「実は7割が赤字」病院経営はなぜ行き詰まるのか…エリート医師でも避けられない《廃業の本質》
医療機関や介護施設の倒産、休廃業・解散が相次いでいる。背景としてよく挙げられるのが、人手不足や物価高、診療報酬・介護報酬をめぐる厳しい環境だ。
もちろん、それらの影響は小さくない。だが今回の問題は、それだけで片づけられるものではなさそうだ。なぜなら、医療や介護の現場では、目の前の仕事を回す力と、組織を持続させる経営の力が、必ずしも一致しないからである。
さらに、制度や公的資金に支えられてきた構造のなかで、そのゆがみは長く見えにくいままだった。
いま、医療・介護の現場で本当に起きているのは何か。今回は、数々の事業再生や資金繰りの相談に携わってきた高橋健一朗氏に、“廃業の本質”を聞く。
病院経営の7割が赤字という現実
病院やクリニックといえば「安定したビジネス」の代表格。世間にはそんなイメージが根強くある。地域のインフラとして常に患者が訪れる以上、そう簡単には揺るがないと信じられているからだ。
ところが、倒産危機や資金繰り悪化の現場で多くの経営者を支えてきた高橋健一朗氏に言わせれば、その大前提からして間違っているとか。
「医療機関の倒産を『黒字倒産』や『意外な共通点』として取り上げるニュースをよく見かけますが、現場の実態はまったく異なります。そもそも、日本の病院は7割前後が赤字なんですよ。世間は儲かっている残りの3割にフォーカスしているだけで、大半はもともと経営がうまくいっていません」(高橋氏、以下同)
つまり、ここ最近の環境変化で急に業績が悪化したわけではない。長年抱え込んできた構造的な赤字体質が、いよいよごまかしきれなくなって表面化した。それが、いま起きている倒産ラッシュの正体なのだ。
潰れたのではない。限界が見えただけ
多くのメディアは、医療機関の倒産を予期せぬ悲劇として報じる。これまで順調だったはずの病院が、不運な外的要因によって突如として行き詰まったかのように描かれるケースが目立つ。
だが、高橋氏の指摘通り、大半が赤字を抱えている状況を鑑みれば、倒産は決して例外的な事象ではない。むしろ、起こるべくして起きていると捉えるべきだろう。
「病院として自立して運営できているわけではなく、国の支援施策によって公的機関のように成り立っているところが少なくありません。高齢者が増えたから当然儲かっているだろうという印象を持たれやすいですが、実態は商売としてきちんと成立していないケースが大半です」
一部の成功事例だけを切り取り「医療=盤石」と思い込むのは危険だ。今起きている事態は、一部の不運な病院が倒れたのではなく、長年放置されてきた業界全体の「経営能力の欠如」が一斉に露呈した結果にほかならない。
腕のいい医師ほど、経営でつまずく理由
なぜ、病院経営はこれほどまでに脆いのか。最大の要因は、トップに立つ人間の“適性のズレ”にある。目の前の患者を救う高度な医療技術と、資金繰りや人材配置をコントロールして利益を生み出す手腕は、まったく別次元の能力だ。
しかし医療業界では、現場で腕を磨いた優秀な医師が、そのままエスカレーター式に院長や理事長へと就任する構造が定着している。
「厳しい言い方になりますが、完全に経営が下手だから起きた結果です。公務員や公共機関のように仕事をしていて、商売として病院を回せていない。医者はあくまで『職人』であって『経営者』ではありません。それにもかかわらず、現場出身の人間が経営の舵取りをしてしまう。ここが大きな問題です」
職人としての矜持や使命感は、医療現場では不可欠だ。だが、それがひとたび経営の場に持ち込まれると、たちまち組織の首を絞める足かせに変わる。
「例えば、費用対効果のシビアな計算を後回しにして、数億円もする最新機器を院長の鶴の一声でポンと導入してしまうんです。あるいは、毎月赤字を垂れ流している不採算の診療科を『地域に必要だから』『患者さんが困るから』と情で残し続けてしまう。
さらに、過酷な現場を支えるスタッフの労務管理すらも、『医療従事者としてのやりがい』に頼りきっている。経営者として本来なら真っ先に見直すべき部分が、ことごとく放置されているケースを私は数多く見てきました」
医療の質を追求する純粋な思いと、シビアな事業戦略。この2つが混同された結果、本来なら真っ先に手をつけるべき組織のテコ入れや撤退の判断が、ことごとく後手に回っていくのだ。
「三重苦」は口実、“本当の原因”は別にあった
加えて、医療や介護業界ならではの「公的な支え」が、経営トップの危機感を麻痺させてきた構造も見過ごせない。一般の民間企業であれば、努力を怠るとすぐに市場から淘汰される。だが、病院や介護施設は“国からの報酬や補助金”によって収益が担保されやすい。
「公的な資金で成り立つ業態は、古いやり方のままでもどうにかなってきました。要するに、必死に経営努力をしなくても回る期間が長すぎたんです。いわゆる“お役所仕事”のような感覚で運営してきたため、本来の経営スキルが育たなかった。だからこそ、少し外部環境が悪化しただけで一気に脆さが露呈してしまうわけです」
制度に守られた環境に甘えられる状況が続いたことで、組織内の非効率や無駄は放置されてきた。その結果、「自力で稼ぐ力」を持たない組織が、長年にわたり増えていったのだ。
現在、メディアで盛んに報じられている「人手不足」「物価高」「報酬改定」の三重苦。たしかにこれらは経営を圧迫する重い負担となっている。だが、一連の廃業問題の原因を環境要因だけに求めるのは本質から外れていると、高橋氏は語る。
本当に壊れていたのは、環境ではなく経営そのものだった。もともと“基礎疾患”を抱えていた組織が、環境変化のストレスに耐えきれず倒れたにすぎないのだ。
「補助金をもらわないと回らないうえに、人もいないと成り立たない。この状況で環境が悪化すればどうなるか、火を見るより明らかです。本来ならもっと早い段階で見切りをつけるべきなのに、目の前の現場を回すことが優先され、経営の根本的な見直しはずっと後回しにされてきました」
「地域医療のため」「利用者のため」といった大義名分が、皮肉にも撤退の決断を遅らせる。資金が完全にショートし、身動きがとれなくなる限界まで続けてしまう。その結果、利用者やスタッフなど周囲に甚大な被害を撒き散らしながら、最悪の形で倒れていく...。
なぜ彼らは、傷口を広げる前に適切な判断を下せなかったのか。そして、この「限界を超えてもやめられない構造」は、決して医療機関だけの問題ではない。公的資金に依存してきた介護業界などにも、今まさに連鎖倒産の波が押し寄せようとしている。
続く後編『「3000万円の価値がわずか500万円に」スタッフ一斉離脱で機能停止した介護施設の「残酷すぎる末路」』では、実際の介護施設で起きた“内部崩壊”を通して、事業が壊れるときに現場で何が起きるのかを生々しく追う。
【つづきを読む】事業価値3000万円の介護施設が、わずか500万円まで値崩れ...スタッフ一斉離脱で機能停止した介護施設の”残酷すぎる末路”
