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◆リードをけっして離してはいけない

 イギリス北部、スコットランドの大都市グラスゴー北西部に位置するダンバートンは、映画「ブレイブハート」でも知られるスコットランド独立の英雄、ウィリアム・ウォレスが裏切りに合い、幽閉されたダンバートン城が知られる古い町だ。

 この町には、物騒な橋が存在する。橋の名前は「オーヴァートン橋」。19世紀末に造られたというこの橋は、それより30年ほど前に建てられたオーヴァートンハウスと呼ばれる古城風の邸宅と町を分ける川にかかる石橋である。この石橋こそ、「犬が自殺」してしまうといういわく付きの橋なのだ。

 始まりは1950年代頃からで、60年以上に渡り犬が突如飛び降りて亡くなるという奇怪な現象が続いている。一説にはその数は600頭を超えるそうで、原因を魔術や怪奇現象と結びつけ、石橋は『犬の自殺橋』として知られるようになった。この現象について何度か調査も行われてきたが、明確な理由を突き止めることができていない。そのためだろうか、橋には「犬をしっかりリードに繋ぐ」よう注意を促す看板まで立てられている。

◆ミンクの臭いに興奮!?

 イギリスの大衆紙デイリーメールの記事によれば、最近になり、近所に住むボブ・ヒル牧師が怪奇現象説を打ち消すある原因を突き止めたと主張しているという。

「犬たちはミンクやマツテン(※欧州のテン)、その他の小動物のニオイを嗅ぎつけ、思わず橋に飛び乗ってしまう。ところが橋の端が傾斜しているため勢いで引っくり返りそのまま落下してしまう」というのが牧師の主張する原因だ。

 ヒル牧師は約20年前に妻とこの地に移り住み、その時から犬が突然橋から落ちるのを目撃してきたという。はたして原因は、橋の下の渓谷を走り回る小動物のニオイに惹きつけられ、興奮した犬が勢い余って落ちてしまったというのが事実なのだろうか……。確かに自殺した犬の多くはイギリスに多い鼻の長い狩猟犬の種類ばかりだと言われている。

 だが、動物のニオイがする橋なら世界中に存在するはずだし、ミンクのニオイはここだけではないだろう。確かにミンクやテンはイタチ科なので肛門腺から分泌されるニオイは強烈ではある。こうした動物の自死については世界中から報告されているが、その科学的根拠はいまだ示されていない。

◆本能に逆らって自殺することはあり得ない!?

 そもそも「自殺」は自己を認識した上で「死の概念」が無ければ成立しないとされ、獣は自殺しないと言われてきた。例外的にチンパンジーやゴリラなどの類人猿、ゾウやイルカなど社会性を持つ動物には仲間の死を認識しているかのような行動が観察されいるが、これらも本当に死を認識しているかどうか確証は得えられていないままだ。

 動物の自死で最も知られた例は北極圏に住む「レミング」(旅鼠)の集団自殺だろう。ただし、この「集団自殺」が世界的知られるようになったのはディズニーによるドキュメンタリー映画『白い荒野』(1958)の内容が誤解されて伝わったのが真相。実際には周期的な集団移動にともなう事故死説が有力だ。

 またこの他にも、座礁クジラのニュースはよく知られているし、飼い主との別離でエサを食べなくなって亡くなる飼い犬の話もある。変わったところでは2020年の九十九里浜におけるハマグリの大量死も話題になった。だが、どれも方向感覚の乱れやストレスなど理由は別に推察されいて、自殺とは解されていない。

 いずれにせよ本能の強い動物が、本能に逆らって自殺することはあり得ないという考察が支配的で、原因は別にあるとされている。

◆白い貴婦人の亡霊説

 で、犬の自殺橋である。 地元牧師の説に対して、宗教哲学の講師であるポール・オーウェン氏は異論を唱えている。オーウェン氏は11年にもわたってこの橋で起きる犬の死について研究を重ね、それに関する著書「バロンの虹の橋:飛び降りる犬たちの謎」も上梓している。