(※写真はイメージです/PIXTA)

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マンション管理の現場では、管理会社への過度な依存による「ガバナンス不全」が問題化しています。築13年の分譲マンションで理事長に就任したAさんは、150万円の目視調査や、担当者による「3年間巡回ゼロ」といった管理会社の不適切な対応に直面しました。なぜ管理会社の主導や業務の形骸化は起きてしまうのか。マンションの統治構造の空洞化を防ぎ、住民が主体性を取り戻すためのプロセスを、マンション管理士の松本洋氏が解説します。

「本当に必要な調査だったのか?」大規模修繕への違和感

築13年・101戸の分譲マンションで、理事に選任されてわずか3日目。後に理事長となるAさんは、大規模修繕工事の進め方や管理会社の説明に、早くも違和感を覚えていました。

理事就任前、管理会社は独自に建物調査を実施し、150万円の報告書を提出。しかし内容は目視中心で、Aさん自身は劣化をほとんど感じていませんでした。

「本当に必要な調査だったのか?」

その疑問は、理事会に参加するほどに“個別の不満”から“構造的な問題”へと姿を変えていきました。

管理会社フロント担当の不適切な対応

理事長就任から3ヵ月。管理会社フロント担当B氏の対応には、次々と問題が浮上しました。

本来は専用使用権者負担である集合ポスト修理を「管理組合負担が当然」と説明したり、管理会社が受注できる業務ばかりを積極的に説明し、住民対応が必要な事項は意図的に説明を避けたりするといった対応が目立ちました。

また、管理員が8ヵ月以上“代行”のままで清掃品質が低下しても報告すらなく、議論を避けて管理会社撤退をほのめかすことで、理事会を自らの意向に誘導しようとしたのです。さらに、管理会社が作成した議事録素案に対し、理事長であるAさんからの訂正を一切受け付けないという姿勢でした。

しかし、一部理事からは「管理会社に注意すると撤退される」との声も上がり、管理会社への過度な依存が意思決定を歪めていたのです。

発覚した「3年間巡回ゼロ」と施設放置の事実

Aさんは状況を変えるため、理事会決議のもとで自主点検と勉強会を企画しました。管理会社は消極的で、議事録案にも記載しないなど妨害に近い対応を見せたものの、Aさんは住民に呼びかけ、少人数ながら点検を実施します。

そこで、想像以上の問題が明らかになりました。

防災倉庫の鍵の所在を誰も把握していなかったり、理事会が知らないキーボックスが敷地内に2ヵ所も設置されていたり、宅配ボックス12台中6台が7ヵ月以上故障したまま放置されていたのです。

さらに衝撃的だったのは、B氏が担当して3年間、一度もマンションを巡回していなかった事実でした。

これまで無関心だった理事たちも、ようやく事態の深刻さを理解し始めました。

管理組合が主体性を取り戻す第一歩

今回の事例を受け、理事会では次の改革が進みました。

議事録は管理規約通りに「理事長が作成」することとし、管理会社作成のものはあくまで「素案」と位置づけました。また、自主点検の継続と住民参加の仕組みづくりを進め、オブザーバー参加を含めた監視機能を強化しました。Aさんは継続性確保のため来期も理事長を務める意向を示しています。

管理会社の対応は今後も注視が必要ですが、管理組合が主体性を取り戻す第一歩となりました。このマンションでは現在、ついに管理会社変更の検討が始まっています。

理事会の無関心が生む「統治構造の空洞化」

Aさんのマンションで起きた事例は、担当者個人の問題ではありません。全国のマンションで共通する構造的なガバナンス不全が背景にあります。

管理会社が情報優位に立ち、理事会が検証できない状態に陥っているケースは少なくありません。そこへ理事会の無関心が重なり、管理会社が実質的な意思決定者となってしまうのです。さらに、管理員不足が常態化して品質管理が形骸化したり、議事録案作成など本来補助的な業務が“主導”に転化したりする事例も発生しています。

これらは、管理組合が本来持つべき統治機能が空洞化し、管理会社依存が固定化する典型例です。

マンションの未来を決めるのは住民自身

日本のマンション管理業界では人材不足が深刻化しており、担当者が一人で15〜20物件を抱える例も珍しくありません。しかし、担当者から見れば「1/20」でも、住民から見れば管理会社は「1/1」です。

だからこそ必要なのは、管理組合のガバナンス強化や情報の透明化、住民参加の仕組みづくり、管理会社の業務品質の可視化などです。

マンションの未来を決めるのは管理会社ではなく、そこに暮らす住民自身です。今回の事例は、住民が主体性を取り戻すことで、管理会社依存の構造を変えられることを示しました。

松本 洋

松本マンション管理士事務所代表