《 増大する医療費の救世主となるか? 》のどの〝龍角散〟夜泣き・かんむしの〝宇津救命丸〟便秘薬の〝毒掃丸〟が提携「今こそ家庭薬を活用したセルフメディケーションの普及を!」

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宇津救命丸」は 日・中の生薬の融合


 ─ 伝統と歴史のある家庭薬メーカー3社の連携が実りました。まずはのど薬「龍角散」ブランドを展開している龍角散社長の藤井輶太さん、今回の連携の狙いを聞かせてください。

 藤井 自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てするという「セルフメディケーション」をもっと広げていくことが狙いです。予想を超えた少子高齢化や医療の高度化によって保険医療への負担は増大しており、年間の医療費は約46兆円に上っています。

 これを少しでも減らしていく努力が求められています。多くの疾病には前段階があり、日常的なケアにより疾病を発症させない予防策が有効です。日常的なケアまで常に受診していては、本当に医療機関での治療が必要な人の分まで医療資源を使ってしまうことになります。

 その点、家庭薬は日常的なケアに最も適しています。我々家庭薬業界は専門企業が多く、直接競合する製品が少ないことやオーナー経営が多いために世代を超えた連携が可能なのです。お互いが協力してセルフメディケーションを推進し、日本人の健康を支えてきた家庭薬文化を広げていきたいと考えています。


               藤井隆太・龍角散社長



 ─ 子ども向けの「宇津救命丸」ブランドを手掛ける宇津救命丸社長の宇津善行さん、同薬の特長を聞かせてください。

 宇津 当社は1597年(慶長2年)に創業し、私は19代目です。「宇津救命丸」は子どもの夜泣きやかんむしなどの小児薬として知られていますが、宇津救命丸に含まれる8つの生薬のうち、当時の日本では手に入らない生薬もあったので、豊臣秀吉による朝鮮出兵の際、大陸に渡って漢方処方や生薬と出会ったのではないかと推測されています。ですから、宇津救命丸は日本と中国の生薬を合わせたハイブリッド処方と言えるのです。

 ─ 最初から子ども向けの薬だったのですか。

 宇津 もともとは大人も子どもも使える万能薬でした。それこそ薬の名前にもなっている「命を救う」という考え方だったのです。宇津救命丸にはゴオウ(牛黄)という成分が含まれているのですが、ゴオウが含まれている薬は中国では脳梗塞の人に飲ませるなど救急対応の薬としても使われているほどですからね。

 子どもの薬として使われるようになったのは明治時代に入ってからです。そして昭和に入り、まだ日本の住宅事情が悪い時代に、夜泣きをすると家族皆が寝られずに起きてしまうし、近隣にも迷惑がかかるということから、1970年代から80年代にかけて非常に売れました。


                宇津善行・宇津救命丸社長



 ─ 長い歴史があるのですね。では、便秘薬として知られる「毒掃丸」の山崎帝國堂社長の竹内眞哉さん、お願いします。

 竹内 当社は1888年(明治21年)に売薬化粧品商として創業したのが始まりです。当初は、ばい毒病の薬として販売されました。当時の新聞広告のキャッチフレーズも「ばい毒撲滅時期来る 俊効偉大最新薬発見せり」と書かれていました。

 創業時の名称は「腹内毒掃丸」で、体内の病気の毒を掃除する丸薬という意味でした。その後、ばい毒のみならず、そう毒、しつ毒、りん毒などにも使われ、昭和期では便秘や腰痛、関節痛などにも効果のある「複方毒掃丸」という名称に変わり、1982年の再評を経て便秘薬として知られるようになり、今に至ります。




生活の質を上げる 「毒掃丸」


 ─ 様々な効能があったと。

 竹内 そうです。万能薬とも言えるでしょう。ですから、我々のコンセプトとしては、そのままの効能を謳うだけで世の中に広げていけば良いとは考えていません。便秘解消を通じて中高年の方のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を上げていく薬として広げていきたいと思っています。

 実は今でも便秘で悩んでいる人は多く、そういった人たちは便秘薬を意外と飲んでいないのです。むしろ、何となく便秘薬以外の薬でも対処できてしまっているように感じているケースが多いようです。これは2018年に当社が外部業者に委託して行った消費者調査の結果なのですが、市販の便秘薬の服用者のうち、12%しか自分に合っている薬が何なのか分かっていないということが分かりました。


