「中国はイランに武器供与していない」報道官の発言から読み解く習近平「アメリカ戦略」の本質

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世界各地から「北京詣で」

いまの世界には、幸か不幸か「大国」と呼ばれる国は3ヵ国しかない。それは前世紀の冷戦で対峙したアメリカとロシア、そして台頭著しい中国である。

ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアは、周知のように4年前から、国際法違反甚だしいウクライナ戦争を起こして、ヨーロッパだけでなく、世界の顰蹙(ひんしゅく)を買っている。この悲惨な戦争は、いまだ解決のメドさえ立っていない。

それに加えて、今度はドナルド・トランプ大統領率いるアメリカが、やはり国際法違反甚だしいイラン戦争をおっ始めて、中東と世界経済をメチャクチャにしている。私は最近、このイカレタ大統領を、「瘋癲(ふうてん)のトラさん」と呼んでいる。

そうなると、世界の多くの国々は、「脱トラ」(米トランプ政権からの離脱)を進め、おのずと「3つ目の大国」を頼ろうとするようになる。少なくとも中国はいまのところ、国際法違反の無謀な戦争を対外的に行っていないからだ。

というわけで、このところ世界各地から「北京詣で」ラッシュとなっている。先週は4月14日と15日だけで、UAE(アラブ首長国連邦)のハーリド・ナヒヤーン皇太子、スペインのペドロ・サンチェス首相、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相、そしてベトナムの蘇林(トー・ラム)書記長兼国家主席が、それぞれ北京の人民大会堂で習近平主席と会談した。

彼らは、中国に何を求めているのか? そしてこうした傾向が、世界にどんな影響を及ぼすのか?

まず14日午前、本来ならアメリカの同盟国であるはずのUAEのハーリド皇太子が、イラン戦争について、習近平主席に切々と訴えた。同国が誇る「砂漠の摩天楼」ドバイはイランの対岸、ホルムズ海峡と目と鼻の先にあるが、バブルが崩壊して、すっかり干上がってしまった。以下の発言は、中国外交部の発表による。

「UAEは、中国が当面の中東危機を積極的に政治解決させるため、国際的に責任ある建設的な役割を果たしていることを称賛している。UAEは、中国と密接に意思疎通と協調を図りながら、関係国に戦争の停止を促し、一刻も早く地域の平和と安定を回復させ、国際通航の安全を維持保護し、全世界の経済とエネルギーの安全にさらなる大きな影響が出るのを防止することに尽力していく。そしてUAEは、国内の中国国民と機関の安全を、しっかり保護していく」

米国の異常行動に「ドン引き」

これに対して、習近平主席は4点主張した。

「第一に、平和共存の原則を堅持することだ。中東・湾岸諸国は互いに密接な関係にあり、決して離れることのできない隣人である。中東・湾岸諸国が関係を改善することを支持し、共通的、包括的、協力的かつ持続可能な中東・湾岸地域の安全保障体制の構築を推進し、平和共存の基盤を強固なものにしなければならない。

第二に、国家主権の原則を堅持することだ。主権は各国、とりわけ多くの開発途上国にとって、その存立の基盤であり、侵すことは許されない。中東・湾岸諸国の主権、安全、領土保全は確実に尊重し、各国の要員、施設、機関の安全を確実に守らなければならない。

第三に、国際法の支配の原則を堅持することだ。国際法の支配の権威を維持し、『都合がよければ利用し、都合が悪ければ捨てる』ようなことは許されず、世界をジャングル(弱肉強食)の法則に戻してはならない。国連を中核とする国際システム、国際法に基づく国際秩序、国連憲章の目的と原則に基づく国際関係の基本的規範を断固として守らなければならない。

第四に、発展と安全の統合的な推進を堅持する。安全は発展の前提であり、発展は安全の保障である。すべての関係者は、中東・湾岸諸国の発展のために良好な環境を整え、前向きなエネルギーを注ぐべきだ。中国は中東・湾岸諸国と『中国式現代化』の機会を分かち合い、地域の発展と安全の基盤を強固に築いていく」

このように習主席は、滔々(とうとう)と「正論」を吐いたのだった。当然ながら、それ以外の「ヒソヒソ話」もしたに違いないが、それらは非公開なので不明だ。ただ、英『エコノミスト』(4月11日号)はこう記している。

