羊文学、楽曲制作におけるタイアップと自己表現への考え方 「more than words」以降のスタンスを聞く
羊文学が、現在放送中のアニメ『サイレント・ウィッチ』にオープニングテーマ「Feel」とエンディングテーマ「mild days」を書き下ろした。これまでも『呪術廻戦』をはじめタイアップソングを多数手がけているが、一つの作品でオープニングとエンディングを担当するのは今回が初となる。「Feel」と「mild days」それぞれの制作エピソードと共に、タイアップソングとの向き合い方について話を聞いた。(編集部)
■次のヒット曲を作らないとみたいなことは考えたことがない(塩塚)
ーーアニメ『サイレント・ウィッチ』にオープニングとエンディングの2曲を提供しています。羊文学はタイアップ曲を担当することが増えていますが、こういう仕事をすることで、曲作りへの向き合い方に変化もありますか?
塩塚モエカ(以下、塩塚):タイアップだからこう、みたいなことはないですけど、やっぱり作品ありきの方が曲を聴いてもらえますよね(笑)。
ーー『呪術廻戦』の「more than words」のストリーミングは1億回超えていますよね。
塩塚:ファンの方々からは昔みたいなノイジーな曲も欲しいといったメッセージをいただくんですけど、自分の気持ちを描写するような音楽をずっと作り続けるのは精神的に辛くなるというか、大人になるにつれて自分の中の気持ちをすべて教えなくてもいいのかな、みたいな気持ちもあるんです。ただただ自分の気持ちを一生書き続けることは、私にはできないんだろうなって。でも人に聴いてもらえる音楽、ポップスを作ることも難しい。なのでタイアップではそのスキルをトレーニングしている、みたいな感覚もあります。そういう意味では、私の中でタイアップとそれ以外の作品は全然別なものとして存在しているように思いますね。
ーータイアップから学ぶことも多い?
塩塚:「もう死にたいです」みたいなネガティブな気持ちを曲にするのって体力がいりますし、そういうものをずっと作り続けているとどうしても飽きは出てくるんですね。ただ、いざこうやってオープニングの曲を作るとなって、それが実現できるのは今までの積み重ねてきたものがあるからこそだとも思う。昔持っていたものは少しずつ失くしているのかもしれないですけど、手持ちのカード、できることは増えていっている感覚はありますね。
ーー失うものというのはどういうものですか?
塩塚:やっぱりお願いされたものを作っていると、自発的に作りたいと思うものが少なくなるというか、お題を与えられないと考えられなくなっていくような気がしていて。画家とデザイナーは違うってよく言いますよね。それに近いというか、私もテーマをもらって作る方が向いているのかもと思うこともあるんです。自己表現としてやりたいことはゆっくり時間をかけて、やりたいと思ったときにやれたらいいのかなって。ずっと曲は書き続けているので。
ーータイアップ曲は多くの人に聴かれる反面、それがバンドのイメージになり、そこに葛藤が生まれることもあるように思います。
塩塚:でも「more than words」が入っている『12 hugs (like butterflies)』というアルバムはめっちゃ気に入っているんですよ。それまでの作品も一つ一つ気に入ってはいるんですけど、やりたいこととちょっと違うなって思うところもあったし、『12 hugs (like butterflies)』ができあがった時は「もうこれで人生終わってもいい」くらいの気持ちでした。スキル的にやり切れない部分もあったんですけど、人生の最後のアルバムにしようと思えたくらい本当にやりたいことができたんです。「more than words」も「Burning」もアニメの世界観と私がやりたいことを両立できたと思いますし。だから、次のヒット曲を作らないとみたいなことは考えたことがなくて、タイアップのお話をいただいた時もそれを観ている人たちがもっと作品に入り込めるような曲を作りたい、みたいな気持ちが強いですね。私の性格的に、言われたことと逆のことをやりたくなるのはたぶんあるんですけど。
ーーと言うと?
塩塚:「こういうのが聴きたい」「こういう曲がいいね」と言われると、逆に全然違うものを作りたくなる。キッズなんです(笑)。
ーーそういう反抗精神もいいと思いますし、それが羊文学ならではの振り幅にもつながると思います。
塩塚:もう30歳になるんですけどね(笑)。
ーー河西さんは、タイアップ曲に対してどんなことを思いますか?
