数を下回っています。一方で高速で自転する中性子星の重力波は連続的なハミング音、超新星の重力波は時折聞こえる叫び声として聞こえるでしょう。


このように、エイプリルフール向けのジョークとして分析されたとは言え、宇宙の音にはちゃんとした科学的な意義があります。それどころか、重力波を音に置き換えることによって、新たな発見があるかもしれません。


例えば、重力波には宇宙の特定の方向、あるいは時代によって違いがあるかもしれません。この違いを、単なる重力波のグラフでなく、音に変換して聞き分けることで、何か面白い発見があるかもしれません。人間の目では決して見ることのできない波長の電磁波に色を割り当て、画像化してから研究を行うのと同じようなものです。


いずれにしても、今回作成された宇宙の音は、宇宙で最も極端な天体が、衝突前の最後の数分間に発した時空の歪みによる環境音ということになります。一度、壮大さを感じさせる音を聞いてみてはどうでしょうか?


ひとことコメント

少々定義がややこしいことに注意が必要だけど、ぜひ宇宙の環境音を聞いてみたらどうかな?(筆者)


 


文/彩恵りり 編集/sorae編集部


関連記事世紀の観測「重力波」が発する音を聞いてみよう(2016年2月12日)参考文献・出典Francesco Iacovelli. “What does the Universe sound like?”.(arXiv)