<2025年のイランの輸入の約3分の1を占めたUAEは、この戦争初期にイランの報復対象となって以降、イラン向け船舶を1隻も出していない。UAEはほぼすべてのイラン人に対して、国境を封鎖し、イランの制裁回避を助けていたドバイに拠点を持つ数千社ものペーパーカンパニーの黙認もやめた>

続いて、EUで「トランプ批判」の急先鋒、スペインのサンチェス首相である。サンチェス首相は3月4日(スペイン時間)、トランプ政権が勝手に始めたイラン戦争を受けて、自らのXに投稿した。

<スペイン政府の立場は、一言で言えば「戦争反対」だ。最新の国際情勢に関する私の声明全文を、以下に共有する>

こう前置きして、10分42秒にわたって「国民向け声明」を発表した。

「今回問題になっていることは、スペインがアヤトラ(イランの聖職者支配層)の側に立つかどうかではない。スペインが平和と国際的な合法性を支持するのかという問題なのだ。

スペインは、一つの違法行為に対して、別の違法行為で応じることはできない。人類の大惨事というのは、往々にしてそうした形で始まるからだ。

それは、2003年にアメリカがイラクに侵攻したことを思い出せば分かる。アメリカはイラクで当初の目標を達成できなかったばかりか、その影響で多くのスペイン人の生活を悪化させてしまった。同様に、今回のアメリカによるイラン攻撃が、多くのスペイン人に悪影響を及ぼす恐れがある」

まさに「正論」である。こうしてサンチェス首相は、イラン戦争に関して、アメリカ軍がスペインを経由基地にすることなどの協力を拒絶したのだった。

そんなサンチェス首相は、4月14日午前、北京の人民大会堂で習近平主席に訴えた。

「私が過去4年間で4回も訪中していることは、中国との関係を極めて重視していることを示している。中国企業によるスペインでの投資・協力は、スペインの経済発展を力強く促進している。

スペインは『新冷戦』や『デカップリング』(サプライチェーンの分断)に反対し、ヨーロッパと中国が相互理解を深め、協力を強化することを支持する。EUと中国の関係が健全に発展することは、双方の共通の利益に合致するものであり、世界の平和と安定にも資するものだ」

このように、トランプ大統領の一連の異常な言動がヨーロッパを「ドン引き」させ、その分、中国に接近させているのである。実際、昨年末からヨーロッパ首脳の「北京詣で」が加速している。そのうち習近平主席が会談した首脳は、以下の通りだ(カナダも加える)。

2025年12月4日 フランスのエマニュエル・マクロン大統領

2026年1月5日 アイルランドのミホル・マーティン首相

1月16日   カナダのマーク・カーニー首相

1月27日   フィンランドのペッテリ・オルポ首相

1月29日   イギリスのキア・スターマー首相

2月25日   ドイツのフリードリッヒ・メルツ首相

ここに、スペインのサンチェス首相も加わったことになる。

「反トランプ」の潮流

ちなみに、先週は「トランプvsヨーロッパ」で、新たに二つの動きが起こった。一つは、4月12日に行われたハンガリーの総選挙だ。「ハンガリーのトランプ」ことビクトル・オルバン首相率いる与党・フィデスが大敗し、オルバン政権は16年にしてついに幕を閉じたのだ。

ハンガリー議会の総数は199議席で、フィデスは135議席から55議席に激減。代わって野党(連合)・ティサは、57議席から138議席に大躍進した。選挙戦最終盤には、J・D・ヴァンス米副大統領が、オルバン首相の応援のためにハンガリー入りする異例の選挙となった。それでも、1000万ハンガリー国民の「反オルバン」+「反トランプ」の勢いは止められなかった。

もう一つは、オルバン首相と並んでヨーロッパで「親トランプ」の急先鋒だったイタリアのジョルジャ・メローニ首相の離反だ。彼女は昨年1月20日のトランプ大統領の就任式にも、ヨーロッパの首脳として唯一列席するほど、親密ぶりをアピールしていた。

それが、2月28日に「トランプの戦争」(イラン戦争)が始まるや、3月11日に国会でこう述べた。

「これは国際法の範囲を逸脱する介入だ。イタリアはこの介入に参加しておらず、今後参加する意思もない。

特に、(2月28日の)イラン南部の小学校への爆撃(175人以上が死亡)は、虐殺だ。犠牲者の遺族に哀悼の意を表すとともに、こうした悲劇の責任者が直ちに明らかにされなければならない」