河西ゆりか(以下、河西):作品のいいところをどうやって音として表現するのか考えるのはすごく楽しいですし、なんだかんだタイアップ曲の方がよくできているなとは思います。
塩塚:そう、成り立ってるんだよね。たぶん、タイアップがなかったら全然成り立たない曲ばっかり作っちゃう。昨日も家でシンセをブワーって鳴らしたりしていて。これ何になるんだろうみたいな曲を作ってしまうし、それって趣味でよくないかって思うんですよね。
ーーその引き出しが数年後に役に立つこともあるかも。
塩塚:確かに、そうかもしれないですね。
河西:そういう部分が好きっていう人もいるしね。
■今回はどっちの曲も自然体が出ている(河西)
ーー今回の『サイレント・ウィッチ』は魔法が出てくるファンタジー作品です。そもそもお二人はそういった作品に馴染みはありますか?
河西:私は『カードキャプターさくら』がめっちゃ好きでした。
塩塚:私は『ハリポタ』(『ハリーポッター』)ですね。世代なこともありますが、魔法のやり方が載っている本とかも持っていました。
ーー実際、原作に触れてみていかがでしたか?
塩塚:お話が面白いのはもちろんですが、特にモニカ(主人公)ちゃんが私に似ているなと思いました。人とのコミュニケーションが苦手なところとか。私はもともと“友達”という存在がよくわからないタイプだったんですけど、最近になってわかり始めてきたんです。友達とコミュニケーションをとることで勇気をもらったり、自分の表情が柔らかくなっていく経験を今しているんですけど、(人見知りな)モニカちゃんも物語が進むにつれて同じように成長していくところが自分と近いなって。
河西:登場人物がそれぞれ悩みを抱えているところに魅力を感じました。誰しも置かれている立場や環境に悩みを抱えている、そういう細かい部分まで楽しめる作品だと思います。あと、伏線がたくさん散りばめられていて、読めば読むほどどんどん物語に引き込まれていくような面白さもありましたね。
ーー今回はオープニングテーマ「Feel」とエンディングテーマ「mild days」の2曲を書き下ろしています。それぞれどのように制作していったのでしょうか?
塩塚:オープニング曲っぽい華やかな曲を書きたいなと思って、まずは「Feel」から作り始めました。モニカちゃんはすごい力を持っているのに、いつも「自分なんて」みたいに言っているんです。その力のおかげでたくさんの人が救われているのに、自分で勝手に一線を引いて、その先には踏み出そうとしない。それって自己否定の気持ちもあるし、踏み出すのが怖いという気持ちもあるんじゃないかなと。私もそういうことを考えるタイプではあるので。作品に触れる中で、そういった自己否定から解き放たれるようなところが一番惹かれたポイントだったので、そこをテーマに考えていきました。
ーーモニカと重なる塩塚さんの実体験がベースになっていると。
塩塚:はい。生きる上でこうしなきゃいけない、自分はこうじゃなければいけないと決めつけることが多くて、そんな考えにがんじがらめになっていた時がありました。でも一度きりの人生でそういう考え方をしてしまうと、いろんな経験ができなくなるじゃないですか。部屋にこもっていたら、空の綺麗ささえもわからなくなってしまう。私はそうやって縮こまっている時に、周りから「もっと遊んだらいいじゃん」「もっと人生楽しんだら?」みたいな一言を言われて、ハッとすることがたくさんあったんです。もっと自由にいろんな気持ちを感じて、心も体もたくさん使って生きてもいい。そういう自分の中の考えをそのまま曲にしています。
ーーそこにはモニカへの共感だけでなく、自分自身に言い聞かせるみたいな感覚があったのかもしれないですね。
塩塚:そうかもしれないです。あと、金粼総監督がこのアニメを自分の子どもに観せたいと最初に言っていたんです。羊文学の曲って変わったものも多いんですけど、総監督のお子さんにも届いてほしいなっていう気持ちがあったのかも。お子さんは中学生くらいらしいんですけど、私は勝手に小学生くらいだと思っていたので、同じくらいの年齢の頃の自分にも聴いてほしいと思いながら作っていたように思います。その割にはちょっと複雑かもしれないですが(笑)。
ーー金粼総監督のお子さんの存在も大きかったんですね。
塩塚:私自身は誰かのためを思って作品を作ったことがなくて、いつも自分のため、自分の表現を第一に音楽を作ってきたんです。自分の子どもに見せる作品を作りたいって気合を入れているところがすごく素敵だなと思ったし、そこに私たちも参加したいという気持ちが強かったです。
ーー河西さんはこの楽曲にどんな印象を?
