工事現場で働く人は男性がほとんどだ。なぜ女性は増えないのか。ショベルカーを操り、SNSで“重機女子”を名乗り発信を続ける東香織さん(41)は「世間ではよく『きつい・汚い・危険』の“3K”が原因と言われるが、本質的な原因は別にある」という。ライターのワダハルキさんが聞いた――。(後編)

■真夏のミニユンボは“ほぼ地獄”

建設業界のインフルエンサーで、「重機女子」と呼ばれている東香織(41)さん。毎日現場に出る傍ら、「kaori」という名義でInstagramの発信をしており、フォロワーは2026年3月現在で1万6000人いる。人気テレビ番組『激レアさんを連れてきた。』への出演や、メディアやSNSを通じて建設業の魅力を発信し続けている。

重機を愛していると語るほど重機好きな東さんだが、そんな彼女でもユンボ(ショベルカー)を操縦するのが嫌になるほどつらいことがあるという。

まず挙げられるのが、真夏の「空調がついていないミニユンボ」の暑さだ。

中型以上のユンボの操縦席には、窓や屋根、クーラーなどが付いた「キャビン」と呼ばれる設備が搭載されている。だが、小型のユンボにはキャビンがないケースが多く、関東圏を活動拠点としている東さんは「キャビン無しミニユンボ」に乗ることがほとんど。

筆者撮影
こちらはキャビン付きの大型ユンボ。窓がついているタイプは、東北や北海道など寒さの厳しい地域で導入されることが多い - 筆者撮影

しかし、この「キャビン無しミニユンボ」がかなりの曲者なのだ。

「ミニユンボにキャビンがないということは、クーラーが付いていないということなんです。なので、特に真夏の場合は上からは強い日差し、下からはミニユンボのエンジンの熱にクーラーなしで耐えないといけないので、本当に地獄ですね」

写真提供=東香織さん
こちらがキャビン無しのミニユンボ。クーラーが付いておらず夏になると非常に暑い - 写真提供=東香織さん

■空調服も使えず、暑さに耐えるしかない

まさに“熱のサンドイッチ”状態になる真夏のミニユンボ。猛暑を記録した昨年の夏には、座席の温度が55℃まで上がったそう。対策としてファン付きの空調服を着るそうだが、東さん曰く「気休め程度」だという。

また、その空調服が最悪の事態を引き起こすこともある。

「根伐り(所定の深さまで地面を掘る作業)をするときに、都内の場合だと水が湧いてくる土地に当たることが多いんです。そのときには、土砂が液状化しないように改良剤(土の強度や安定性を高める材料)を使用して土を固めるんですが、その改良剤は粉塵になっているので、空調服を使うと粉が舞うんですよ。しかも、改良剤には健康に良くない物質も含まれているため、絶対に吸えない。なので、そもそも空調服すら使えないんです」

写真提供=東香織さん
根伐り後の地面。水を多量に含んでドロドロになっていることがわかる - 写真提供=東香織さん

■矛盾が多すぎる“謎の現場ルール”

次に挙げられるのが、建設現場に蔓延る“謎ルール”だ。

すべての建設現場では、国が定めた法規やルールに則って作業を進めなければならない。しかし、その法規やルールのなかには、思わず「こんなもの絶対にいらない!」と思ってしまうような“謎ルール”がいくつか存在している。

「例えば、現場によっては落下防止用にフックが二つ付いている『二丁掛け安全帯』の着用が義務化されているんですが、なぜか命綱を付けない重機オペレーターも着用しないといけないんです。これが根伐りのときに梯子を使って地下に降りる人ならわかるんですが、重機オペレーターにはそうした作業工程がありません。なので、二丁掛け安全帯は本当に無駄なんです」

筆者撮影
ユンボに乗ると自然に笑みがこぼれる東さん - 筆者撮影

二丁掛け安全帯の着用そのものが、直接事故につながるわけではない。しかし、不要な二丁掛け安全帯を着用することで、本来は着用できたはずの他に必要な装備を着用できず、事故や怪我に繋がる可能性はある。

また、真夏の熱中症対策として、現場によっては体温を測るリストバンドの着用も義務付けられているという。そのリストバンドは一定の体温を超えるとアラームが鳴る仕組みのもので、アラームが鳴ると作業を止めなければならない。