「虐殺の責任者」とは、すなわちトランプ大統領である。メローニ首相に呼応するように、4月16日には、ローマ教皇レオ14世が、訪問先のカメルーンで演説した。

「現在の世界は、一握りの暴君によって荒廃している。戦争の支配者たちは、殺戮(さつりく)や破壊には数十億ドルも費やすくせに、教育や復興など必要なことからは目を背けている」

「暴君」が、トランプ大統領を指すことも明らかだ。その前の12日にトランプ大統領が、「大統領を批判するような教皇は望まない」と、自分をイエス・キリストに見立てた合成画をつけて投稿。すると、メローニ首相がすかさず、トランプ大統領を再び批判した。

「トランプ大統領の教皇に対する発言を、私は容認できない。平和を呼びかけ、戦争を非難することは、教皇としての当然かつ正当な役割だ」

このように、ヨーロッパでは「反トランプ」の流れが、大きなうねりになっているのである。

中国に話を戻すと、習近平主席は4月15日午前、ロシアのラブロフ外相と会談した。ラブロフ外相は国家元首ではないので、着席は「上下関係」を見せつけて下記の写真のようにするのが「習近平スタイル」だ。ラブロフ外相の発言は、以下の通りである。

「プーチン大統領から習近平主席への心からの挨拶と温かい祝意を伝えたい。両国の国家元首による戦略的な指導のもと、ロシアと中国の関係は、複雑な国際情勢の中でも高い強靭さを示しており、貿易投資の協力は順調に推移し、人的交流は日増しに緊密化している。国連、SCO(上海協力機構)、BRICS(主要新興国)、APEC(アジア太平洋経済協力会議)などの多国間プラットフォームにおいて緊密な連携が取られている。

厳しく複雑な国際情勢に直面し、ロシア側は中国側と共に、両国の国家元首が合意した重要な共通認識を着実に実行し、ハイレベルな交流を維持し、実務協力を強化し、人的交流を促進していく。そして国際的な公平と正義を維持保護し、ロシアと中国関係のさらなる発展を推進し、世界の平和と安定のためにより大きな貢献を果たしていきたいと考えている」

このように、ロシアが中国に向かって、「国際的な公平と正義」とか「世界平和と安定のための貢献」などと説き、互いに肯(うなず)き合っているのである。すごい世の中になったものだ。

こちらも、表面的なことしか発表していない。実際には、中国とロシアが会談すれば、ドロドロしたヒミツ話が大半であろうことは容易に想像がつくが、内容は窺い知れない。

それでも、一般に中ロ会談で言えることが一つある。それは、「必要な方が必要でない方のところへ赴く」という習慣だ。とすれば、ロシア側に何か「急用」があったのである。もちろん、今年前半にプーチン大統領が訪中する地慣らしということがあったろうが、それだけではあるまい。

中国は武器供与しているのか?

考えられるのは、やはりウクライナ戦争とイラン戦争である。それは、5月14日に訪中を予定しているトランプ大統領への対策も含めてだ。

当初、ウクライナ戦争でロシアは、イラン製ドローンを輸入してウクライナと対峙していた。ところがいまや、イランは自国が戦争中なのだから、ドローンをロシアに出せるはずもない。

一方、イラン戦争でイランが使っているミサイルなどの武器は、主にロシアから以前買ったものである。とすれば、こちらも「弾切れ」の際に、戦争中のロシアから輸入するのは困難だ。

そこへ中国が、どう絡んでくるのか? トランプ大統領は4月15日のFOXテレビとのインタビューで、意味深な発言をした。

「中国がイランに武器を供与していると、私は聞いていた。それは、いろんなところで報道されているだろう。それで私は、彼(習近平主席)に『武器供与をやめろ』と書簡を送った。すると返信が来て、『基本的にそういうことはしない』と書かれていた」

中国はイランに武器供与しているのか? 中国外交部の郭嘉昆(かく・かこん)報道官は4月14日、こう答えている。

「中国の軍事品の輸出は、一貫して慎重かつ責任ある態度で取り扱っている。わが国の輸出規制の法律法規及び請け負う国際的な義務に基づき、厳格な規制のもとに実施している。

よって関連する報道は、純粋に捏造(ねつぞう)の部類に属するものだ。もしもアメリカが、それをもって中国への追加関税の口実にしようとするなら、中国は必ずや決然と対抗していく」

