アート思考や新規事業などをテーマとしたイベントで、スピーカーとして登壇する機会が多いというITベンチャー「uni’que(ユニック)」の代表・若宮和男さんが書いたブログ記事「ジェンダーギャップなイベントの登壇をお断りすることにしました。」が反響を呼んでいます。そこで、プレジデントウーマンオンライン編集部はご本人に直撃。男性ばかりが登壇するイベントに感じた疑問や、こうした決断をするに至った理由について語ってもらいました。
「uni’que(ユニック)」代表の若宮和男さん(写真=本人提供)

■「女性登壇者25%以上」をマイルールに

7月20日に公開されたブログ記事に大きな反響をいただき、正直びっくりしています。この記事では、(アシスタント的な立場の人を除いた)女性登壇者が25%以上いないイベントへの登壇は当面お断りさせていただくことと、そう考えた理由などを書きました。

当初はあくまで、イベント主催者の方々にオファーの手間をおかけしないための事前の「業務連絡」のつもりだったのですが、女性からも男性からも賛成・反対含めてたくさんの意見をいただいて、この問題への関心の高さをあらためて実感しています。

「勇気ある発言」と言ってくださる方もたくさんいました。とてもありがたいことですが、僕としては「社会に物申す」みたいな大げさなつもりはなくて、純粋に合理的に考えてたどり着いた考えを書いただけなんです。

■女性のアイデアやニーズは新規事業の宝庫

僕は長く企業で新規事業の立ち上げをしてきましたが、その中で、意思決定者のほとんどが男性であること、それゆえ女性のアイデアやニーズが埋もれがちなことを、ずっともったいないと感じてきました。

もともと僕は、4人きょうだいの中で男は自分だけという「女性マジョリティー」の中で育ちました。学生時代はそこまで男女比を意識したことはありませんでしたが、IT業界に入った時に強い違和感を持ったのです。

たとえば2006年に入社したNTTドコモでは、新卒採用時の男女比率は6対4で、社員全体でも7対3の割合を維持していました。それなのに、新規事業部門になると9割が男性。決定権を持つ人も全員男性で、女性がアイデアを出しても通りにくい状況にありました。といっても男性側に女性を冷遇する意図があったわけではなく、単に女性たちのアイデアやニーズを理解できなかったからなんです。

これはとてももったいないことで、事業の面から考えれば機会損失そのもの。当時はスマホがすごい勢いで普及し始めた頃でしたが、大化けしたサービスはどれも、女性がカギになっています。たとえばインスタグラムは「何となく写真がおしゃれになる」、LINEは「キャラクターが何だかかわいい」といった、機能やスペックだけで説明できない理由で大ヒットしました。いずれも、女性や女子高生の間で人気になったのがきっかけだと言われています。

世の中には、僕を含めたおじさんたちには理解できないニーズがゴロゴロある。なのに自分の職場では、女性のアイデアやニーズが日の目を見ないまま埋もれているわけです。ちゃんと形にすれば事業として成功する可能性が大いにあるのに、何でそうできないんだろう──。

そんな疑問に対する自分なりの答えが、uni’que(ユニック)の起業でした。当社では女性向けサービスに特化した事業や、女性起業家を創出するインキュべーション事業を行っています。特に重視しているのは、「バンドスタイル」という意思決定権の分散と女性に意思決定権を持ってもらうことです。僕がわからないニーズをいかに世に出せるか。「社長がわからないから却下」は、機会損失でしかないと思っています。

■僕の登壇は、女性登壇者の席を1人分奪う

このように、女性の可能性を信じ、その発信もしてきたつもりでいたのですが今年の6月、あるイベントの打診を受けた時にハッと気づいたんです。「自分は女性のアイデアやニーズの可能性を信じてずっとやってきたけど、実はそう行動できていない部分があったんじゃないか」と。

これはブログにも書きましたが、そのイベントには女性登壇者が1人もいませんでした。自然に選んだら男性ばかりになっていたそうです。ここが問題で、そういえば自分の過去の登壇イベントを振り返っても、9割近くが男性でした。

以前から、男性だらけのベンチャー系イベントには、「まだ男性ばっかりだな」と違和感を持っていました。でも実はどこか、人ごとのようにとらえていたんです。

イベントの登壇者として声を掛けていただくと、やっぱりうれしくてお引き受けしていたのですが、よく考えたら、僕が登壇するということは、女性登壇者1人分の席を奪うということ。自分もジェンダーギャップを広げている当事者だったわけです。

■女性から届いた「男性の側から言ってくれてありがとう」

前述の記事は、この気づきから書いたものです。繰り返しになりますが、女性のアイデアや観点を生かすことは、事業や社会の成長を考えるととても合理的。だから女性の意思決定者や起業家はもっと増えていいはずですし、そのためのロールモデルとしてイベントの主催者もそうした女性にどんどん目を向けてほしい。

そしてできれば、男性の間でも同じ考え方がじわじわ広がっていったらいいな、と期待しています。

男性からの賛同意見も結構もらっているんですが、登壇者やイベント主催者からの明確な賛同はまだあまり多くありません。今後、影響力のある男性から「俺もそうする」的な宣言がもっと増えてきたら、社会は一気に変わると思っています。

