フリーアナウンサー・神田愛花『私の千円』
手にあまる悩み事
先日、京都の妙徳山華厳(けごん)寺へ参拝に行った。
別名「鈴虫寺」とも呼ばれ、数千匹の鈴虫が鳴く客殿で、30分ほどお坊さんの小気味好い法話を聞く。そして御守りと共にお地蔵様に祈願するのだ。鈴虫寺のお地蔵様は珍しくわらじを履いている。それ故、住所をお伝えすると、お地蔵様が自宅まで来てくださり、願いを叶えてくださるという。
これまで私たち夫婦の願い事は見事に叶い、お礼参りをしてはまた新たなお願いを……を繰り返し、今回で5〜6回目になる。
実は私、昨年9月頃からずっと同じ悩みを抱えてきた。それが原因かわからないが、15年近く増減がなかった体重が昨年末に3kg落ちた。身体に出るほどかと驚き、もう一人では解決できないと判断。(最後の手段、鈴虫寺の力をお借りしよう)と今回、参拝したのだった。
法話を聞いている最中、一緒に来た夫がアイコンタクトを取ってきた。「(今の愛花にぴったりなお話だね)」と。お坊さんは「すべては自分の気持ちが招いていること」とお話しになった。
何かあった時、それを″嫌なこと″と思ったのは自分自身。そのマイナス思考で他のことも捉えてしまうから、「自分には嫌なことばかり起こる」と感じてしまう。自身の受け止め方次第ですべて変わると教えてくださった。
本当にその通り。この7ヵ月、悩みの種である出来事を中心に、そこから派生する少しでも不快に感じることすべてを、「嫌なことが起きた」と思ってきた。だが、そう判断しているのは私自身だ。
たった30分で生まれ変われた気がした。もう悩まない。良くも悪くも自分で決められるのであれば、この瞬間から何事もプラスに捉えるぞ!
法話が終わると御守りを授かる。授けてくださるのは、これまで何度か法話をお聞きしたことがある、このお寺のご住職だった。「あら、こんにちは」とお声をかけてくださり、私たちも「こんにちは!御守りをお願いします」と言うと、納める金額を伝えてきた。
手持ちがぴったりなかったので、千円のお釣りがくる金額を渡した。すると住職は御守りを夫に渡しながら、「京都もようやく桜が開花したんです」と仰った。「いいタイミングでお邪魔できました」と応える夫。そして「お気を付けて」とご住職が仰り、後ろの人にその場を譲った。
私は、(ん!?)となった。(ちょっと、お釣りは?)と。出口に向かう夫の後ろで、(私の千円は?)と何度も思った。だが声に出せない。なぜならつい先程、「何事も自分が招いている」と解釈することに決めたばかりだからだ。
マイナスをプラスに変換!?
お釣りの千円を、″返ってこなかった″と捉えるのではなく、″返ってこなくてよかった千円″と捉えるべき……なんだよね!? と自分に言い聞かせた。
じゃあ何代だと思えば、″返ってこなくてよかった千円″になるんだ!? と、考えまくった。京都の開花情報代? それとも住職とお話できた代?(キャバクラみたいだけれど、住職と直接お話できたことに千円払ったと思うしかない)と思った。
だが下駄箱で靴を取り出す夫に、つい小声で、「ねぇ、さっきお釣りが千円あったはずなのに貰えなかったの」と言ってしまったのだ。「え!」と驚く夫。すかさず私が、「でもご住職と直接お話ができた分の支払いだと思えばいいよね?」と、生まれ変わった私の考えを伝えた。
すると夫は、「なんでも自分次第だから?」と大笑い。そして「引き返して貰って来ようか?」と言ってくれたが、新生・愛花は断った。
靴を履き、私の中で千円への未練を断ち切るべく客殿に背を向けた時、先程の住職が走って現れた。「お釣り、渡してなかったですよね!」と仰るその手には千円札が。(私の千円!)と目が釘付けになった。「ご住職とお話できた代金だと思うようにしようかと……」と伝えると、「いやもう! 言うてや!」とご住職。千円札は無事、私のお財布に収まった。
短い時間だったけれど、これまでなら嫌だと思った出来事を、プラスに受け止めることができた。もっと長い時間できるようになれば、今抱えている悩みも消えていくのだろう。
だが、そうなるにはもう少し鍛錬が必要のようだ。とりあえず今は、お地蔵様が来てくださるのを待とう。そう思いながら鈴虫寺を後にした。
かんだ・あいか/1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中
『FRIDAY』2026年4月17・24日合併号より
イラスト・文:神田愛花