しかし、前述の通り、真夏になればアラームが鳴る温度を軽く超えてくる。すると、現場の作業をその都度止めなければならないのだが、頻繁に作業を止めてしまえば、当然スケジュールに遅れが出て工期に間に合わなくなる。

建設現場のルールは作業員たちの安全を守るためのものだが、必要以上にルールが増えてしまうと現場の業務を圧迫してしまう。必要なルールは残しつつも、現場を疲弊させるだけのルールには調整が必要ではないだろうか。

■女性作業員を悩ませる「トイレ問題」

また、女性ならではの問題もある。

建設現場はいわゆる“3K(きつい・汚い・危険)職場”だと言われているが、そのなかでも女性の場合は、トイレで不自由を感じることがかなり多いという。

「小〜中規模の建設現場だと、現場専用のトイレの設置に時間がかかったり、設置予定がない場合が多いです。現場にトイレがないときは、近くのコンビニなどに借りに行くことになるのですが、コンビニまでの距離が遠いとトイレ休憩で作業が中断してしまいます。

それでは効率が悪くなってしまうので、現場に出るときには簡易トイレは必須なんです。私は箱状の容器にビニール袋を敷いたものを使っています。女性は男性よりもトイレに行くことが多いので、作業中にトイレに行きたくなることもしょっちゅうです。でも、その作業が終わるまでは我慢するしかないので、我慢のし過ぎで膀胱炎になることも珍しくありません」

写真提供=東香織さん
仮設トイレを使うために必要な、仕切り用の簡易テントを組み立てる東さん - 写真提供=東香織さん
写真提供=東香織さん
テント設営後の仮設トイレ内の様子。こんなに狭い環境でトイレをしなければならないという状況がある - 写真提供=東香織さん
写真提供=東香織さん
現場に行く際に持ち歩いている携帯トイレ。小さい箱のような形状で、中にはビニール袋が敷かれている - 写真提供=東香織さん

女性特有の問題はトイレだけではない。

「最近は、元請けの建設会社が現場を管理するためのクラウドシステムを導入しているんですが、そのシステムには作業員本人の個人情報や、緊急連絡先の登録が必須になっています。それはつまり、システムを管理している元請けの人たちは簡単にその情報を覗けるということなんです。トイレの問題もそうですが、そもそも建設現場では女性がひとりもいないことを前提に制度や設備が作られてしまっているんです」

昨今、個人情報の管理は、業種を問わずあらゆる企業・行政で厳しく求められている。しかし、建設業界ではそういった社会の常識が通用しないこともあるという。

■見ず知らずの人から連絡が来ることも

「以前に私がテレビ番組に出たときに、SNSのDMに『東さんって、○○の現場に入ってました?』って、突然連絡が来たんです。そこはまさに私が入っていた現場だったんですが、テレビでは公開していないので、私が知らない人が知っているはずはないんですね。なので『なんで知ってるんですか?』って聞いたら、『その現場の元請け会社の人間なんですけど、システムで見ました。東さんって、○○にお住まいなんですね』って」

筆者撮影
建設業界の情報管理がいかに不十分であるか、取材中も耳を疑うばかりだった - 筆者撮影

こうした事例は頻発しているわけではないようだが、現行の制度ではこうした問題が発生してしまうおそれがある。作業員の個人情報にアクセスする際の権限管理や、業務以外の目的に使用した場合の罰則規定など、働く女性を守る仕組みづくりが重要ではないか。

■「女性向きの現場仕事」もあるはずなのに

一口に「現場仕事」と言っても、その種類は多岐にわたる。

もちろん、重い荷物を運んだり、長距離を移動したりと、体力を求められる仕事は男性の方が向いているだろう。しかし、例えば細かい手作業が求められたり、狭いスペースに入って作業をしたりする仕事は、逆に男性よりも女性のほうが向いている可能性はある。

特に東さんが従事している重機オペレーターの仕事は、重い荷物などを運ぶ必要はなく、重機の操作技術が要求される仕事だ。運転に慣れれば男女ともに活躍できるはずの職種だといえる。どの業界も働き手不足に悩んでいるが、建設業界も女性が活躍できるようになるための環境を整える必要があるだろう。