私は、詳しく調べたわけではないが、これまでの中国・イラン関係を鑑みて、イランに対する直接的な武器輸出は行っていないと見ている。それはひとえに、「アメリカの目」が恐いからだ。

経済的には、中国はイランと2021年に計4000億ドルの「25年間包括的協力協定」を結び、全面的にバックアップしている。この協定によって、イラン産原油の約9割が中国に運ばれている。中国からすれば、輸入原油の約13%がイラン産だ。

だが、中国の統計上では「イラン産原油の輸入」はゼロとなっている。イランから中国へ向かうタンカーは、一度マレーシアを経由して、マレーシア産原油を加える。そうしてすべてを「マレーシア産原油」としてカウントしているのだ。

中国はここまでアメリカに気を遣っているのだ。それは、アメリカの経済制裁の恐さを思い知っているからだ。

そのため、イランに救いの手を差し伸べたいが、それは「アメリカの怒りを買わない範囲内」となるだろう。ウクライナ戦争の時のロシアへの対応と同様だ。

ちなみに中国も、1月にアメリカがニコラス・マドゥロ政権を転覆させたベネズエラからの原油4%分と、イランからの原油13%分を合わせて、17%分を失った。これは中国経済に深刻な影響をもたらし、ガソリン価格は「危険水域」と言われる「1リットル=7人民元」ラインを越えてしまった。

そのため、ロシア産原油の輸入増強が不可欠である。そうした交渉も行ったに違いない。まさに、アメリカが起こしたイラン戦争によってロシアが潤い、ウクライナ戦争で有利になってアメリカを悩ませるという構図である。

ベトナム主席の「模範発言」

さて、4人目は15日午前中に習主席と会談を行ったベトナムの蘇林(トー・ラム)書記長兼国家主席。長く公安部長(警察庁長官)を務めたが、2024年7月に阮富仲(グエン・フーチョン)書記長が死去すると、翌月にベトナム共産党書記長に就任。その2週間後には、「北京詣で」を行って習近平主席を喜ばせた。

そして今月7日に国家主席にも就任すると、またもやいの一番に「北京詣で」に馳せ参じたというわけだ。蘇書記長・主席は、習主席が説く「中越運命共同体」にも賛同しており、「3+3」(外務・防衛・警察閣僚会合)も推進している。

蘇主席は習主席にこう述べた。

「今回は、私がベトナム国家主席に選出されて初めての外遊で、ちょうど昨年、習近平総書記・主席がベトナムへの歴史的な訪問を行ってから、1周年を迎える時期にあたる。

現在、ベトナムと中国の関係は積極的な発展の勢いを維持しており、戦略的なコミュニケーションは緊密だ。国防・安全保障分野では、対話から実務協力の段階へと移行し、経済貿易・投資およびインフラ協力は深く展開され、民間交流は非常に活発で、多国間コミュニケーションはさらに緊密になっている。

ベトナムは、習近平総書記がベトナム・中国関係に寄せている特別な感情と一貫した支持を重んじ、中国との関係発展をベトナムの客観的な必要性、戦略的選択、そして最優先事項としてしっかり位置づけている。そしてベトナムは引き続き、『一つの中国』政策を支持する。

また、中国側と共に戦略的コミュニケーションと高水準の戦略的協力を強化し、経済貿易、投資、鉄道などのインフラおよび観光協力の水準を向上させ、教育、研修、科学技術、人文、地方協力を強化し、陸上国境の管理と海上の平和の維持をより一層図っていく。習近平総書記が提唱した『グローバル発展イニシアティブ』『グローバル安全保障イニシアティブ』『グローバル文明イニシアティブ』『グローバルガバナンス・イニシアティブ』を支持し、中国側と共に『人類運命共同体』の構築を推進していく」

まさに、「模範発言」である。今回の蘇主席の訪中で、両国は計32件もの協定に署名し、「中越運命共同体共同声明」を出した。

1億人の人口を抱えるベトナムも、イラン戦争によるオイルショックに苦しんでいる。共同声明には記されていないが、中国から何がしかの「エネルギー支援」を受けたかもしれない。

総じて言えば、中国は、いまじっと「トランプ帝国の自壊」を待っている状態だ。そして「瘋癲のトラさん」が無様な動きをすればするほど、中国の本望は達成に近づいていくことになる――。

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