テレ朝記者が明かす「福島第1原発」廃炉処理が進まない5つの理由
3・11、東日本大震災発生から10年がたつが、被災地の完全復興にはいまだ至っていない。
そして、水素爆発、炉心溶融(メルトダウン)を起こした福島第一原子力発電所の廃炉処理も暗中模索のままだ。
「取材をすればするほど、『廃炉(ができるの)は虚構』なんだと感じざるを得ません」
こう話すのは、事故発生直後から取材を続け、『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)などに出演、田原総一朗氏ら論客と廃炉問題で激論を交わすテレビ朝日報道局社会部の吉野実記者(56)だ。
10年かかっても廃炉に向けた道筋すら見えないのは、何が原因なのか。吉野記者は「5つの理由」があるという。
■理由1:高い放射線量が原因で作業ができない
福島第一原発の事故発生当時、海側の地域では放射線量が毎時1ミリシーベルトを超えていた。これは1時間で、一般人の年間被ばく量に達する値である。
吉野記者によると、使用済み核燃料を回収するエリアの放射線量は、「いまだに高いままです。格納容器内はさらに高く人間の代わりに投入しているロボットも放射線の影響で頻繁に故障するほど」だという。
「2021年2月28日、やっと3号機のプールに残っていた使用済み核燃料566体の搬出が終了しました。しかし今なお1、2号機合わせて1007体の使用済み核燃料が残っています。
そのため燃料プールがあるオペレーティングフロアなどの線量は、1号機で毎時200ミリシーベルト、2号機で毎時150ミリシーベルトあります。
また、原子炉内には冷えて固まった燃料デブリも大量に残っているため、炉内はさらに放射線量が高くなっています。放射線を抑えるために炉内を水で浸し、デブリを取り出す方法を採用しようとしましたが、格納容器が損傷していたためできませんでした。
この放射線量が廃炉を阻む最大要因。放射線を防ぐ方法がないのが現状です。1号機のオペレーティングフロアは崩壊した建屋の瓦礫処理をするだけです」(吉野記者、以下同)
■理由2:記者たちが唖然としたトンデモ「冷却作戦」
東京電力は2016年3月、約350億円の国の予算を使い、建屋内への地下水流入を防ぐ目的で「凍土方式の遮水壁」の凍結運転を開始した。
冷凍機などで冷却した冷媒を圧送、地中に配置した凍結管の中を循環させて周辺の地盤を凍結させるというもので、2017年11月に「ほぼ、凍結完了しました」と発表された。
だが、吉野記者によると、この方式に決定し、着工されるまで信じられない愚策を続けていたという。
「原子力規制委員会は、配管トレンチ(坑道)に溜まった高濃度汚染水を抜かない限り凍土遮水壁の着手はできないと主張しました。
そのためには汚染水が漏出している開口部を塞がなければなりません。そこで、東電が最初に実行したのが『氷の大量投入』です。『氷を配管に入れれば、汚染水は凍るだろう』という発想ですが、流体の水を氷で凍らせるなんてできません。
『一流大学を出た技術者が、どうしてそんなことに気づかないんだろう』と記者たちも発表を聞いて唖然としました」
その後も、東京電力によるトンデモ策は続く。
「次は『(配管への)ドライアイスの投入』を発表しました。その結果は、『投入したが配管にドライアイスが詰まってしまい、続けることを断念しました』というもの。当時、会見場にいた記者たちのあきれ顔が甦ります。
そもそも原子力規制委員会は『凍土壁は止水するものではなく、流量を低減させる程度にしかならない』と冷ややかでした。東電がこうした意見に耳を貸さなかったことがこの結果になったのではないでしょうか」
こうした失敗の後、前出の「凍土方式の遮水壁」が実施され、2018年3月に効果の検証作業がおこなわれた。
「凍結開始前の汚染水発生量は一日約490トンでしたが320トンほど減少しました。
凍土壁単独の汚染水発生抑制効果は30%の95トンとされ、東電が『切り札』とした方式でしたが、並行して実施されたほかの方法の効果のほうが上でした。2020年度の一日あたりの汚染水発生量は140トン。東電は『多くは雨水』と、じつに苦しい言い訳をしていました」
現在、この冷却のため年間10億円の電気代が使われている。「東電内でも(負担している)この予算をほかの対策にまわせるんじゃないかといわれています」
福島第一原発2号機建屋。使用済み燃料棒取り出しの作業エリアを造っている現場
■理由3:科学的知見を無視した「汚染水の処理」
2021年2月13日、福島県沖で発生した震度6強の地震により、福島第一原発構内にある汚染処理水などを保管するタンク1074基のうち53基の位置が最大19cmずれていたことがわかった。
このタンクだが、東京電力によると、2022年秋には今ある約1000基のタンクは満杯。増設する余地はないという。
「原子炉冷却水のほか、雨水や地下水が建屋に流れ込み、それも放射性物質に汚染されるので『多核種除去設備(ALPS)』で放射性物質を取り除く必要があります。
