Z世代の絵師見習い・たぬきちが明かす「創作の原点」


【画像】「約1年でここまで成長?」たぬきちさんの成長の軌跡を紹介

SNSで「画力の成長がすごい」と話題になっている10代の絵師見習い・たぬきちさん(@Tanukichi_mingo)。きっかけは、自身のX(旧Twitter)アカウントに投稿された「1年前と今のイラストを比較した画像」だった。イラストの完成度だけでなく、投稿につづられた率直な思いに共感が集まり、リプライには「バランス感覚が劇的に上がってる」「努力の痕跡が美しい」といったコメントが寄せられた。

そんな彼女の創作の“原点”は、藤本タツキによる漫画作品『ルックバック』にあったという。今回のインタビューでは、作品への衝動、自身の内面との対話、デジタル環境のリアルな葛藤など、Z世代ならではの等身大の創作風景に迫った。

■『ルックバック』が「遊び」を「創作」に変えた瞬間

たぬきちさんが本格的に絵を描き始めたのは中学3年生のとき。きっかけは、藤本タツキの『ルックバック』を映画で観たことだった。小学生のころから落書き感覚で絵を描いていたが、スケッチブックに黙々と向き合う藤野や京本の姿に強く惹かれ、「あ、これ、かっこいいな」と感じたという。その瞬間、遊びとしての「描く」が、“上手くなりたい”という意志へと切り替わった。

2024年7月頃、『ルックバック』を観てから小さいスケッチブックを買い、ミリペンで描いたのだそう


たぬきちさんの自画像


特に藤野というキャラクターには自分を重ねた。「褒められて内心めちゃくちゃうれしいけど平静を装っちゃう感じとか、上手な人が現れてショックを受ける感じ。すごく自分と重なって、心が揺れました」と振り返る。

『ルックバック』に出会わなければ、「きっとミリペンもスケッチブックも買わずに、スマホゲームをして、飽きて、カラオケに行っていたと思う」とも語っており、彼女にとって同作は“創作人生のスタート地点”だった。

■模写と創作のあいだで生まれた“自分の絵”

たぬきちさんの家族をイラストで描くことも


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創作を始めてから約1年。1年前の自分の絵を見返すと「ちょっと恥ずかしい」と笑うが、それでも「顔や身体のバランスが整ってきた」と、変化には自信をのぞかせる。

絵の練習は今も「模写」が中心だという。気になった漫画家やイラストレーターの絵は、まず真似してみる。たとえば、あさりよしとおさんの『宇宙家族カールビンソン』からは「シンプルなのに作家性がにじみ出るバランス感」、ゆうきまさみさんの『究極超人あ〜る』からは「作画の変化の面白さ」、島本和彦さんの『アオイホノオ』からは「模写して初めて気づく丁寧な背景描写」など、それぞれの作品に“気づき”があるという。

一方で、模写だけでなくオリジナルの創作にも挑戦しており、家族のエピソードを1ページ漫画にしたり、自分や友達をモデルにしたキャラ(たぬきち、とたけけちゃん、しずえさん)を描いたりと、自分なりの“楽しい表現”を見つけつつある。

■デジタルに移行して気づいたこと、残したかったもの

現在はiPadで描いているたぬきちさんだが、当初は筆圧が強すぎてペン先がすぐに削れてしまい、金属が出たまま使い続けるという“強行突破”スタイルで描いていたという。画材代を気にせず何度でも描き直せる点は大きな利点だが、「スケッチブックがどんどん積み上がっていく『ルックバック』のような光景には、ちょっと憧れが残っている」と本音ものぞかせた。

デジタル化が進む一方で、「紙で描いていたころの“痕跡”が可視化されないのは少し寂しい」と感じるあたりにも、Z世代の“アナログ回帰欲”が垣間見える。

■「履修」じゃなく「衝動」で観たい――Z世代の“選び方”

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「履修した方がいい」とフォロワーからおすすめされることも多いが、たぬきちさん自身は「見たいと思った作品しか観ない」と断言する。「時間がないし、自分の“好き”に正直でいたい」と話す彼女が衝動的に惹かれたのが、島本和彦さんの『アオイホノオ』だった。月3000円のこづかいで1巻しか買えていないというが、「2巻を買うのが今いちばんの楽しみ」と目を輝かせた。

影響を受けた作家としては、「教えてくれるあきまん先生」「勝手に模写しているはむねずこ先生」「きっかけをくれた藤本タツキ先生」の3人を挙げた。特に、イラストレーターのあきまん(安田朗)さんについて、たぬきちさんは「いつも見守って、優しく声をかけてくださるあきまん先生のおかげで意欲をもって絵に向き合えています」と感謝の思いを強調した。

■“描く”がくれた小さな変化と、大きな夢

イラストだけでなく、ストーリー漫画にも挑戦中!


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「万博」の思い出もイラストに


絵を描いていることは家族にも友達にも秘密にしているが、それでも日々投稿を続けるうちに少しずつ自信が芽生えてきた。「知らない先輩から遊びに誘われたりして、ちょっとモテてきた気がします」と照れながら笑う。

創作のいちばんの喜びは、「これ、めっちゃうまく描けた!」と自分で思える瞬間。誰かに褒められるよりも、自分で自分を認められることが何より大きなモチベーションになっている。

将来の夢は「謎の新人漫画家としてデビューして、100巻出してアニメ化して、印税で南の島に住みたい(笑)」。もちろん夢は夢だが、その背景には、「しがらみのない環境で、ずっと好きな絵を描いていたい」という純粋な願いがある。

高校では2年で3年分の勉強を終えるカリキュラムのため、もうすぐ「スーパー勉強タイム」が始まる。それでも彼女は「きっと息抜きでまた描いていると思います」と語る。

取材協力:たぬきちさん(@Tanukichi_mingo)

取材・文=ウォーカープラス編集部

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