                 竹内眞哉・山崎帝國堂社長




 ─ 宇津救命丸も毒掃丸も正しい使い方を知れば、もっと裾野が広がりそうですね。

 宇津 そうだと思います。ただ、宇津救命丸は子どもの夜泣きそのものを止めるわけではなく、人間の「五臓(肝・心・脾・肺・腎)」を整えてくれる商品になります。つまり、子どもの自律神経を整え、体の調子を整えることによって、子どもが夜泣きをしなくなるのです。

 子どもも夜泣きすれば、睡眠不足となり、その分、成長が阻害されることになります。また、その子どもの父親や母親も大きなストレスを感じてしまいます。さらに夜泣きをする子どもは、かんしゃくが強いため、感情のメルトダウンのようなことも起きてしまうのです。スーパーなどで地べたに転がって何も手に付かなくなるような子どもを見かけたりしますよね。

 竹内 たまに見かけたりしますね。一方で大人も大変です。医療費を賄えず、負担ばかりが増え、薬も医療保険の適用から外れるなど何もかもが削られていきます。介護も介護保険財政が圧迫されており、こちらもどんどん削られていく。その中で我々のようなOTC医薬品(薬局やドラッグストアなどで処方箋不要で購入できる薬)は人々の健康を守るための柱になるのではないかと思いますね。

 ─ 今こそ家庭薬の出番だということになりますね。

 藤井 はい。しかも家庭薬も進化しています。龍角散では薬が苦手な子ども向けに服薬専用のゼリー「おくすり飲めたね」を開発しました。ただ、もともとこの商品の出発点は介護用です。嚥下能力(食べ物を口の中で噛み、大きさを変えて飲み込む能力)が低下した高齢者向けに開発したのが最初です。

 しかし、子ども用に改善して実用化すると、子どもを持つ親御さんからは喜ばれました。親御さんからしてみれば切実だったのでしょう。子どもがなかなか薬を飲んでくれなかったわけですからね。ところが、当社の製品で子どもが飲んでくれるようになったと。その意味では、たとえ少子化で子どもの数は減っていくとしても、困った人がいるなら、その困り事を改善させることが企業の使命だと思います。

 ですから、家庭薬でできることはまだまだあるのではないかと。当社はのどの専門メーカーですから、のどにまつわることしかやるつもりはありません。しかし、ふと横を向いてみると、同じコンセプトでやっている家庭薬メーカーさんがたくさんいる。そうであるならば、互いに連携した方が良いはずです。




20%以下の出資で連携


 ─ 具体的に、どのような連携方法をとったのですか。

 藤井 当社が山崎帝國堂と宇津救命丸にそれぞれ私募債を含めて最大5億円を拠出します。ただし、出資比率は20%を超えず、役員も派遣しませんし、配当も求めません。それぞれの企業活動に専念しながら必要に応じて協力し合います。

 ─ 資金面で支配するのではなく、互いの得意技で補完し合うという提携ですね。

 宇津 はい。当社の製品に関して言えば、伝統と歴史はあったものの、今では認知度が下がってしまっていました。また先ほども出ましたが、医療費制度の課題もあります。子どもの夜泣きやかんむしに効果のある薬は当社の製品くらいしかないので、医師にとっても選択肢が限られます。宇津救命丸が少しでも広がれば虐待児も減ることにもつながるはずだと思っています。

 宇津救命丸には非常に可能性があるのですが、それをもっと皆さんに知ってもらうには資金やマーケティングのノウハウが必要です。しかし、当社にはそれが足りない。そんな中で藤井さんからご提案をいただきました。

 竹内 当社も状況は宇津さんと似ています。自分の一番の悩みは便秘だという方々は多いのですが、なかなか当社の製品が知られていない。もしこの市場が拓ければ、今の10倍の市場が創造できるのではないかと。ただ、自社の力だけでは難しい。

 こういう思いを広く届けたいと思っても、それを届けることができない部分があると正直感じていました。実際、自社でテストマーケティングを行ったりしたのですが、やはり大規模な展開ができるまでには至りませんでした。その点、龍角散さんは国内外でのマーケティングのご経験が豊富です。

 ─ それぞれの課題を補いながらも、自社の製品の可能性を広げる手立てが連携だと。

 藤井 そうです。困っている人がいるなら、その解決策を提供することが求められます。竹内さんとは既に当社の「らくらく服薬ゼリー」を使って毒掃丸を使用する広告を出したのですが、お互いの商品の売り上げが大きく伸びました。こういったことが他にもいろいろできるはずだと考えています。