筆者撮影
ユンボのブーム根元に立って微笑む東さん - 筆者撮影

しかしながら、現場仕事のイメージの悪さや、東さんが挙げたような無視できない問題点があるのも事実。ゆえに、業界としてなかなか女性が入ってこないのが現状なのだ。

■小池都知事に直談判し、課題が一歩前進

インフルエンサーとして「重機オペレーターの仕事の素晴らしさ」を発信している東さんは、数年前からこれらの問題に意識を向けていた。その解決策の一つとして、政治家や行政、大手企業とのディスカッションを定期的に行っているという。

「過去には、私を含めた女性の重機乗り数名で建機メーカーさんとの意見交換会に参加しました。また、昨年も、公明党の松葉多美子都議会議員や、小池百合子東京都知事に現場のトイレ問題についてお話をしにいきましたね」

写真提供=東香織さん
都庁で、公明党の松葉多美子都議会議員に陳情しに行った際の様子。東さん以外の女性も、建設現場で働いている - 写真提供=東香織さん

このディスカッション後には、東京都の新規事業としてトイレ問題解決のために都の予算が出ることが正式に決定したという。3月27日に可決された「令和8年度東京都予算案の概要」を確認すると、「働く女性のための施設整備改善事業」として、2億円の新規予算がついていることがわかる。

東さんたちが訴えた建設現場で働く女性向けの、トイレカーや仮設トイレ用の助成金が新設された。予算は2億円。3月27日にこの助成金も含めた予算案が可決された(東京都公式サイト「令和8年度東京都予算案の概要」より)

何十億も予算が出るわけではない。限られた予算ではあるが、東さんや、同じ立場で働いている女性たちにとって大きな一歩となることは間違いない。

「小池さん含め、政治家の方にはこれまで何名かお会いさせていただきました。でも、今思えば数年前の重機フェスタで小泉進次郎さんに重機習字を披露したことが、いまの活動の原点になっているかもしれないですね(笑)」

写真提供=東香織さん
3年前の『よこすか建設フェスタ』参加時には、小泉進次郎さんの前で重機習字を披露した - 写真提供=東香織さん

■海外で重機習字を披露したい

女性が重機オペレーターとして働くことには、まだまだ多くのハードルが存在する。東さんでさえいまだにハードルを感じているのだから、未経験の人ならなおさらだろう。

だが、現状に対する問題意識を持ち、それを解決しようと奮闘する東さんのような人たちのおかげで、建設業界にも女性を受け入れやすい土壌が生まれつつある。

写真提供=東香織さん
2025年に参加した「全国建設青年会議」では、建設業界の大物や建設族の議員らの前で忌憚のない意見をぶつけた - 写真提供=東香織さん

「私たち女性の意見は、今はまだ“少数の意見”でしかありません。でも、私たちが発信をしたり、行動したりすることで、少しでも多くの女性に重機の仕事に興味を持ってもらって、重機オペレーターへの一歩を踏み出してほしいですね。そうなれば、いつか私たちの意見が“多数の意見”になって、女性が働きやすい環境を作れるかもしれませんから」

これからは経営者としても、活動家としても、建設業界と向き合っていく。とはいえ、すべての活動の原点が「重機愛」にあることに変わりはない。

「これからも、身体が動く限りは重機に乗り続けたいです。今の密かな夢は、重機習字のパフォーマンスで世界を周ることですね(笑)」

溢れ出る重機愛を燃料に、今日も東さんは新たな道を切り開いていく。

筆者撮影
女性重機オペレーターが働きやすい社会を作るため、自身の夢のために、東さんは重機に乗り続ける - 筆者撮影

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ワダ ハルキ(わだ・はるき)
ライター、カメラマン
1998年生まれ。大阪出身。大阪府立大学卒業。卓球メディア「Rallys」でライター活動をスタート(自身の卓球歴は15年)。現在は卓球以外にも大学ミス・ミスターコンの取材も精力的に行う。東洋経済オンライン、集英社オンライン、プレジデントオンラインなどに寄稿。
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(ライター、カメラマン ワダ ハルキ)