河西:この曲を初めて聴いた時は風を感じるなって思いました。歌詞を読んだ時に、自分の中にあるダメな部分とか、周りから受ける重圧とか、そういうものを風が吹き飛ばしてくれるような、扉を開けた時の開放感みたいなイメージが浮かびましたね。
ーーなるほど。サウンド的には羊文学らしい一曲だなと思いました。そういう羊文学のカラーみたいなものは、自身ではどう感じているんですか?
塩塚:今回は私たちのカラーを出そうとしたわけではないのですが、自分の手癖的な部分は出ているかもしれないですね。普段はできるだけ音数を少なく、シンプルにやっていきたいと考えながら作っているんですけど、きっと別のアレンジャーがいたら、もっと音を重ねたり、複雑になっていくのかなって。
ーー河西さんはいかがですか?
河西:今までのタイアップは自分たちらしさをどうすれば出せるのか、ということを考えていたんですけど、今回はどっちの曲も自然体が出ていると思います。羊文学はこう、みたいな感じではなく、単純にこの音が好きだから使おうみたいな感じでレコーディングもしていきました。
ーーエンディングテーマの「mild days」はどうでしたか? 先ほど塩塚さんが話していた友達関係にもつながるような曲だと思いましたが。
塩塚:一つの作品に対して2曲提供するのが初めてだったので、オープニングの後にエンディングを考える作業がすごく難しかったです。曲をどうしようと悩みながら生活していた頃、たまたま海外に行く友達の壮行会があって。その帰り道、広い道路をみんなで笑いながら歩いていた光景がすごく綺麗だったんですよ。楽しかったなー、なんて考えながら家に帰っている時に、この気持ちや風景を曲にしたいなと思ったところから、「mild days」は生まれてきました。
ーー友達との日常の風景がモチーフなんですね。
塩塚:私が友達って何?って思うタイプという話をしましたが、その時にご飯を食べたメンバーは自分の暗いところも見せられる人たちだったんです。私と同じような辛い気持ちも持っている人たちで、コミュニケーションもちゃんと取ることができるし、それが心地いいってことに改めて気づくことができて。それは『サイレント・ウィッチ』にも通じることだよなって思いました。
ーー河西さんも塩塚さんと同じようなことを感じますか?
河西:私も日常生活で同じように思うことはたくさんありますし、そういう体験が自分を一番助けてくれるものだと思います。じんわりと心を温めてくれるというか、ちょっと幸せでふわふわとしたほろ酔いの気分が出るように、少しステップを踏んで歩いているような気持ちでベースもつけていきました。音像的にも角が丸い感じを出していて、軽やかに聴けることを意識していますね。
ーーやはりオープニングとエンディングでは、取り組む上での心持ちも違いますか?
塩塚:勝手なイメージですが、エンディングの方が自由度が高いと思います。オープニングは作品とのシンクロ率を高めて、その作品の主題歌という印象を強くつける必要があるのかなって。エンディングは、作品半分、アーティストの存在感が半分くらいのバランス。今回もオープニングはガチガチに原作を読み込んで作ったけど、エンディングはもうちょっと自分たちらしさも考えようかなみたいな感じでした。
ーーありがとうございます。最後にUSツアーの手応えについて教えてください。向こうで盛り上がった曲、ライブの雰囲気はどうでしたか?
塩塚:まだまだって感じだったよね。「Burning」とか?
河西:意外と「tears」とかも盛り上がってたような。
塩塚:私、ライブ中にあまりお客さんを見れていなくて、意外とみんな静かに聴いてくれるんだなと思いました。後ろの方はわからないですけど、ステージ近くの方はけっこう日本の雰囲気と近いというか。あと、いろんな人種の方がいたし、中には骨折しているのに来てるパワフルな人とかもいて、そこはなんだか新鮮でした。
ーー経験値として、今後につながりそうな部分はありましたか?
塩塚:アメリカという環境がそう思わせたのかもしれないですけど、いろんなしがらみがどうでも良くなった気がします。本当に細々としたことを考えるんですけど、そういうのがなくなったというか。だから今まで以上に自由にパフォーマンスができるようになった感覚があります。ちょっと身軽になれました。
河西:私はそもそも英語ができないとアメリカでは無理だと思っていたんです。どういう人がライブに来るのかもわからなかったし、でもファンミーティングもやって、ファンと触れ合う中でなんか全員同じ人間だなと思ったんです。日本とかアメリカとか関係なく、人間相手にライブをしているから全部同じなんだって。そこで少し成長したというか、視野が広がった感覚はありましたね。
(文=泉夏音)
