●『東ラブ』『ロンバケ』と共通するもの
北村匠海が主演を務めるフジテレビ系ドラマ『サバ缶、宇宙へ行く』(毎週月曜21:00〜 ※FOD・TVerで見逃し配信)が、13日にスタートした。

本作は、海辺の町で教師になるという“なんとなく”の動機で、とある田舎町の水産高校に赴任してきた新米教師が、同じく“なんとなく”日々をやり過ごしてきた生徒たちと出会い、高校自慢の“サバ缶”を“宇宙食”にするという夢に向かっていく、実話をもとにした青春学園ドラマだ。

栄枯盛衰――そうした言葉さえ思い起こさせるほど、かつて一時代を築いたドラマ枠“月9”。そのブランドイメージは今、大きな転換期にあると言っていいだろう。だからこそ、あえてこの枠に必要なもの、すなわち“柱”を考えてみたい。

『サバ缶、宇宙へ行く』主演の北村匠海 (C)フジテレビ

○“THE月9”と呼びたくなる作品

やはり恋愛だろうか、人気俳優のカップリングだろうか、あるいは誰もが憧れるキラキラとした世界観だろうか。しかし、恋愛が価値観の中心ではなくなり、人気俳優も飽和し、“誰もが憧れる最大公約数”が見えづらくなった令和という時代において、“月9”は成立しにくくなっているのかもしれない。

だが、本作『サバ缶、宇宙へ行く』を観て、かつての“月9”にあった“本質的な要素”を思い出した。

それは、“青春”である。

かつての『東京ラブストーリー』(91年)も、『ロングバケーション』(96年)も、言い換えれば“遅れてきた青春”だった。また『ビーチボーイズ』(98年)や『やまとなでしこ』(00年)、さらには『HERO』(01年・14年)でさえも、題材は自分探し・恋愛・事件と異なれど、その根底には“大人の青春”があった。

つまり“月9”とは、テレビドラマが本来持つべき“憧れの青春”を映し出してきた枠なのだ。

そしてその“憧れ”は、必ずしも華やかである必要はない。本作のように、“あの頃過ごせなかった青春”や“かつての青春の追体験”を想起させるものであれば、それだけで十分に“月9”たり得る。

その点で、本作には思わず憧れてしまうほど鮮明な“青春”が描かれている。いわば本作は、“THE月9”と呼びたくなる作品だ。

ダイビングが趣味で、海辺の高校に赴任するという目的こそあるものの、生徒への熱意は薄いまま、“なんとなく”やってきた新米教師・朝野(北村)。そんな彼が、同じように日々をやり過ごしていた生徒たちや町の人々と出会い、触れ合う中で、やがて“宇宙食開発”という思いがけない壮大な夢へと導かれていく――その道筋が第1話では丁寧に描かれた。





(C)フジテレビ

○大仰ではない場面にすら涙がにじむ

中でも印象的だったのは、大量発生したクラゲを使った豆腐作りのエピソードだ。生徒たちが楽しみながら生み出した“クラゲ豆腐”を研究発表会へと出し、成功を収めた――その結果そのものではなく、そこへ至る過程にこそ、本作の眼差しは向けられていた。

発表会へ向かう過程で、生徒たちの個性や熱意を押し殺し、“成功の型”を押し付けてしまったことに対する朝野の反省。その“ささやかな反省”をドラマチックに昇華できるのは、本作に確かな青春が描かれているからだろう。

さらに、劇中で繰り返される「やってみなくちゃわからない」というセリフ。それはやがて、宇宙食開発という大きな夢へとつながる“起点”として、静かに、しかし確かに響いた。

第1話は起伏が少なく、キャラクターが際立っているとも言い難い、いわば“静かな立ち上がり”だった。それでも、ふとした思いの揺らぎや、わずかに芽生える情熱、夢へと向かう視線。そうした小さなきっかけを丁寧にすくい上げることで、決して大仰ではない場面にすら、不思議と涙がにじむ。そんな物語に仕上がっていた。

それほどまでに本作は、純粋で、まぶしく、どうしようもなく憧れてしまう“青春”を描き出しているのだ。

●宇宙=鈴木雅之監督作品の必然
鈴木雅之監督

余談だが、筆者の“青春”は、本作の監督である鈴木雅之の作品群とともにある。左右対称の構図、画面いっぱいのクローズアップ、横一列に並ぶ人物たち、真横真上、右へ左へのカメラワーク…その演出は、常に“画の個性”を爆発させてきた。“なんとなく”テレビドラマを眺めていた少年時代の筆者にとって、それは紛れもない衝撃だった。

『ショムニ』や『HERO』に代表されるように、鈴木演出はどこかファンタジックで、あえて“違和感”を立ち上げる。だからこそ、誇張された世界観の中で、個性豊かなキャラクターたちが生き生きと動き回ることが許されてきた。

しかし本作は“青春”ドラマである。誰の心にもある機微をすくい上げる共感やリアリティが求められる以上、氏の持ち味であるファンタジーとは一見、相性が悪いようにも思える。

だが、筆者は知っている。同じく宇宙を題材とした2007年のドキュメンタリードラマ『女の一代記 向井千秋〜夢を宇宙に追いかけた人〜』において、鈴木氏のファンタジックな演出が、作品の奥底にあった情熱をすくい上げ、むしろ鮮明に浮かび上がらせていた、あの“奇跡”を。本作にも、その奇跡が宿ると信じているし、すでにその予感もある。

さらにもう一つ余談を重ねるならば、鈴木作品はしばしば“宇宙”から始まる。

『天才柳沢教授の生活』(02年)第1話、『熱烈的中華飯店』(03年)第1話、そして映画『マスカレード・ホテル』(19年)冒頭、いずれも“宇宙”から幕を開ける。(もっと言えば、『ショムニ(2)』のタイトルバックも宇宙から始まっている)

宇宙と言えば鈴木雅之なのだ。だからこそ『サバ缶、宇宙へ行く』がフジテレビで放送される以上、鈴木雅之氏が今作の演出を手がけるのは絶対!なのである。確かに癖は強く、賛否も分かれるだろう。しかし鈴木雅之作品は筆者にとっての“青春”である。だからこそ、これからもその魅力を信じるし、発信し続けていく。

























(C)フジテレビ

「テレビ視聴しつ」室長・大石庸平 おおいしようへい テレビの“視聴質”を独自に調査している「テレビ視聴しつ」(株式会社eight)の室長。雑誌やウェブなどにコラムを展開している。特にテレビドラマの脚本家や監督、音楽など、制作スタッフに着目したレポートを執筆しており、独自のマニアックな視点で、スタッフへのインタビューも行っている。 この著者の記事一覧はこちら