不登校の原因は、子ども自身にもハッキリわからない場合がある。『娘に死にたいと言われました 不登校の理由』 【著者に聞く】

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「不登校」は、今の時代、どんな親子に起きてもおかしくない切実な問題です。楽しく元気に通っていると思っていた子どもが、ある日突然、学校に行かなくなったら? なんの前触れもなく「死にたいかも」と呟いたら…? その時、親はどう子どもに向き合えばいいのでしょうか。
優等生で友達もたくさんいた娘が、突然不登校になってしまった苦悩の日々を描く、とーやあきこさん著の『娘に死にたいと言われました 不登校の理由』。学校に行けない娘と、支えたいのに支えきれない母…。そんな痛切な日々の記録を、取材をもとに描いたセミフィクション作品です。
■優等生の娘が不登校になった理由とは?


千紗の自慢の一人娘・真奈は、成績優秀で友達も多く、親とも良好な関係を築いていました。そんな千紗の穏やかな日常は、真奈が小学5年生のある日に発したひと言で崩れ落ちます。
「あーあ なんかもう…死にたいかも」
その日を境に、真奈は理由も言わずに学校に行かなくなってしまいます。

心配した千紗は娘を理解したい一心で、理由を突き止めようと担任の教師に相談したり、真奈の親友の母親でありママ友に話を聞いたりしますが、原因は一向に分かりません。

「不登校」とみなされてしまう、年間の欠席日数30日が近づいてきました。そんなある日、親友が家を訪ねてきてくれたのをきっかけに、真奈はやっと学校へ行くことができました。日常が戻ってきたと千紗はホッとしましたが、それもつかの間…。


真奈は家に帰ってくるなり部屋に引きこもり、暴言まで吐くようになってしまいます。千紗は様々な解決策を試みますが、それがかえって真奈を追い詰め、母娘関係は悪化の一途をたどることに。


いったい娘に何があったのか…。出口の見えない不安の中で、千紗は不登校の現実と向き合い、もがき苦しみます。すっかり変わってしまった真奈との距離感に悩みながらも、たどり着いた答えとは――。
この作品について、著者のとーやあきこさんにお話を伺いました。
■たくさんの人が「助けたい」と思っていることを忘れないで
――母の千紗は、娘・真奈が学校に行かなくなってから夫や親にも相談できず、先生のアドバイスも受け入れず、どんどん思い詰められていきます。周りに頼れなかった、相談できなかった、その理由はなんだと思いますか?
とーやあきこさん:私自身もそうなのですが、辛ければ辛いほど、その悩みを他人に隠してしまうことが多い気がします。誰かに話した瞬間に「これは現実なんだ」とあらためて認めなければいけない怖さがあったり、「人に弱みを見せたくない」「誰かにバラされて噂の的になったらどうしよう」といった心配に支配されてしまったり…。その結果、1人で抱えてしまうことになってしまうのではないかと思います。性格にもよりますが、大人になればなるほど誰かを頼ることはとても難しいのではないでしょうか。


――そうするうちに、千紗は自身の心身も不安定になり、仕事や日常生活に支障が出てしまいますね。ここまで追い詰められないためには、どうすればよいと思いますか?
とーやあきこさん:作品の終盤で、千紗が担任の先生に「カウンセラーさんと繋いでほしい」とお願いするシーンがあるのですが、「誰かに頼る」ということが何より大切だと、さまざまな方たちのお話を聞いて思いました。

特に印象に残っているのは、地域で子どもや親の支援をしている大学の先生がお話しされていたことです。「自分たちは困っている子どもや親御さんを助けたいと心から思っている。ただ『助けてほしい』と言ってもらえなければ助けることができないので、迷わずに『助けてほしい』と言ってほしい」と。
この作品の解説を担当してくださった今村久美さんが設立したNPO法人「カタリバ」をはじめ、学校の先生やカウンセラーさん、民間、行政など、本当にたくさんの方々が「助けたい」と思っていてくださっています。そのことに、今回の作品を描いたことで気づくことができました。
■大人だからこそできる、「人に頼る」一歩を踏み出すということ
――本作には、親目線だけではなく、不登校になった経緯や葛藤などが子ども目線で丁寧に描かれているのが印象的でした。
とーやあきこさん:当初は不登校になった経緯をあえて描かないでおこうかとも思いました。ただ、「不登校になった原因が自分でもハッキリとわからないので、原因を大人に聞かれたときが一番困った」という話をされる方が、意外にも多くいらっしゃいます。明確な原因がなく学校に行けなくなってしまった場合、理由を大人に説明できず、さらに苦しむ状況が生まれてしまうという現実もあるんですよね。


作品に出てくる真奈も、周囲とのコミュニケーションがうまくいかないことによって不登校に繋がってはいるものの、明らかにいじめを受けたわけでも仲間外れにされたりしたわけでもなく、お友だちも意地悪をしているつもりもありません。明確な原因がないからこそ、余計に自分の弱さに苛立ったり、自分を責めたり…。そういったもどかしさを抱えた子どもの辛さを描きたいと思い、子ども目線のエピソードをいれました。

――千紗と真奈が衝突し、泣きながら本音で話し合ったあと、千紗は真奈に一緒の部屋で寝ようと提案します。真奈との心の距離が少し近づいたように見えましたが、千紗はどのような思いで一緒に寝ようと言ったのでしょうか。
とーやあきこさん:これは、実際に学校へ行かなくなってしまったお子さんを持つお母様が実践したことなんです。その方は「子どもを夜に一人にさせるのが怖い」という理由で一緒に寝ることにしたそうです。その結果、親子関係も良くなっていき、夜に眠れないと悩んでいたお子さんも不思議と眠れるようになったと話していらっしゃいました。一緒に眠ることだけに限らず、親がそばにいることが疲れた子どもの心に大きく影響するのだな、と改めて考えさせられたエピソードでしたので、作中にいれさせていただきました。
――その後、少しずつではありますが良い方向へ向かっていきますね。もちろん時間の経過も必要だと思いますが、子どもと一緒に、一歩踏み出すために大切なことはなんだと思いますか?
とーやあきこさん:「人に頼る」という一歩を踏み出すことかと思います。心が弱っているときにはとても重たい一歩ですが、誰かに頼るという行動は大人だからできるもので、子どもにはできない唯一のことなんですよね。
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明確な不登校の原因が分からず苦しむ子ども、そして助けを求める声を上げられずに孤立する親…。とーやあきこさんは、本作でそうした親子の姿を真摯に描き出しています。
そんな過酷な現実の中、今回のインタビューで、社会には「助けたい」と願う人々がたくさんいるという希望も示してくれたとーやさん。今悩んでいる人が、助けの手を伸ばすための一歩を後押ししてくれる、そんな作品です。
取材・文=松田支信

