総務省が関心を持ち始めた「修理できる権利」、法制化に向け議論は進むか(佐野正弘)
総務省は2022年1月20日、「競争ルールの検証に関するWG」の第25回会合を実施しました。この会合はいわゆる「2年縛り」やSIMロックなどの乗り換え障壁をなくし、事業者間の公正競争を促進するために実施されているものです。
しかし、ここ最近の法改正やガイドラインの制定、携帯各社への指導などでそれらの障壁は大幅に減少していることから、今回の会合の内容は、一連の施策の振り返りが主だったといえます。

ただ1つ、今後に向けて新たな議論が進められる可能性も出てきました。それはいわゆる「修理する権利」に関するものです。
修理する権利とは、文字通りデバイスを自ら修理する権利のこと。スマートフォンをはじめとした多くのデバイスは現状、修理する際はメーカーに依頼する形を取ることがほとんどで、自分で修理したり、修理するための部品や工具をメーカーが提供したりすることはあまりなされていません。
しかしそれがユーザー、あるいは小規模な修理業者などに対してデバイスを修理する権利を奪っているという声が世界的に広がっており、ここ1、2年のうちに欧米などで修理する権利を法制化する動きが急速に進んでいます。例えば米国では2021年7月に発令した大統領令を受ける形で、米国連邦取引委員会(FTC)が「メーカや販売店による修理の制限に関する政策声明」を全会一致で採択。修理の制限に関する問題解決に取り組むことを打ち出しています。

ターゲットはアップル
一方日本では、まだ修理する権利導入に関して大きな動きや議論は起きていないように見えます。それだけに総務省が今回の有識者会議で、最近の携帯電話業界動向の1つという形ではあるものの、修理する権利に言及する動きを見せたことは大きな変化の表れと見ることができるでしょう。
そもそもなぜ、修理する権利が携帯電話の公正競争ルールに関する会議で取り上げられたのかといいますと、ユーザーが自らが修理する権利というよりむしろ、スマートフォンを修理する事業者間の公平性が保たれていないのではないか? という見方がなされているためでしょう。とりわけそのターゲットとなっているのが、日本でシェアの大きいアップルです。
先の有識者会議の資料によりますと、従来日本国内でiPhoneの純正部品による持ち込み修理を実施しているのはApple Storeと、アップルからの認定を受けた正規のサービスプロバイダの6社(「ビックカメラ」グループや「カメラのキタムラ」など)でした。それ以外の多くの事業者が純正部品を用いて修理できないことに対し、以前から問題視する向きがあったのは確かです。
それゆえかアップルは2021年3月30日、アップルの審査を受けた独立系の修理事業者(IRP)に対し、アップルの純正部品を用いた修理ができるプログラムを開始すると発表。総務省の調査でもすでにいくつかのIRPが、この仕組みを用いて純正部品による修理を開始しているとしています。
さらにアップルは2021年11月18日、利用者が自ら純正部品によるセルフでの修理を可能にする取り組みを発表。米国を皮切りとして、2022年より拡大されるとしています。メーカーとしては自らの製品の部品を公に提供することはデメリットも多いだけに、こうした対応はあまり積極的に取りたくないというのが正直な所でしょうが、修理する権利を求める声が世界的に大きくなっていることを受け、さまざまな対応を打ち出す必要に迫られていることは確かなようです。

もっともアップルが、申請したIRPを積極的に認定しているかという点は見えてない部分もあり、今回の会議ではその点を危惧する有識者の声もありました。また消費者に対して、修理するための部品や工具をどのような形で提供するのかはまだ見えていないことから、日本での部品提供を見据える上でも、先行する米国などでの状況は注目される所です。
日本では「技適の壁」も
ただアップルの動向がどうであれ、日本で個人がスマートフォンを修理する権利を得る上では「技適」という大きなハードルがあることも忘れてはならないでしょう。国内で電波を発する機器を提供する上では技術基準適合証明などを取得し、それを証明する「技適マーク」を付与する必要があることはご存知の人が多いかと思います。

ですが、そうした端末を認定された修理事業者ではない人達、つまり一般消費者がスマートフォンを分解してしまうと品質が保証できなくなり、勝手に修理すれば改造という扱いになるため、取得した証明が無効になってしまいます。その状態で電波を発してしまうと当然のことながら法律違反となってしまうので、仮に部品があったとしても、日本においては個人がスマートフォンを修理することが実質的にできない状況にあるのです。
そうしたことから国内で修理する権利を実現する上では技適マーク、ひいてはそれに関連する電波法や電気通信事業法に何らかの手を加える必要が出てくるでしょうし、導入に向けては法改正に向けた議論が不可避になってくるでしょう。
もちろん先の有識者会議は、どちらかといえば修理事業者とメーカーの公正競争が重視されているものでもあるため、現時点で総務省が、個人の修理できる権利にどこまで踏み込もうとしているのかは不明です。ただ今後修理する権利が海外で大きな盛り上がりを見せてくれば、「なぜ日本だけ修理できる権利がないのか」という声が高まり、総務省としても導入の検討を進めざるを得ないだけに、今後の行く末が注目される所です。
