LGBTを公表しているトーマス・デーリーは、男子シンクロ高飛び込みで金メダルを獲得した【写真:Getty Images】

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「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#85

「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる様々な“見方”を随時発信する。今回は「THE ANSWER スペシャリスト」を務める元ラグビー日本代表主将の廣瀬俊朗さんが登場。スポーツにまつわる話題を豊富な知見を生かした定期連載「THE ANSWER スペシャリスト論」の五輪版として全3回でお届けする。第1回は“多様性のスポーツ”と呼ばれるラグビーを究めた廣瀬さんが感じた「東京オリンピックの多様性」について語ってもらった。(構成=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)

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 東日本大震災からの復興、新型コロナウイルス感染症からの克服、環境への配慮……。7月23日に開会した東京オリンピックには様々な理念や意義が込められていますが、多様性(ダイバーシティ)もまた今大会を象徴するテーマの一つです。会期中、折に触れて多様性を感じる場面がありましたが、まず感じたのはやはり開会式でしょう。

 今回は206の国と地域が参加を予定し、その大半が開会式に参加しました。あれだけの数の選手が次々と登場し、一堂に会する。改めてオリンピックには世界中の人々が参加していることを感じ、率直に「すごいな」と感動を覚えました。知っている名前もあれば初めて聞く名前もある。母国の紛争や迫害により国を追われた人たちが難民選手団として参加しているのも「いいな」と思える光景でした。

 様々な競技で「男女混合種目」が増えたのも印象的でした。すごく新鮮でいい試みだと思います。もちろん、みんな真剣にメダルを狙いにいく一方で、まさにスポーツを楽しんでいることが伝わる笑顔に溢れていました。特に、水泳の男女混合リレーで見た選手たちの表情が、オリンピックという舞台では新鮮に映って良かったですね。
 
 オリンピックは歴史があって重みがある。それはすごく価値のあることですが、新しい種目や仕掛けが加わることで、これまでと違った形で純粋にスポーツを楽しめる方法が見つかることが面白いなと思いました。それを強く感じたのが、新競技のスケートボードやサーフィンです。

 10代や20代前半の若い選手たちが、もちろんプレッシャーもあるでしょうが、変に気負いすぎずにプレーそのものを楽しんでいる。順位を競う真剣さの中にも互いをリスペクトする姿が見られたり、ああいうスポーツの形もあるんだというのを見せてくれたのがすごく良かったですね。また、日本代表選手がしっかり結果を出したからこそ、良さが際立ったのではないかと思います。

 一方で、柔道のように金メダル獲得がマストの使命とされる中で戦う姿も、すごくかっこいい。そこには独特の重みがあって、やはり「道」の精神を感じる競技でもありました。試合に臨む姿勢やパフォーマンスの出し方などが競技によって違うのが面白い。まさに多様性の一つつだと思います。

LGBTQの存在、思いへの気づきのきっかけになれば

 今回はスポーツ界におけるLGBTQもまた、注目を集めました。まだまだ議論が必要なテーマでしょうが、女子重量挙げに出場したニュージーランドのローレル・ハバード選手はトランスジェンダーを公表し、ゲイを公表している男子高飛び込みの英国代表トム・デイリー選手は金メダルを獲得。これまでもLGBTQの選手はいたでしょうが、メディアで取り上げられる機会も多く、見る側がより意識するようになったと思います。

 スポーツ界では長い間、LGBTQであることを公表できない雰囲気がありました。それが本当に少しずつではありますが、公表する選手を受け入れる体制ができてきた感じがします。世界に比べると日本は少し遅れているかもしれませんが、デイリー選手が結果を出した上で、ゲイで金メダリストであることを誇りに思うといったコメントを残してくれたことに、いい刺激をもらえたのではないでしょうか。

 日本でも同性婚が認められるよう、LGBTQの方々が様々な活動をしています。残念ながらなかなか認められない現実がありますが、LGBTQの方々の存在や大変な思いに1人でも多くの人が気づき、そういった声に耳を傾けられるようになるといいなと思います。

 スポーツをきっかけに、社会があるテーマについて考え、議論することは、とても有意義なことだと思います。例えば、今回の五輪では体操女子米国代表のシモーネ・バイルズ選手がメンタルヘルスを優先させるために団体戦を棄権し、テニスの全仏オープンでは大坂なおみ選手も同じ理由で棄権しました。

 これまでは根性論でアスリートは弱さを見せてはいけない風潮がありましたが、本当にしんどい時はしんどいと伝えることはむしろいいことで、するべきことだと思えるきっかけになった。これはスポーツ界の未来に繋がりますし、子どもたちをはじめ、社会に力強いメッセージとして伝わったのではないでしょうか。

スポーツから刺激を受け、世界を見据えたビジネスパーソンが増えたらうれしい

 僕がプレーしていたラグビーは「多様性のスポーツ」と呼ばれています。15あるポジションはそれぞれ求められる役割が違うので、大概の人は自分の個性を生かせる場所を見つけられます。また、海外出身選手でも条件を満たせば日本代表としてプレーできる。本当にいろいろな個性が集まるスポーツです。

 いろいろな個性を持つ人たちがその人なりに楽しんだり、自分らしさを出せたりする環境がとても大事。その中で多様な個性が一つの目的に向かってベクトルを合わせられた時、ものすごく面白いものが生まれてくる。同じ考えや似た個性の人が集まると、まとまるのは簡単ですが、面白いものは生まれないような気がします。年齢、性別、生まれた国や育った環境など、いろいろな背景の人たちが集まると、今までにない「えっ!?」ということが起こりやすいでしょう。

 自分と違った個性を持つ人と出会うことで、改めて自分の良さや特徴を知ることができる。これも多様性のおかげだと思います。海外と比べると日本人は曖昧だと言われますが、実は僕もどちらかというと自分の意見をはっきりいうのが苦手なタイプ。それでも。代表キャプテンの時は伝えることも仕事の一つなので、データやファクトが好きな海外の選手にはそういったものをロジックに入れて話しかけたり、気持ちで動いてくれる日本人選手には「頼む、一緒にやってくれや」と感情に訴えかけたり、多くの学びを得ることができました。

 ここ数年、日本でも多様性に注目が集まってきました。日本は島国で鎖国の歴史もあり、他の人を受け入れることがあまり上手ではありませんでした。でも、今回のオリンピックでは外国人の監督やコーチが多く起用されるなど、少しずつ変化しています。スポーツは国際大会があり、海外との交流も多く、多様性に触れる機会が多いもの。そのスポーツの分野において、大坂選手や松山英樹選手など数多くの日本人がグローバルリーダーとして活躍しています。

 では、ビジネスの世界はどうでしょうか。日本という枠を超えて、グローバルリーダーを目指すビジネスパーソンがどれくらいいるのか。スポーツから刺激を受けながら、世界を見据えた気概あるビジネスパーソンが増えたらうれしいと思います。

 東京五輪をきっかけに、日本の社会がさらに多様性について理解を深め、多くの人にとって開かれた場になることを願ってやみません。(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)