だからといって、「男が席を譲るべきだ!」と正論を振りかざすつもりはありません。イベントも事業ですから、登壇者選定には集客力も重要ですし、登壇者にとっても不義理や収益減のリスクがありますから、多く登壇されている方ほど方針を変えるのは簡単なことではありません。焦ると「批判vs反論」といった対立構造につながってしまうので、小さな声でも発することで、漢方薬みたいにじわっと、現在の世の中の“体質”が変わっていったらいいなと思っています。

女性からは「男性の側から言ってくれてありがとう」という意見を多くいただきました。同じ内容を女性が言うと批判的な返信が続々と飛んでくるそうで、まずそこにびっくりしましたね。当事者としてずっと声を上げてきた女性がたくさんいて、皆もどかしい思いをしているんだなとあらためて感じるとともに、まだ「宣言」をしただけの僕がこのように取り上げられ、恐縮もしています。

会社命令で、頭数をそろえるためだけイベントに駆り出され、「正直面倒くさい」という女性もいました。楽屋でおじさんの自慢話を延々と聞かされ「接待要員じゃないんだから」と辟易している女性もいました。

こうした話を聞くたび、「まだまだ男女平等については移行期なんだな」と思わされます。形だけでなく、男性も女性も全員が互いに敬意をもって吸収し合うのがカッコいいという風潮に、早くなってほしいです。急がないと、活躍したい女性にとって男性全体が信用できない存在になっていくかもしれません。それは個人的にも娘をもつ父親としても嫌ですし、社会にとっても大きな不利益だと思います。

■「なぜ数合わせをしなくてはならないのか?」

記事には、もちろん反対意見も寄せられました。ある男性からは「能力主義の時代なのに、なぜそこまでして男女の数を合わせる必要があるのか」という意見をいただきました。これに対する僕の考えは「能力主義は大賛成。でも能力主義を本気でやったら、男女不均等になんてならないはず」です。

それでも不均衡だとしたら、数年前に問題になった、医学部の入試問題のように、意図的な操作が行われているということです。

あるいは「能力の評価軸」の問題もある。仕事における「能力」は、「誰かの評価」です。そして今の日本の評価基準は、「男性にフィットするようにつくられた社会」の価値観でできています。いわば、一部の人が決めた軸が基準になっているわけで、それも本来変わっていかなければならない。

今回のコロナショックでも、海外では女性リーダーのしなやかで的確な対応に賞賛が集まりました。日本でも本気で能力主義を徹底し、能力の基準そのものを見直したら、今能力者とされている人たちがどれだけ入れ替わるか。これには既得権益のある人ほど抵抗するでしょうが、従来の評価基準からそろそろ脱却しないと、今後日本は成長していけないのではないかと強く危機感を持っています。

■同質的でない「カラフルな世界」を目指したい

もうひとつ、同質性への危機感もあります。

昔から、同質性が高い環境が嫌いなのですが、長年新規事業に携わり、イノベーションやアート思考について研究する中で、集団には「異質性」を内包しておくことが大事だと強く思うようになりました。

世界史を見ても、過去の企業の不祥事を見ても、同質的な集団が一斉に同じ方向へ走って悲惨な結果を招いた例は少なくありません。僕が男女比について発言するのは、同質性が高く、価値基準が一つしかない集団は危険だし、新しい価値が生まれないという思いがあるからなのです。

ここまで男女比に注目して話をしてきましたが、実はジェンダーを男性と女性の二分法で語ることには危険性もあります。男性と女性だけを取り上げると、その2つしかないように見えますし、2つの性の間にあるグラデーションが消えてしまいますよね。

台湾では、トランスジェンダーのオードリー・タンさんが史上最年少で入閣しました。この台湾の成熟ぶりに比べたら、今の日本の価値観は、僕には白黒映画のように思えます。白黒映画では、明度が同じなら赤いリンゴも緑色のリンゴもグレーに見えますが、本当の世界はもっとカラフルで、白と黒のグラデーションだけでは表現しきれないもの。

映像表現がぐんと豊かになったように、社会もさまざまな色合いやグラデーションをそのまま見ることができるようになったら、より豊かになるはずです。

とはいえ、映画も白黒からいきなりフルカラーになったわけではありません。白黒に手作業で拙い色をつけていた時代があり、2色カラーの時代があり、やっとフルカラーになったのです。

今の日本はまだ、カラフルな世界への移行期。1色ずつ足していきながら、最後はフルカラーの、誰もが古いジェンダー観に縛られず、それぞれのカラー、それぞれが持つ「いびつさ」を維持したままで能力を発揮できる社会をつくっていけたらと思っています。

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若宮 和男(わかみや・かずお)
uni’que代表取締役社長
ランサーズ タレント社員。1976年、青森県生まれ。建築士としてキャリアをスタート後、東京大学でアート研究者となる。2006年、モバイルインターネットに可能性を感じIT業界に転身。NTTドコモ、DeNAで複数の新規事業を立ち上げる。17年、女性主体の事業が少ない日本の現状に課題を感じてuni’que(ユニック)を創業。近著は『ハウ・トゥ アート・シンキング』。
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(uni’que代表取締役社長 若宮 和男 構成=辻村洋子)