映画『小学校〜それは小さな社会〜』が話題になり、日本式の教育が世界で注目を集めている。しかし、その裏には先生たちの長時間労働の問題がある。どう解決していけばいいのだろうか。

【映像】超多忙な教員の仕事内容

 ニュース番組『わたしとニュース』では、自治体向けに学校改革のアドバイスなどを手がける一般社団法人ライフ&ワーク代表理事の妹尾昌俊氏の見解を交えながら、同映画を手掛け、初の著書『それでも息子を日本の小学校に通わせたい』を執筆した映画監督の山崎エマ氏と慶應大教授の中室牧子氏とともに、見直される日本式教育のメリットやデメリットについて考えた。

■「ずっと気が抜けない」教員の長時間労働の実態

 世界にも見直される「日本式教育」。学校という小さな社会での学びのメリットもある一方で、犠牲になっている存在にも目を向けるべきだと妹尾氏は指摘する。

「公立の小学校はほとんどの場合、担任の先生とかが理科の実験から給食の世話、掃除、算数、国語、道徳と、9教科10教科前後プラス教科指導以外のいろいろなこともやっているので、本当にずっと気が抜けない」(妹尾氏、以下同)

 OECDの調査によると、日本の小学校教員の1週間の勤務時間は平均52.1時間で、参加国55の国と地域で最も長いという結果に。前回の調査より4時間ほど短くなっているものの、事務作業や課外活動の時間が平均を大きく上回っている。

「文科省の集計でも精神疾患の方も増え続けている。もちろん過密労働だけの原因じゃなくて、人間関係とかいろいろな要因もあるが、明らかに先生方がやはり息をつく暇もない。様々なこと、子どものケアや指導をしているというのは良さもある一方で問題とか限界も多くなっている」

 では、教員の負担を減らすにはどういったことがアイデアとして考えられるのだろうか。

「例えば大学とかあるいは同じ公務員の世界でも、市役所とか県庁の職員は掃除の時間はほとんどない。シルバー人材の方などにアウトソーシングされている。たまに体験するのは構わないと思うが、これほど毎日のようにさせているのは疑問に思う」

 まずは現状の日本式教育の中で維持すべきもの、縮小するもの、拡大するものの点検を行い、教育による恩恵と教員の負担のバランスを考え直す必要があると話す妹尾氏。そしてもう1つが、担任1人がクラスの全てを見るという仕組みの見直しだ。

「例えば1学年3クラスあったとしたら、それを4、5人の先生で交代しながら見ていきましょうとか。特に育児とか介護している先生にとってもすごく重要な話で、育児・介護をしている人は送り迎えとかいろいろなことがあるので、朝早く来て夕方遅くまでいるのがなかなか難しい先生がいたり、短時間勤務の方もいる。チーム担任制だと一部の時間だけその担任の業務ができる。そういったいろいろな方にとって働きやすい職場作りという意味からも、チーム担任制・複数担任制も検討課題の一つだと思う」

■「本来業務以外の切り離し」と「外部化」のメリット・デメリット

 海外の先生たちと比べて、日本の先生たちはとにかく長時間労働だ。こうした現状について山崎氏はどう見ているのか。

「社会や親側はこれだけのことを先生に求めていて、求めすぎていると思う。まずそこから理解することだと思う。先生方は子どもたちに向き合う時間だけじゃなく、本当にやることが多い。これは海外から見ると『すごいね』って言われる部分だったけれど、だから大変なのだと思う」

 妹尾氏に現状を聞いたところ、「長時間・ノンストップ・ワンオペ労働」が定着しており、給食は「指導時間」、休み時間は「見守り」と必要な休憩が取れていない状態だという。こうした現状を踏まえ、中室氏は次のように指摘する。

「この問題は何を改善すべきかをきちんとターゲットすることが必要だと思っている。教員の働き方については、教員勤務実態調査という調査を数年に一回、文科省がやっている。その中で、多くの教員が『教員が本来業務としてやる必要のない仕事は非常に負担が重いと感じる』と言っている。我々も大学で教えているのでよくわかるが、本来業務である教育や研究などの時間が多少伸びたとしても、『負担だな』『しんどいな』『もうやめたいな』と思わないが、関係ない仕事が増えてくると非常に苛立ちが募ってくる」

「例えば、出張申請や入試の業務など、本来の教育や研究と一切関係ない仕事だから、やっぱり学校の先生も同じなのではないかと思う。転校の雑務とか出張申請とか出欠席の記録とか、すごく多い。そういう本来教員がやることではない仕事をちゃんと切り離していくことが重要だと思う」

 では、学校改革をどのように進めていけばいいのか。妹尾氏は改善案として「掃除は一部外部化を」「1学年を複数教員でカバーするチーム担任制導入」「休み時間など見守りには支援員の導入・増員」の3つ挙げている。これに対し、山崎氏は次のように述べる。

「3つ目の学校に大人を増やすという、先生じゃなくていいものは別の方がやるのは、それがいいのではないかと思いつつ、どこに配置するか。休み時間は先生と子どもが関わりを持てる時間なので、それよりは理科の実験とか算数とか、そういうところはスペシャライズした人が入るとか。どこに支援員を入れるかは考える必要があると思う」

「掃除も教室を綺麗にするのが目的だったら当然子どもがやらない方がいいと思うけど、そうではないと思う。自分たちのことを自分たちでやる練習を今まで日本社会では子どもの頃からやってきている。だからこそ今の社会があると思う。掃除の目的を考えると、確かに毎日じゃなくてもいいのかもしれないが、掃除がなくなったら相当日本社会は変わると思うので、ここも議論した上で考えなくてはいけない」

 妹尾氏の改善案について、中室氏はどう考えるのか。

「非常に合理的だと思う一方で、これは目標が教員の負担を減らすことになっていると思う。でも、教育の目標は子どもたちの成果にあるのだと思うので、掃除を外部化すると先生は助かるかもしれないけれど、子どもの教育効果はどうだろうと考えてしまう。2つ目も同じで、複数教員でカバーすると先生たちの負担は減るかもしれない。でも、ワンストップで全人格的な教育をとやってきた日本の教育の良さは失われないだろうか、子どもたちにとってどうなのだろうかとは思う」

「海外の研究を見ても、いわゆる教科担任制というのを入れると、小学校低学年の子に関しては、先生との愛着関係が薄れることによって成績が下がってしまったことを示す有力な研究もあるので、ここは先生の働き方改革も大事だけれど、子どもの成果がきちんと可視化されて、それがちゃんと最大化されていくことも注意して見なければいけないと思う」

(『わたしとニュース』より)