記事のポイント
ケリングは業績回復を狙い、ピエルパオロ・ピッチョーリをバレンシアガの新クリエイティブディレクターに任命した。
オートクチュール強化を軸に、ピッチョーリのロマンチックでクラシックな美学に期待が寄せられている。
ラグジュアリー業界が苦戦するなか、ハイエンド領域で存在感を示す戦略が注目されている。


仏ラグジュアリー大手のケリング(Kering)は、過去1年間の業績低迷からの脱却を目指し、クリエイティブ部門の大幅な刷新に打って出た。その最新の人事として、長年ヴァレンティノ(Valentino)のクリエイティブディレクターを務めてきたピエルパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)が、バレンシアガ(Balenciaga)の指揮を執ることになった。

バレンシアガとグッチの内部移動



バレンシアガで成功を収めていたデムナが、ケリングのなかでもっとも価値が高い一方で業績不振にあえぐグッチ(Gucci)へと異動したことで、バレンシアガには空席が生じていた。デムナの在任中、バレンシアガは年商をおよそ3億5000万ドル(約504億円)から20億ドル(約2880億円)超へと拡大させていた。

その実績ある金の卵が必要だったのがグッチである。同ブランドは昨年、売上が23%減少している。グッチはケリング全体の売上のほぼ半分を占めるため、同ブランドの不振はケリング全体にとって大きな痛手となる。だがデムナの異動により、バレンシアガには彼のレガシーを受け継ぐ確かな手腕が求められていた。

ヴァレンティノを昨年退任したピッチョーリは、今回の就任を「デムナから自分へのバトンパス」と表現し、同時にバレンシアガに対する自身のビジョンも明かした。

「バレンシアガが今日あるのは、道を切り拓いてきたすべての人々のおかげである」とピッチョーリはプレスリリースで述べた。「バレンシアガは進化と変化を続けてきたが、常にメゾンの美学的価値を見失うことはなかった。私が受け継ぐのは、可能性に満ち、非常に魅力的なブランドであり、そこに新たな物語を加え、メゾンの新しいバージョンを形作るチャンスが与えられたのだ」。

クラシック回帰とクチュールへの再注力



デムナ時代のバレンシアガがストリートウェアと若者文化を取り入れていたのに対し、ピッチョーリはよりクラシック志向である。ヴァレンティノ在任中は、壮大でロマンチックな美学を貫いたが、それはやや古風に見えることもあった。実際、ヴァレンティノはここ数年苦戦しており、2023年は3%、2024年は22%の減益となっている。

ケリングは、2021年にデムナの手で復活したオートクチュール事業を、ピッチョーリのもとでさらに成長させることに期待を寄せている。バレンシアガは創業者クリストバル・バレンシアガ(Cristobal Balenciaga)が1972年に亡くなって以来、クチュールコレクションを発表していなかった。

「(ピッチョーリ氏は)今日においてもっとも才能に恵まれ、評価されているデザイナーの1人である」とケリングでブランド開発を担当する副CEOのフランチェスカ・ベレッティーニ氏はプレス声明で述べた。「彼のオートクチュールにおける卓越した技術、クリエイティブな声、そしてサヴォワフェール(職人技)への情熱は、バレンシアガにとって理想的な選択である。ピエルパオロと、昨年11月にCEOに就任したジャンフランコ・ジャナンジェリ氏のコンビが、バレンシアガの歴史におけるこの重要な新章を見事に導いてくれると確信している」。

業界の構造変化と差別化戦略



現在ラグジュアリー業界全体が低迷しているなか、最高峰であるオートクチュールへの注力は注目に値する。ケリングのような企業が苦戦を強いられる一方で、エルメス(Hermès)やシャネル(Chanel)といった超高級・排他的なブランドは好調を維持しており、エルメスは2月に年商が17%増加したことを報告している。

「ピッチョーリの就任は、まさにパワームーブだ」とファッション、カルチャー、ビジネスのコンサルタントであるマリッサ・アンドラーダ(Marissa Andrada)は述べた。「ヴァレンティノの株式の30%はケリングが保有しており、ファッション業界のインナーサークルは狭く、影響力があり、相互に深く結びついている。ピッチョーリは、既知の才能であり、クリエイティブな力を持つ人物で、ケリングの価値観と調和しながら、バレンシアガにとって基盤を築くようなビジョンをもたらすことが期待されている」。

[原文:Kering bets on haute couture with Pierpaolo Piccioli’s appointment at Balenciaga]

Danny Parisi(翻訳・編集:戸田美子)