「うちが安いんじゃない。よそが高いだけ」原価が倍になっても1杯300円のラーメンを貫く町中華店主の《信念》

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1杯300円。物価高が続くいま、この価格でラーメンを出し続けることは異例と言っていい。埼玉県川口市の中華料理店「銀龍」では、それが当たり前のように提供されている。

前編記事『この時代にラーメン「1杯たった300円」を貫く町中華があった…87歳店主が語る“激安ラーメン”への思い』では、その背景にある、87歳の店主の思いに追った。

では、この低価格はどうやって成立しているのか? 徹底した経費削減か、それとも何かミラクルな手腕が働いているのか。

本記事では、300円ラーメンを継続し続けている、現実的な経営の中身に迫る。

原価が「倍」になっても値段は据え置き

「銀龍」の300円ラーメンーー。あっさりしたしょうゆ味のスープは、豚や鶏などの動物系だけでなく魚介系の出汁の風味が香り、細めのちぢれ麺は、口当たりのリズム感も心地いい。

チャーシューやメンマといったトッピングもあって、高い満足感も得られる。「安かろう悪かろう」ではなく、明らかに300円の価値を上回るラーメンがそこにあった。

ラーメン店といえば、スープを作るにも麺を茹でるにもガスが必要で、光熱費はバカにならないはず。

実際、店主も「仕入れ値も含めた原価は、この10年くらいで倍になってるよ」と話す。

それでも、原価の上昇を売値に転嫁せずに提供し続けるのは並大抵のことではない。

「うちが安いんじゃない。よそが高いだけ」

原価が上がった分、どのような経費削減をして店を維持しているのか。店主に聞くと、次の答えが返ってきた。

経費削減なんかしてないよ。やっていけっからやってる。それだけの話よ。うちは15年くらい前まで、ラーメン200円はだった。それを今の300円にしたのよ。だから、やっていけなかったら、値上げするしかねえわな

となると、不安定な世界情勢の中、特に日本は円安の影響もあってここ1〜2年の物価上昇は加速度的に進んでいるが、次の値上げも考えているのだろうか。

考えてねえよ何も。やっていけてるんだから、今は考える必要ねえだろ。やっていけなくなりそうだったら、その時考えるよ。考えてもやっていけないなら、値上げするしかないってこと。それだけ!

昭和28年(1953年)に飲食業界に入り、昭和42年(1967年)に「銀龍」をオープンさせた87歳の店主の経営ノウハウは、極めて分かりやすくも真理をついたものだった。

必要があれば値上げも辞さない考えの店主だが、それでもここまで300円のラーメンで店を続けてきた。やはり、「安さ」にはこだわりがあるように見えるが、「『安い』ってよく言われるけど、うちが安いんじゃないの。よそが高いだけ!」と言う。

87歳の店主が300円でも「高い」と感じるワケ

今や、原材料費や光熱費の高騰を理由に、商品の値上げをする飲食店も多い。筆者などは、世情を鑑みれば仕方のないことだろうと、思ってしまうのだが……。

よその店はね、ちょろっと飾りみたいに具材をのっけて800円だ900円だか取ってるけどよ、あれはみんな、金を取るために、飾りをよくしてるだけの話だと思うのよ。俺が出してるのは、ラーメンじゃない。”支那そば”っていう、昔ながらのあれなのよ。飾りなんか少なくても、それで充分美味しかったし、俺が飲食を始めた頃は、40円で支那そばが食えたんだから!

古き良き時代の味を、今に伝える「銀龍」のラーメン。シンプルで飾り気のない1杯でも、その安さと味に惹きつけられた老若男女の来店が引きもきらない。

値上げを前提とする時代にあって、「銀龍」の店主は、あくまで目の前の1杯と向き合い続けている。店主の「やっていけっからやっているだけ」という言葉も、目の前にあるものだけに全身全霊を注ぐからこそであるだろう。その言葉からは、60年もの歴史を積み重ねた年輪が見えてきた。

だからこそ、この300円のラーメンは単なる安い1杯ではなく、長年の仕事の結果としてそこにある。

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