広告収入が減ったと告白するYouTuberが相次いでいる。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「いまはTikTokのようなショート動画の時代。YouTuberが生き残るためには、広告収入に頼る古いビジネスモデルからの脱却が必要だろう」という――。
写真=iStock.com/5./15 WEST
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■「小学生のなりたい職業」3年連続1位

ベネッセコーポレーションの「2022年の出来事や将来に関する小学生の意識調査」(2022年12月)によると、「小学生がなりたい職業ランキング2022」の1位は3年連続「YouTuber」だった。「好きなことで、生きていく」のキャッチコピー通り、楽しんで稼げる職業という印象が強いためだろう。

小学生がなりたい職業ランキング2022(「進研ゼミ小学講座」調べ)

「でも『YouTuberはもうオワコンで稼げない』ってみんなが言ってる。そうなのかと思って、ちょっとがっかり」と、ある小学生は肩を落とす。「なりたいと思っていたけど、稼げないんじゃなあ……」

子どもの間で話題になるほど、YouTuberの減収には多くの人が関心を持っているようだ。

■収益が20分の1に減った人気YouTuber

ラファエルは、2014年にスタートして以来、登録者数180万人を超える人気YouTuberだ。ところが、昨年12月に更新されたYouTube「令和の虎CHANNEL」で「広告収入は10分の1ぐらいになっています」と激白、「YouTuberという、YouTubeで収益を上げて稼ぐビジネスモデルは終わる」とまで断言している。

同じくYouTuberのシバターも、FLASH編集部のインタビューに対し、2017年11月の総視聴回数は約1200万回再生だったが、2022年11月の総視聴回数は340万回と、5年前と比べて4分の1程度になっていることを明かしている。なお、単価の変動などもあるため、再生数が4分の1になっても収益も4分の1になるというわけではない。

最近も、登録者数209万人を超えるYouTuberぷろたんが、収益が過去最低となり、5分の1に減ったことを告白。「10分以上の動画に付けることができる広告を付け忘れていた」ことの影響もあるだろうが、やはり「今、YouTubeってすげえ収益下がっているんですよ。YouTube全体がオワコンになっている」と発言している。

その他、登録者数168万人以上のYouTuber、PDS株式会社が全盛期と比べて20分の1になっていたり、登録者数144万人以上のYouTuberカノックスターも1カ月で収益が半減したことを告白するなど、収益が減ったというYouTuberはとても多い。

■限られた広告予算はライバルTikTokへ

Googleを傘下に持つAlphabetは、2022年第3四半期(2022年7月〜9月)の決算で、YouTubeの広告収入が1.9%減となったことを発表。YouTube広告の売上高を開示するようになった2019年第4四半期以来初の減収となった。

インフレ率の急上昇や不況に対する懸念などから広告主が広告出稿を控えたこと、急成長するTikTokとの競争に苦しんでいることの表れだろう。

一方のTikTokは、ダウンロード総数が累計35億件に達した史上5番目のアプリとなっており、勢いは衰えない。eMarketerによると、2022年のTikTokにおける広告収入は前年比3倍の116億4000万ドルに達する見込み。2019年から5年で約70倍という急成長ぶりだ。

写真=iStock.com/Wachiwit
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限られた広告予算をYouTubeではなくTikTokに割いた企業が多かったと考えられるのではないか。YouTubeに出る広告に品がないものが多くなった印象があるが、大手をはじめとした優良な企業広告がTikTokに流れた結果、誰でも出稿できるようになったということかもしれない。

■YouTubeショートはタイパ志向で人気だが…

そんな低迷期にあるYouTubeで、伸びているコンテンツがショート動画「YouTubeショート」だ。最長60秒の短い動画で、1日あたりの再生回数は全世界で300億回に上り、2021年比で4倍とZ世代を中心に人気を集めている。これは、15秒〜10分の動画を投稿できるTikTokを意識して誕生したものと言われており、TikTokと両方に同じコンテンツを投稿しているユーザーは多い。

日本版YouTube公式ブログの「国内トップ登録者増加クリエイター」によると、「ながの社長のハッピーチャンネル」や「いくとん」「ささみキッチン」「ひみつ基地。」など、ショート動画でも人気を博したクリエイターが昨年対比で登録者数を大きく伸ばしている。これらのクリエイターはすべてTikTokにも動画を投稿しており、そちらでも人気が高い。

YouTubeでもYouTubeショートや切り抜き動画が流行っているように、視聴者は短くて効率よく見られる動画を好む傾向にあるのだ。最近の若者は「タイムパフォーマンス(時間対効果)」を重視する「タイパ志向」と言われるが、ここでもその傾向が表れている。

