5大商社への投資とはわけが違う…バークシャーが東京海上を「指名買い」した本当の狙いと「次に狙われる日本企業」の共通点
東京海上との提携はバフェット退任後の大型投資案件
3月23日、東京海上HD(8766)が米バークシャー・ハサウェイとの資本業務提携を発表した。
バークシャー傘下の再保険子会社ナショナル・インデムニティが東京海上の自己株式を取得し、約2.5%を保有する。出資額は約2874億円にのぼる。翌24日、25日と連続で東京海上の株価はストップ高を記録して上場来高値を更新し、時価総額は一時15兆円を突破した。
今回の提携は、2025年12月にCEOを退任したウォーレン・バフェット氏の後を継いだグレッグ・アベル新体制における初の大型投資案件であり、バークシャーが日本の金融機関と事業面で連携するのも初めてだ。
一部報道によれば今回の提携はバークシャー側からの提案で始まったという。さらに提携期間は10年で、そのうち5年間は競合先と同様の提携を結ぶことができない独占条項が付されているとみられている。
商社投資とは全く違う投資意図
バークシャーグループによる日本企業への投資として、多くの読者がまず思い浮かべるのは、2020年に明らかになった五大商社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅)への出資だろう。2025年末時点で各社への持株比率は約10%に達しており、同社における日本投資の代名詞ともなっている。
しかし、五大商社への投資と東京海上への”集中投資”は、その本質においてまったく異なる。
商社への投資は、突き詰めれば「割安な優良株を買って長期保有する」というバフェット流の伝統的な割安分散投資だ。商社各社との関係構築が進んでいることも事実だが、今回は東京海上1社への投資発表であり、「損保」というカテゴリー全体に分散投資したわけではないという文脈の違いを見過ごしてはならない。
その本質は、割安投資にとどまらず、再保険分野での協業と保険会社などを対象とした共同M&A(合併・買収)を柱とする包括的な事業提携を前提とした「指名買い」とみるべきだ。
バークシャーは一般に「投資の神様ウォーレン・バフェット氏の投資会社」と認識されがちだが、世界最大級の保険グループであるという顔を併せ持つ。
傘下には自動車保険大手のGEICO、再保険の巨人ジェネラル・リー、そして今回の出資主体であるナショナル・インデムニティなど、複数の保険・再保険会社を擁する。保険事業から生み出される運用資金は確認されているだけで約1760億ドル(約26兆円)にも達しているという。
バフェット氏はかつて株主への手紙で、この運用資金を「無利子で預かっている他人のお金」と表現した。保険料を先に受け取り、支払いは保険事故が発生した後となる。その時間差で生まれる巨額の運用資金こそが、バークシャーが数十年にわたって驚異的なリターンの原資であるわけだ。
この文脈で眺めると、バークシャーが商社の次に損保を選んだことの必然性が見えてくる。
バークシャーの意図
バークシャーの成長モデルは、保険事業で運用資金を集め、それを優良な資産に投資し、リターンを再投資するというサイクルの繰り返しだ。しかし、3000億ドルを超える巨額のキャッシュを抱えるバークシャーにとって、十分なリターンが見込める大型投資先を見つけること自体が年々難しくなっている。
世界の保険市場に目を向ければ、まだ巨大な成長余地がある。特にアジア太平洋地域の保険市場は経済成長と人口増加とともに拡大を続ける公算が大きい。バークシャーが米国から直接アジアの保険市場に切り込むのは容易ではない。現地の規制、顧客基盤、代理店ネットワーク、自然災害のリスク特性といった、すべてに通ずるパートナーが必要になる。
ここで東京海上が候補として浮上した理由は、日本の損保業界の構造にある。
日本の損保市場は、東京海上日動、損保ジャパン、三井住友海上、あいおいニッセイ同和の4社体制で寡占化が進んでいる。この寡占構造は過当競争による保険料率の低価格競争を回避し、保険事業による利益の予見可能性を高めている。
加えて、再保険分野での直接的な実利もある。ナショナル・インデムニティは東京海上グループの保険ポートフォリオの一部を引き受ける。国内首位の損保会社を再保険の顧客として確保できることは、バークシャーの再保険事業の収益基盤を着実に厚くする。
なぜ「東京海上」だったのか
損保業界に目を付けた理由は理解できた。では、なぜMS&ADやSOMPOではなく東京海上なのか。
まずは海外M&Aの実績と経営能力が挙げられる。東京海上は2002年時点ではわずか3%だった海外事業の利益比率を、24年間で65%にまで引き上げた。背景には、2015年の米HCCインシュアランス買収(約9000億円)や2020年の米ピュアグループ買収(約3300億円)など、数千億円規模のM&A成功がある。
バークシャーが今回の提携で共同M&Aを柱の一つに据えたのは、東京海上がバークシャーのM&A哲学と親和性の高いM&A玄人であると判断したからだろう。
次に、純粋な投資としての資本効率の高さもあるだろう。東京海上のROE(自己資本利益率)は20.6%と、日本の金融機関としては高い部類に位置する。純利益予想額は1兆2300億円に達し、連続増配を続ける見込みだ。国内損保3社の中でも成長と株主還元、事業ポートフォリオ分散のバランスが最も優れているとの市場評価も半ば定着しており、純粋な投資としても質の高い銘柄であると考えられてきた中で今回のディールが行われたと考えられる。
商社、損保…その次は?
バークシャーの日本投資は、バリュー・分散投資としての商社から、指名買いの事業提携を前提とした損保(東京海上)と、その質を深化させてきた。では、その次はあるのか。
バフェットはかつて円建て債券を発行して日本企業への投資資金を調達しており、低金利の円資金で日本株に投資する戦略を採ってきた。
足元で日銀は利上げをしているが、それでも世界的に見れば低金利であり、この枠組みはまだ続くだろう。
そう考えると、バークシャーによる日本への投資意欲は当面旺盛となる可能性が高い。バークシャーの事業構造から逆算すれば、次に狙われうるセクターの条件は、「寡占的な市場構造」「安定したキャッシュフロー」「割安性」などを満たした業種ということになる。
たとえば海外展開を目論む大手の不動産・土地開発デベロッパーや、不動産を保有するマスメディア関連で安定収益を上げる寡占の日本企業は候補に挙がりうる。
しかし、今回の東京海上提携が示したように、本業の保険とシナジーがある今回の投資と、分散投資の側面が強い商社投資は分けて考えるべきだ。次の一手がどこに向かうにせよ、バークシャーが求めているのは単なる投資先だけでなく戦略パートナーも含まれうる。
新体制のバークシャーが日本企業との協業でどのような果実を得られるのか。今後も両社の動向に市場の期待と注目が集まるだろう。
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