 家庭薬の業界ではナショナルブランドがマスメディアで全国に周知を図ろうとすると、年間に約5億円かかります。これが全てではありませんが、マーケットの変化によって、やり方は変えることができます。宇津救命丸も毒掃丸も、もともと知られたブランドですから、それをどうやって再認識してもらうか。新しい切り口をもう一回見つけられるかがポイントになります。




伝統と歴史のある 「家庭薬」


 ─ 自らの健康を維持してもらうためにも、消費者にもっと知ってもらうべきですね。

 藤井 ええ。今後は病院に行く前の段階で、いかに病気を予防するかが重要になります。その点、普段使いができる家庭薬には大きな可能性があります。長い間、皆さんに使い続けてもらうことができたのも安全・安心が基盤にあるからです。そういった家庭薬を活用して重症化させないというのが基本中の基本になると思うのです。

 竹内 藤井社長の言う通り、薬のブランド力は安心・安全であり、一朝一夕でできるものではありません。大手でも、あらゆる領域の薬を揃えることはできませんし、家庭薬でも1つのブランドで消費者の全てのニーズを賄うことはできません。だからこそ、今回のような連携で家庭薬全体を盛り上げ、社会に働きかけることもできるのではないかと。それは専門メーカーが集まることによる強さです。

 宇津 藤井社長もよくおっしゃるのですが、緩い連携の中で自分たちの特色を出していくという手法はあり得ると思います。このような業界は極めて珍しいと思います。だからこそ、しっかりとブランディングし、消費者のニーズを取り込む必要があります。日本酒業界が我々と似ていると思うのですが、同業界でもブランディングに成功している会社さんがありますからね。


「金は出しても 口出さず」


 ─ 今後の家庭薬の可能性について聞かせてください。

 藤井 これは経営全般に言えることだと思うのですが、まずは真似をされないことが大事です。真似しないことはできますが、真似をされないというのが難しいのです。この意味においては、家庭薬には十分な可能性があります。歴史を遡ってもう一回やることはできませんからね。日本の文化歴史に裏打ちされたものがありますから、これをしっかり打ち出していくことが非常に大事だと思います。

 ただ、当社の場合、金儲けだけでやっているつもりはありません。ろくなことがないからです。それが医療の基本でもあります。ところが今は多少それが崩れているところがあります。やはり社会貢献をするために、企業活動を行う。それによって、消費者の皆さんが健康になり、幸せになると。それが当社の活動の目標になります。

 竹内 私も今回の提携という形に至る中で、いろいろと悩み、いろいろなことを考えてきました。あるいは、改めて考えさせられることも多々ありました。その中で思ったことは、当社の理念でもある「人々の健康や生活の悩みを解消し、よりよい暮らしを実現する」ことを忘れないことです。やはり誠実に社会貢献をしていくことが大事なことだと思います。理念に書かれた社会の実現に向けて邁進していきたいと思っています。

 宇津 お二人がおっしゃっていることに私も同じ思いです。当社には「施薬」という言葉があります。これは創業者の宇津権右衛門がつくった理念なのですが、当社もこれをずっと守ってきました。私たちが持っている知識や商品で人々の健康に貢献する。それが施薬だと。この原点を守っていきます。

 ─ 日本全体にもパブリック思想がありますからね。

 藤井 はい。今は資本主義という時代の流れの中で、どうしても株主の存在が大きくなりつつあります。株主を大事にすることはもちろん大切なのですが、家庭薬業界は比較的、オーナー経営が多い。そうすると、意思決定が早いわけです。皆が皆、金儲けばかりを考えているわけでは決してありません。

 今回の3社提携でも、私は「お金は出すけど口は出さない」というスタンスを貫いています。逆に、当社ができることを一緒にやりませんかという提案はしています。もし機会があれば他の会社とも同じような連携をすることもあるかもしれません。

 いずれにしても、今一度、日本古来の家庭薬文化を見直すことで、セルフメディケーションを推進し、日本の医療制度の持続性を高めることが我々の世代の責任だと思っています。

 ─ 力強い話をありがとうございました。

セルフメディケーションの実践へ 龍角散が家庭薬メーカー2社と提携