“大殺界の生き残り”と称された幼馴染コンビ・マユリカの大逆転劇
漫才師が人気を獲得する道はいくつかあれど、よしもと漫才劇場所属、幼馴染の阪本匠伍と中谷祐太で結成された漫才コンビ「マユリカ」は、ポッドキャストとビキニ写真集で人気を集めたトリッキーな存在だ。今年の賞レースにも期待がかかる彼らのロングインタビュー、その前編では、不運が続いた時期から写真集発売までを振り返る。
マユリカ、どん底の3年間
――今や飛ぶ鳥を落とす勢いのマユリカですが、つい2年前まではいろいろと不運と不幸が続いていました。
中谷 そうですねぇ、あの当時は「もうええって!」って思うくらいいろいろ重なって、半分呆れてましたね。
――「ytv漫才新人賞決定戦」をコロナが原因で辞退された後も、貴重品を紛失したり、自転車を盗難されたりと、おふたりとも踏んだりけったりで。
阪本 まぁでも、いろいろ重なってるものを辿ったら、お前(中谷)の謹慎があるからな。
中谷 ええっ! ま、そうなんですけど、2020年の不幸な出来事、という括りだったんでね。あれは2018~2019年の出来事やから。
――中谷さんの遅刻癖が原因で、コンビ共々謹慎になった事態ですね。
阪本 2018年と言ってますけど、そこからもう何回も本社に謝りに行ってるんです。その二か月後にまた遅刻、さらにその二か月後に遅刻とかありましたから。あと、舞台の袖でタバコ吸ったりな。
中谷 ええっ! そんな一個一個丁寧に説明されるの? もちろん悪かったですけどね……。
阪本 そういうところからの「ytv」棄権だったんで、さすがに心折れましたけども。
――ただ、その後もマユリカとして活動を継続することを選んでいますね。
中谷 コンビを辞めると言われても仕方がない原因を作ったのは僕の方なので、そこは相方に感謝しかないですね。
阪本 僕は謹慎のときよりも、謹慎のあとでもまだ遅刻癖が治らないことの方が――。
中谷 (被せ気味に)いろいろご迷惑をおかけしました!
阪本 コンビのこともどうするか、そのときにいろいろ考えました。でも、解散して、一からオーディションを勝ち抜くことを考えると……それよりはまだ継続した方が、というところですね。
中谷裕太/元漫画家で、劇場でも「イラスト芸人」としてオープニングを務めることも。柴咲コウの大ファン
呆気に取られた、賞レースの当日棄権
――なるほど。2020年に時を戻しますが、「ytv漫才新人賞決定戦」を棄権せざるを得ないとわかったとき、おふたりはどのように思われましたか?
中谷 これも僕がきっかけというか、コロナの濃厚接触者になってしまって。賞レースの決勝って、来年また出られるというものでもないので、思い返したら芸人人生どころか過去の人生で一番くらい、イヤな出来事でしたね。一番優勝したかった大会でしたし、ショックでした。
阪本 当日に連絡が来たときは、呆気に取られたって感じでした。今の感覚としてはそりゃ無理やろって思いますが、あのときは自宅待機させられながらも、「出れるやろ」って気楽に考えていたんで。
中谷 当時は前例がなかったから。
阪本 熱も出てるわけじゃなかったしな。
中谷 結局家で生放送を見る羽目になったんですけど、嘘みたいでしたよ。僕らおらへんのに進行していってるのが。
――その後、神社にお祓いにも行かれたそうですが、あまり効力はなかったと。
阪本 ……キモい神社やったな。
中谷 ははははは! やめろ! まぁ確かにン万円払ったけど。夏に行ったんですけど、冷房もない暑いところでじっと耐えながら話を聞いて。そこでもらった飛行石みたいなものを言われた方角に置いてるんですけどね……。
阪本 その神社に何千円か追加で払ったら、ちっちゃい人形がもらえるんですよ。その人形を身体の悪いところにこすりつけて神社に返すと、悪いところ持っていってくれるそうで。こいつ(中谷)は包●のところにこすりつけてて。
中谷 ええねん、その話は!
