刺し身に菊を添えるのはなぜ?

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 飲食店で刺し身を注文すると、お皿に盛られた刺し身とともに「菊」の花が添えられて出てくることがあります。同様に、スーパーマーケットで売られているパックの刺し身にも、菊の花が添えられていることがあります。なぜ、刺し身の横には、菊の花が添えられているのでしょうか。料理研究家で管理栄養士の関口絢子さんに聞きました。

江戸時代から食べられるように?

Q.刺し身に菊の花が添えられるようになったのは、なぜですか。

関口さん「菊の花は彩りの美しさはもちろん、解毒効果を利用した殺菌目的や、香りを楽しむ薬味として添えられたと考えられています。刺し身などに添えられる菊の花は、全て食用菊で、タンポポのような小ぶりでおなじみの菊は『秋月』という品種です。

菊は平安時代に中国から日本に伝来し、観賞用や薬用として宮中で好まれるようになったと考えられています。食用菊が本格的に発達したのは江戸時代で、苦味を取り除き、花弁を大きくする改良がなされたり、品種も多種栽培されるようになったりしました。刺し身に添えられるようになったのも、この時期ではないかと考えられます」

Q.添えられた菊の花は食べられるそうですが、どのようにして食べたらよいのでしょうか。栄養はあるのですか。

関口さん「軸ごと食べると苦味があるので、花びらをちぎって刺し身に散らしたり、しょうゆに入れて味や彩りを楽しんだりするのが一般的です。栄養は、葉酸をはじめとしたビタミンB群、ベータカロテン、ビタミンCなど、抗酸化作用の高い栄養素が多く含まれます。体内のグルタチオンという解毒物質の産生を高めることも発見されています。最近の研究で、がん予防や、コレステロールや中性脂肪を下げる効果があるなど、健康に役立つ食べ物としても知られてきました」

Q.食用菊は観賞用とどのように違うのですか。

関口さん「食べられる菊は食用に品種改良されたもので、苦味が少なく、花弁を大きくし、味や香り、食感に優れています。『秋月』など刺し身に添える小さな黄色い菊は、愛知県で多く作られています。他に大ぶりな食用菊もいろいろあります」

Q.あるテレビ番組のアンケートでは、97%の人が「菊の花を食べない」と回答するなど、実際に食べる人はほとんどいないそうです。なぜ、刺し身の菊を食べる習慣が広まっていないのでしょうか。

関口さん「刺し身に添えられた菊は食べる部分が少ないことに加え、食べ方が分からない人がほとんどだからではないでしょうか。高級肉やおせちの飾りなどに造り物の菊が入っている場合もあり、食べ物というより飾り物のイメージが強いこともあるかもしれません」

Q.刺し身以外に、菊の花を添える料理はありますか。

関口さん「ちらしずしやサラダなどに花弁を散らすことがあります。花弁の大きな物はシャキッとした独特の食感があるので、お浸しやあえ物、酢の物、吸い物に加えるなどして使われています」

Q.料理の主役になる菊の花もあるのでしょうか。

関口さん「食用菊の代表的な品種として、紫色で大振りの『延命楽』という菊がありますが、料理の主役になります。食用菊の6割がこの品種で、主産地の山形県では『もってのほか』『もって菊』と呼んでいます。『天皇陛下の紋章である菊の花を食べるなんてもってのほかだ』『もってのほかのおいしさ』などから転じた命名だそうです。また、『カキノモト』とも呼ばれています。

濃い黄色の『阿房宮(あぼうきゅう)』という青森県八戸市特産の菊も料理の主役になります。『延命楽』『阿房宮』は一般に、さっとゆでて野菜のような感覚で使います。菊の花の甘酢漬け、あえ物、おひたしは代表的な料理です。山形県では特に、菊を食べる文化が色濃いようです」