『あんぱん』写真提供=NHK

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 気鋭の演出家であり、作詞家にして構成作家である六原永輔(藤堂日向)と作曲家・いせたくや(大森元貴)とともに、ミュージカル『見上げてごらん夜の星を』を成功させた嵩(北村匠海)。

参考:久保史緒里が『あんぱん』についに登場! 役者として重宝される理由は“解像度”の高さ

 放送中の「朝ドラ」ことNHK連続テレビ小説『あんぱん』は『アンパンマン』の生みの親となった夫婦をモデルに、ヒロイン・のぶ(今田美桜)と、その夫である嵩の激動の生涯を描いていくもの。漫画家・やなせたかしと交流のあった実在の文化人をモデルとしたキャラクターたちが、いま続々と登場している。さて、どんな存在がいるだろうか。

 第21週「手のひらを太陽に」では、同名の楽曲の詩を手がけ、“先生”と呼ばれるようになった嵩。いせたくやが作曲を担当し、新キャラクターの白鳥玉恵(久保史緒里)が歌唱してヒット曲となったのだ。現実世界ではいまから60年以上も前に生まれた楽曲だが、誰もが一度は口ずさんだことのあるものだろう。『アンパンマン』と同様に、時代を超えて日本中で愛され続けている名曲だ。

 藤堂日向が演じた六原永輔のモデルは永六輔で、大森元貴が演じるいせたくやのモデルはいずみたく。そして、久保史緒里が演じる白鳥玉恵のモデルは宮城まり子である。宮城は歌手としてだけでなく、市川崑監督の『黒い十人の女』(1961年)への出演や、朝ドラ『なつぞら』(2019年度前期)でヒロイン・なつ(広瀬すず)が制作に携わったアニメ『白蛇姫』のモデルである『白蛇伝』(1958年)の声優などとしても知られている。当時のトッププレイヤーだ。

 演じる久保は乃木坂46の現役メンバー。アイドル活動をしながら映画、ドラマ、舞台にと、次々と話題作に出演し続けるエンターテイナーだ。白鳥玉恵というなかなかクセの強いキャラクターを立ち上げ、六原永輔、いせたくやといった個性派の登場に続き、彼らに引けを取らぬ存在感を示してみせた。

 これと対照的なのが、眞栄田郷敦が演じる漫画家の手嶌治虫。名前の字面からすぐに分かるように、『ジャングル大帝』や『鉄腕アトム』、『ブラック・ジャック』などの作者として知られる手塚治虫だ。スタイリングの力が大きいのだろうが、眞栄田による再現度の高さが話題となっている。とはいうものの、いまのところ出番はかぎられているし、セリフも多くはない。

 眞栄田は積極的にキャラクターを押し出すのではなく、劇中の空間に、この作品の世界観に根を張り、ただ物静かに存在している。そしてこれに対する“嵩=北村匠海”の落胆のリアクションがあることによって、手嶌治虫がただ者ではないことを私たちは知る。本作中に登場する者たちの中でも破格の才能の持ち主なのだと実感する。やはり魅せ方が“白鳥玉恵=久保史緒里”とは対照的である(ちなみにこれは余談だが、本作で嵩の恩人・八木信之介を演じる妻夫木聡は、手塚の代表作のひとつである『どろろ』の実写映画で主演を務めた過去がある)。

 続いて、落語家の立川談楽(立川談慶)が登場する。あの立川談志をモデルとしたキャラクターで、談志とやなせは1960年代に子供向け番組『まんが学校』(NHK総合)でタッグを組んでいた。演じるのは実際に談志の弟子であった談慶だ。それから、のぶの妹・蘭子(河合優実)は向田邦子をモデルにしたキャラクターではないのかと、一部で話題になっている。ここ最近の蘭子の歩みが向田のキャリアと重なり、向田はやなせとも交流があったからだ。となれば今後、さらに“蘭子=河合優実”の存在感が増してくるのだろうか。『アンパンマン』誕生の背景にどんな人々との交流があったのか、私たちは『あんぱん』をとおして改めて知ることになっている。本作を介して文化史の一端に触れているのだ。(文=折田侑駿)