阪本 なのに、今でもちゃんと包●なんですよ。
中谷 それで変化があったら怖いで! あれは内臓疾患的なことに効くやつやから。
――そういった出来事を笑い飛ばせるようにはなってきたわけですね。
中谷 確かに。今思えば「辛かったな~」くらいにはなりましたね。
中谷が元気よく登場したあと、不機嫌そうな阪本が小走りでマイク前に立つのがマユリカの「型」
まさかの完売! ウケ狙いから生まれたビキニ写真集
――そこからの逆襲劇というか、きっかけはラジオ番組「マユリカのうなされながら見た夢のあとで!」(ラジオ関西)が、月一回から3か月に一回に縮小され、その穴埋め的にポッドキャスト「マユリカのうなげろりん!!(以下、うなげろりん)」(ラジオ関西Podcast)がスタートしたことでした。スタートに際して、制作費を稼ぐためのビキニ写真集「Perfect!!」の出版も企画されたわけですが、まさかの増刷を繰り返す奇跡の本となりました。
中谷 もうこれはラッキーとしか言いようがないですね。
――そもそもなぜビキニ写真集を提案されたのでしょうか。
阪本 ポッドキャストの作家さんと(ラジオ関西)社員さんの4人で話していたときに、制作費の捻出のためにグッズを出しましょうと盛り上がって。そこで深く考えず、ウケねらいで「ビキニ写真集を出版したらみんな賛同してくれるんちゃうか」と。皮算用みたいなものはまったくなかったですよ。
――そこからのスピード感がすごかったですよね。ポッドキャストがはじまって2か月後には撮影までしていて。
阪本 本当にありがたかったです。
中谷 不思議な感覚はありましたよ。発案したのは阪本ですけど、僕らは水着を自分たちで注文したくらいで何もしていない。あとはスケジュールの調整やカメラマンのセッティングまで、編集を名乗り出てくださったリスナーの方がすべてやってくれました。カットの参考になる絵コンテみたいなものも書いてくださって。僕らは半分他人事みたいな感じで、その場に行くだけでした。
阪本 カメラマンさんも忙しい方なので、水着のカットの撮影が終わったらすぐに東京に帰られて。ほかのカットは放送作家さんが撮影しているので、明らかに画質もクオリティも下がっています。
中谷 いらんこと言わんでええねん(笑)。
――予約分の1000冊がすぐに売り切れました。
中谷 ただただびっくりしましたね。
阪本 嬉しいというよりかは、1000冊超えたあたりからは怖なってきて。何が起きてるかわからへんという感じでした。
ビキニ写真集「Perfect!!」を手に。売上冊数は2700部を突破。編集を担当したのはポッドキャスト「うなげろりん」のリスナー。デザインもふたりの友人が担当
「M-1」敗者復活戦を経て、ようやく家族が認めてくれた
――そこで資金が回収でき、ポッドキャスト「うなげろりん」も晴れて毎週配信となりました。加えて、2021年の「M-1グランプリ」敗者復活戦あたりから良い波が来たように思いますが、おふたりはそういう波をいつから感じはじめましたか?
中谷 やっぱり「M-1」じゃないですかね。見てる母数が違いますから。同級生とか、昔の知り合いとかからも連絡が来るようになって。加えて「うなげろりん」と見取り図さんのYouTube、その3つが大きいように思いますね。
阪本 最初は見取り図さんのYouTubeをきっかけに僕らを知ってくださる方が多くて。そこから「M-1」もあって、ポッドキャストもあって、写真集もあってという形でうまく話題が続いたんです。周りの芸人からも「最近人気あるみたいやな」と言われるようになりました。
中谷 昔は家族からあまり応援してもらえなかったんですけど、「M-1」以降、一度だけ会った母の鼻は少しふくらんでいました。息子だからわかる母の鼻の膨らみ。
阪本 うちもそうですね。これまでは実家に帰るたびに親父から「お前はいつまで続けるんや」と言われていて。あれが実家で一番イヤ~な時間で(笑)。今はもう応援の方に完全に切り替わってくれました。
――今年1月、『霜降り明星のオールナイトニッポン』にゲスト出演が決まったときも、霜降り明星のおふたりがコロナで出演できなくなり、SNSでは「マユリカが代わりにやるんじゃないか?」とざわついたこともありました。
中谷 ありましたねぇ。あのとき、一言も僕らは発言していなくて。
阪本 ファンが盛り上げてくださって、「マユリカあるんちゃう?」ということでトレンドにも入ってしまって。その盛り上がりがラジオの関係者に伝わった結果、「まったくおもしろくない!」みたいなリアクションをいただいて。なんか頭がウッとなるというか……。
中谷 悪いことしてないはずなんですけどね、心臓がキュッと(笑)。でも、そうやって話題にしてくださっているのはありがたかったです。
撮影 飯本貴子
取材・文 森樹