発達障害と境界知能が併存するとどうなるか…不登校、退学、借金を経験した「若い女性の事例」

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7人に1人、日本に約1700万人いるとされる「境界知能」の人たち。

言語化が苦手、仕事の段取りを覚えられない、行動がワンテンポ遅い、対人関係の距離感が極端、金銭管理ができない、ダマされやすい……困っているのに気づかれなかった人々の実態とは?

注目の新刊『境界知能の人たち』では、当事者を見てきた第一人者の医師が、全体像をわかりやすく解説する。

(本記事は、古荘純一『境界知能の人たち』の一部を抜粋・編集しています)

発達障害があると、公的な支援の対象になります。一方、知的障害も支援の対象になりますが、それぞれ別個の支援体制になっているのが現状です。

知的障害があれば発達障害の特性があっても知的障害の枠組みでの支援があり、発達障害であれば知的に境界領域であっても発達障害のタイプ別に就労支援を受けることになります。

特別支援学校では、在籍中に実習や就労のマッチングが行われます。ここでも発達障害のある生徒は、できるだけ条件のよい就職先を目指すような指導を受けがちです。就労支援の段階でつまずいた発達障害のある境界知能の事例を提示します。

自閉スペクトラム症(ASD)の併存

ASDは、発達障害者支援法では広汎性発達障害とされる、発達障害の最もよく知られたタイプの1つです。

かつてはアスペルガー症候群と呼ばれ、特にIQの高いギフテッドと呼ばれる人たちに注目が集まっている一方で、知的障害の合併も多くみられます。また、私の臨床経験では境界知能の合併も多いと考えます。

授業についていけない、レポートが提出できない

アキコは現在21歳の女性です。私のところには、2年前に紹介されて受診しました。

まず、以前通っていた小児科の診療情報提供書を確認し、本人・家族からそれまでの状況を聞きました。

アキコは、完璧主義で、うまくいかないとパニックになり、自宅で暴れたりする。注意するとさらに衝動的になることなどから、ASDと診断され、パニックを起こさないよう小学2年生から内服薬を処方されていました。

中学から不登校になり、昼夜逆転気味で生活ペースも乱れました。その後、定時制高校を卒業することができ、専門学校に入学しました。

入学時には、診療情報提供書を提出しました。ASDであることを専門学校に伝えて、配慮してもらうためです。しかし、事務と授業担当者の連携がとれておらず、情報共有されていませんでした。

入学直後から授業や課題についていけない、文章の細かいところが気になってレポート提出ができないことを注意されるため、再度、診療情報提供書を保健室宛に提出しました。

具体的には、個別サポートを依頼したため、授業担当者それぞれから、レポート作成支援を受けられるようになりましたが、必修科目などいくつか単位を落とし、留年が確定しました。

気分が落ち込み、食欲不振、不眠となり、秋から休学。それでも改善しないため、抗うつ薬を処方されました。次第に気分の落ち込みが改善し、学校に通い始めました。

体調回復、そして就労と自立支援へ

専門学校内の協同学習ルームで、個別にアドバイスを受けながら勉強をみてもらえましたが、それでも授業内容の理解が進まず、とうとう学校から退学を勧められ、辞めることになりました。

そのストレスから、買い物にはしり、家のお金に手を出し、クレジットカードで100万円以上使う、カードを取り上げられると今度はネットで援助交際を行おうとした……年齢も20歳になり小児科での診察は難しいということでこちらに転院となりました。

アキコは借金を返そうとアルバイトの申し込みをしましたが、面接での受け答えができず、採用されても仕事の手際が悪いということで、すぐに雇用が取り消しになり再び落ち込んでいきました。

転院の時点で、アキコはASDの特性は軽快していました。こだわりの強さを見せることも些細なことでパニックになることもなく、専門学校の教員に自分が理解できないところを相談するなど、コミュニケーションもとれていました。問診後、アキコに知能検査を行いました。結果は76で、境界知能でした。

学校側にはASDという診療情報提供書が出されていたので、ASD特性については配慮がなされていましたが、当然ながら境界知能については配慮されていませんでした。

アキコの通っていた専門学校は、資格関係の科目は必修であるため、単位取得の見込みがなければ退学もやむを得ないし、仮に卒業しても、その資格を生かして就労することは困難だったでしょう。

紹介受診時点での支援対象は、気分変調のあるうつ病と境界知能と考えました。短期の目標は体調の回復ですが、中長期の目標は就労と自立支援です。退学のストレスも落ち着き、また環境調節と内服薬の調節も効果があり、うつ病の症状は改善していました。

次の目標である就労については、現在ASDで取得している精神障害者保健福祉手帳に「知的には境界知能であり、それについても配慮が必要」と但し書きをして、就労支援につなげることになりました。

抗うつ薬を内服しているので、うつ病で精神障害者保健福祉手帳を取得することもできますが、アキコの就労支援にはつながりにくいと思われます。

【解説】ASDは、発達障害の中でも知的障害の合併割合が高く境界知能の当事者も多いと考えられます。さらに統合失調症などのさまざまな精神疾患に加えてADHDなどの発達障害の重なりもみられることがあります。知的機能も含めて、個々に支援計画を立てることが重要です。

さらに「日本に1700万人いるとされる「境界知能」の人たち…当事者を見てきた医師が明かす「その実態」」では、7人に1人いるとされ、知的障害と平均値のボーダーにある境界知能の実態に迫っていく。

【つづきを読む】日本に1700万人いるとされる「境界知能」の人たち…当事者を見てきた医師が明かす「その実態」