■1再生あたりの収益はわずか「0.000026円」

ショート動画は昨年9月から収益化できるようになっているが、実は通常の動画と比べて収益性が悪いと言われている。

お笑い芸人あしなっすはYouTubeチャンネルも運営しているが、1247万回再生された「98歳と天皇陛下」というショート動画の推定収益がわずか「328円」だったことをツイートしている。1再生あたり0.000026円なので、通常の動画の0.05〜0.1円に比べると驚くほど低い。

ただし今年から、ショート動画の合間に表示された広告収入の45%をクリエイターが受け取り、合計視聴回数の割合に応じて分配されるとのことなので、もう少し改善される可能性が高いだろう。

■競合がどんどん増え、パイの取り合いが熾烈に

YouTuberが稼げなくなった原因は、YouTube全体の広告収入が減っただけではない。たとえば、YouTuberが増えすぎたことも影響しているだろう。

杏や木村文乃、ジャニーズタレントなど、最近は芸能人のYouTube進出が相次いでおり、もともと知名度が高い芸能人による動画と競わなければならないことも影響しているはずだ。視聴者が急激に増えない限り、YouTube内のプレイヤーが増えれば、どうしてもパイの取り合いになってしまう。

コロナ禍のステイホームで視聴時間が長くなっていたが、外出制限がなくなった今、ネットよりイベントなどのリアルへの回帰が進んでいることもあるだろう。ネットに限っても、AmazonプライムビデオやNetflix、TVerなど、他の動画配信サービスとの視聴時間の取り合いも熾烈(しれつ)になっている。

このようにみていると、「たしかにYouTuberはオワコンだ」と思ってしまいそうだが、必ずしもそうではなさそうだ。

チャンネル登録者数405万人を超える音楽グループRepezen FoxxのDJ社長は、2022年12月の収益が1800万円であったことを明かしている。2021年6月まで収益化していなかったため、以前と比べた収益がどうかはわからないものの、驚くべき金額だ。

■専門性の高いチャンネルはちゃんと見られている

大手予備校で講師の経験があるYouTuberもりてつは、チャンネル登録者数26万人以上を持つ英語系YouTubeチャンネルを運営しており、2022年の年間収益は2237万9805円と明かしている。

ある語学系YouTuberは、「YouTuberがオワコンじゃなくて、そのYouTuberが人気がなくなっただけでは」と断言する。「自分は前と特に変わってない。他人と似たようなことを投稿していたら見られなくなるのは当たり前」

すべてのYouTuberが収益を減らしているわけではなく、専門性の高いYouTuberや他にはない特別なコンテンツを持つYouTuberなどは、収益を上げ続けているようだ。一時期、大量に発生した迷惑系YouTuberのような「バズればいい」というやり方ではなく、オリジナリティーのあるコンテンツが求められていると言える。

■広告収入に頼りきりのYouTuberは淘汰される

テスティーの「YouTuberに関する調査2022年下半期版」によると、中高生がYouTuberに持つイメージは「楽しそう」「影響力を持っている」などのポジティブなものが多い。一方、大学生が持つイメージは、ポジティブな意見も多い中で、「大変そう」や「一握りの人しか人気になれない」などのマイナスなイメージが中高生より多くなっていた。YouTuberに対するイメージが現実的になってきたということではないか。

なお人気YouTuberラファエルは、昨年7月にヒカルのYouTubeチャンネルで、「月のアベレージ3000(万円)くらい」と収入を告白、シバターは「500(万円)前後」と答えている。ラファエルは会社経営などもしているため、この収入が広告収入のみなのかは不明だ。

1カ月で収益が半減したと告白したカノックスターも「642万4630円」から「379万3417円」への半減であり、一般的な職業と比べるとかなりの高額を稼いでいる。

YouTubeの影響力は大きく、今後もYouTuberへの注目度は高いだろう。しかし、今回紹介したように収益が大きく減ったYouTuberも少なくなく、業界内が二極化している可能性がある。YouTubeの動画投稿だけではなく、YouTubeライブの投げ銭で別収入を得たり、知名度を生かして事業展開したりするYouTuberも目立つ。

今後も、音楽や語学など専門性の高いYouTuberが伸びる傾向は続くだろう。さらに炎上目的や、広告収入に頼りきりという古いビジネスモデルのYouTuberは淘汰(とうた)され、名前を売りファンを獲得するための場としてYouTubeを利用し、別の収益源を開拓することが業界のスタンダードになっていくのではないだろうか。

写真=iStock.com/Filmstax
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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。
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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)