元世界統一王者のタパレスをKO寸前…アマ9冠の怪物高校生ボクサーは「中量級の井上尚弥になる!」

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「小5の夏以来、無敗」のアマ9冠

日本ボクシング界の至宝・井上尚弥(32)を見出し、育てた大橋ジムの大橋秀行会長(60)が「史上最高の逸材」と評し、こう太鼓判を押す選手がいる。

「世界チャンピオンになるのは当然のことで、尚弥が日本ボクシング界軽量級の歴史を塗り替えてきたように藤木が中量級の歴史を塗り替えることになるだろう。本場ラスベガスで試合が組まれるような選手に育てたい。日本の宝として育てねばならない」

藤木勇我(18)は気負うことはなく、落ち着いた口調で「プロでも一戦、一戦、勝っていく。その結果、無敗で世界チャンピオンになれれば」と語る。

今春、大阪の興国高校を卒業し、大橋ジムでプロの道を歩む。アマチュアでは出場したすべての大会で優勝。49戦全勝(33KO)。高校9冠、アジアユース金メダル、世界ユース金メダル、全日本ボクシング選手権大会制覇の実績を誇る。

特筆すべきは全日本選手権の優勝だ。対戦相手に大学生や社会人も含まれるからだ。連続ノックアウト記録こそ「17」で止まるも、試合経験豊富で身体も出来上がった成熟したトップアマと対戦して優勝。井上尚弥もまた高校生で全日本選手権を制している。

「高校生相手なら倒せたけど、全日本では相手のレベルも高く、勝つことに徹した」(藤木)

小1だった7歳のとき、元プロボクサーの父親の直樹さん(52)の影響でボクシングを始める。大星ジムで2つ上の兄・勇利さんと共に父の手ほどきを受け、世界4階級制覇の井岡一翔(36)を輩出した興国高校ボクシング部で練習を始めた。

唯一敗れたのはキッズボクシング時代で「小5の7月」という。勝った中山聖也選手は現在、駒沢大学でボクシングを続け、五輪を狙える選手として注目を浴びる。母親の亜矢さん(46)が当時を振り返る。

「負けたときは悔しくて一週間は泣いていました。なぜ負けたのかを自分なりに考えて、中2のときにリベンジを果たしました。主人は日々の練習は一緒にしていましたが、押し付ける指導や怒鳴るようなこともしません。ボクシングがもっと好きになるようにきっかけを与え、自分で考えて動くように導いていました」

直樹さんは試合会場には顔を出さない。日々の練習は一緒でも、キッズ時代から試合会場には姿を見せずに黒子に徹した。藤木は父への思いをこう語る。

「自分がいま得意とするジャブとボディ打ちはお父さんから教わったものです」

「技術面で教えることはほぼない」

大橋ジムはトレーナー2人体制でホープを育成する。元日本スーパーフェザー級王者の岡田誠一トレーナー(43)と、2012年ロンドン五輪ウエルター級代表の鈴木康弘トレーナー(38)だ。岡田トレーナーが言う。

「高校2年生の4月から出稽古に来るようになって、ジムで時々見かけるようになりました。10代後半は遊びたい盛りのはずなのに、ボクシング一筋。全日本選手権を制した数日後に練習に来たときは驚きました」

井上とは直接の交流はないが、井上が練習する際は食い入るように見つめ、「背中で見せられている感じがする」という。17歳の冬、軽くグラブをあてるマスボクシングで憧れの井上と共に汗を流した。藤木は当時をこう振り返る。

「全部が別次元。誘導されているようで、パンチを打たされている不思議な感覚でした」

’25年9月、井上は世界スーパーバンタム級4団体タイトルマッチでムロジョン・アフマダリエフ(31・ウズベキスタン)をチャレンジャーとして迎えた際に、スパーリングパートナーとして元WBA&IBF同級統一王者のマーロン・タパレス(33・フィリピン)を招聘。井上のスパーリング相手として来日したタパレスとも藤木は拳を交えた。

「4ラウンドのスパーで藤木がボディをきかせ、タパレスをKO寸前まで追い詰めた。『怪物高校生』と呼ばれていましたが、その名の通りの強さでした。技術面ではもう教えることはほとんどない。プロの8オンスの小さいグローブに慣れることと、ラウンド数が長くなるのでスタミナ育成とその配分を教えることくらい」(岡田トレーナー)

日本ボクシング界に空白のページがある。

中量級のウエルター級はミドル級以下で唯一、日本人が世界王者になったことがない階級だ。世界中の強豪選手が集結する階級で近年でもオスカー・デ・ラ・ホーヤ(53・アメリカ)やマニー・パッキャオ(47・フィリピン)、フロイド・メイウェザー(49・アメリカ)といったスーパースターが生まれている。

ミドル級では村田諒太(40)、竹原慎二(54)が世界王者に輝いているが、ウエルター級での戴冠は誰も成し遂げていない。伝統の階級に対し、藤木は淡々とこう語る。

「まだプロで一戦もしていないのでそこまで実感は湧きませんが、まずはSフェザーで世界王者になる。その後、複数階級制覇となればウエルター級も視野に入ります」

4月に公開プロテストが行われ、6月10日にプロデビューとなる見込みだ。デビュー前、ニックネームを「THE KING」にするか「KING」にするかの二択で、藤木自身が前者を選んだ。やはり、世界王者になることは宿命のようだ。

取材・文:岩崎大輔