しかし『トリチウム』は除去できないので、処理水を保管タンクに貯蔵しています。
2020年2月に政府のALPS小委員会が地元の公聴会などを経て『希釈海洋放出がより確実に実施できる』と説明・結論づけました。
トリチウム水は『一定程度に希釈すれば海洋放出しても健康被害、環境負荷はない』というのが世界共通の科学的知見です。日本も含め多くの原子力発電所で海洋放出されています。
政府も同案を支持したので先に進むかと思っていたら、地元の反対に加え、新型コロナウイルス対応の不手際や政治とカネの問題などで内閣支持率が急落した場合の解散総選挙への影響も意識して『海洋放出以外の処理方法も検討すべき』という声も上がり、先送りが続いています。
東電も『処分方法に関する国の結論を待って地元を説得する』と決断を政府まかせです」
■理由4:発表したロードマップは「希望的観測」だらけ
2011年12月、1〜4号機の廃炉に向けた最初の工程表(ロードマップ)を、政府(当時の民主党)・東電中長期対策会議が決定した。
「そこには『2年以内に使用済み核燃料の取り出しに着手、20〜25年後までに溶け落ちた核燃料を取り出し、30〜40年後までに原子炉施設を解体し廃炉を終える目標』とあります。
2021年末までに『溶融燃料を取り出し始める』とありましたが、当時から識者は、『甘い見通し』と指摘していました」
2013年6月、政府と東電などの廃炉対策推進会議が改訂版ロードマップを発表した。
「1、2号機は、最も早いケースで2017年度に使用済み燃料プールから核燃料の取り出しを始め、2020年6月に原子炉から燃料デブリの取り出しを始める。
3号機は、最短で2021年度下半期から燃料デブリの取り出しを開始するとありましたが、やはり楽観的な見通しでした。記者会見でも疑問が上がりましたが、東電は見通しというか希望的観測を語るだけでしたね」
現在のロードマップはどうなっているのか。
「2021年2月に発表された東電の対策概要では、1号機の使用済み核燃料取り出しが『2027年度から2028年度に取り出し予定』と大きく後退しました。
1〜3号機からの燃料デブリの取り出しも、まだスタートラインにも立てていないのに『30〜40年後には廃炉を完了』とあり……とても現実的ではないです」
■理由5:燃料デブリ取り出しは不可能なミッション
「1〜3号機には燃料デブリが総量で880トンあると推測されています。一日に100kgを取り出したとしても24年かかります。
しかもこれを取り出すには最終的に『シールドプラグ』という建屋の蓋を開いて、さらに格納容器の蓋も開けて取り出すのですが、2、3号機では蓋の裏側すら毎時数シーベルトの高い放射線量がみられ、蓋を開ける目途すら立ちません。
さらに取り出した燃料デブリをどこに保管するのかも問題です。専用のキャスク(容器)を作って保管する方法を模索中ですが、そのキャスクを最終的にどこに置くのかの論議もありません。
いまでは誰もが『燃料デブリの処理を30年、40年で終わらせることは不可能だ』と思っていますが、誰もそれを言わない。思いたくありませんが、『研究を続ける』と称して、補助金や研究費を受け取る“廃炉利権”を手放したくない人がいるのではないでしょうか」
この状況下でもっとも心配されることは何か。吉野記者はこう断言する。
「地震、津波、台風です。3・11クラスの地震が起きたら建屋の崩壊や格納容器のさらなる損傷が心配です。
津波が起きて、引き波で沖まで流された汚染水タンクが再び陸に押し寄せ、原子炉建屋を破壊することもあり得ます。
そういった被害を抑えるため防潮堤の建設を急ぐとともに、建屋全体を頑丈にする手段を講じる必要があると思いますが、議論をしている様子はありません。2月13日の地震は、誰もが肝を冷やしたはずです」
状況はまさに待ったなしである。
<<福島第一原発「廃炉」ロードマップの変遷>>
【2011年12月発表】
●2年以内に4号機の使用済み燃料プール内の燃料取り出しを開始
●10年以内に全号機の使用済み燃料プール内の燃料取り出し終了。および燃料デブリ取り出し開始
●20〜25年後までに燃料デブリの取り出し完了。30〜40年後までに廃炉措置完了
【2013年6月発表】
●1号機は2017年度下半期、2号機は2017年度下半期、3号機は2015年度上半期、4号機は2013年11月までに使用済み燃料プール内の燃料取り出し完了
●1号機は2020年度上半期・2号機は2020年度上半期、3号機は2021年度下半期までに燃料デブリ取り出し完了
【2021年2月発表】
●1号機は2027年度〜2028年度、2号機は2024年度〜2026年度に使用済み燃料プール内の燃料取り出し開始
●燃料デブリの取り出しについては各号機とも、具体的な年月日の表記はなし。原子炉格納容器内部調査・技術開発の継続と表記
写真提供・吉野実
(週刊FLASH 2021年3月23日号)