今年7月、大阪府枚方市の遊園地「ひらかたパーク」で、アルバイトスタッフが亡くなるというショッキングなニュースがあった。原因は熱中症だった。

【レシピ】猛暑の夜には「アボカドトースト」がおすすめ

 他にも連日の猛暑の中、相次ぐ熱中症による体調不良で倒れる人が続出。総務省消防庁によると、今年7月29日〜8月4日までに熱中症で緊急搬送されたのは1万8347人、死亡数は57人に上っている。

 予防策は、決して他人ごとではない「熱中症」をまずは知ること。週刊文春で様々な視点から取り上げてきた、真夏の猛威「熱中症」企画をここに紹介する。

 

※「週刊文春」2018年8月2日号より転載。記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のものです。

食事を見直し、健康な体づくりを目指す

「この夏は、長期的視野に立った猛暑対策が必要です」

 そう警鐘を鳴らすのは、帝京大学医学部附属病院・高度救命救急センターの三宅康史(やすふみ)センター長。

「これまでにない長期間、暑さが継続したとき、例年より熱中症の患者数がどれだけ増えるのか、予想すらつきません。

 熱中症対策の基本は、こまめな水分補給と塩分補給。あるいは部屋の温度調節や不要な外出を控えることで、体温を正常に保つ。ただ、それはあくまで基本。毎日の食事を見直し、健康な体づくりを目指すことも重要です」(三宅氏)


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 熱中症とは、高温多湿の環境に身体が適応できないことで生じる、さまざまな症状の総称。水分、塩分の補給が重要なのはいうまでもないが、食事によって“夏バテ”しないスタミナを蓄えることもまた大事というわけだ。

真夏の新習慣! 「朝にコップ一杯の牛乳を」

「実は、いい汗をかけるかどうかが、熱中症や酷暑対策の鍵になります」

 と語るのは、「汗博士」の異名を持つ五味クリニック院長の五味常明氏だ。

 人間は、汗をかくことで体温を下げている。皮膚から汗を蒸発させ、気化熱を放出して体温を下げるのだが、汗をかく習慣のある人は蒸発しやすい、水のような汗がかける。

「ところが、生まれた頃から冷房漬けの生活を送っている若者、あるいは汗腺機能が衰えている高齢者の中には、汗をかけなかったり、塩分の濃い汗をかく人が増えています。うまく汗をかけないと、体の中に熱がこもり、熱中症の危険が高まります」(五味院長)

 “いい汗をかく”ためにおすすめなのが、朝の一杯の牛乳だ。

「血液中の水分を汗腺から蒸発させたのが汗。つまり汗の原料は血液なので、多量の汗をかくと血液量が不足しがちになる。牛乳や豚肉、大豆などのタンパク質に多く含まれるアルブミンという成分が、血管の外の水分を引き込んで血液量を増やし、汗の原料を増やしてくれます」(同前)

 しかも、汗で失われるミネラルのうち、カリウムやナトリウムは野菜などで補給する必要があるが、カルシウムは牛乳で手軽に補給できるから一石二鳥だ。

 牛乳はどうも苦手……という人にはギリシャヨーグルトを、とは管理栄養士の安中千絵氏。

「ギリシャヨーグルトは、タンパク質が通常のヨーグルトより多く含まれているのです。最近ではコンビニやスーパーでも普通に見かけるようになったので、手軽に朝食に一品加えることができます」

夏の食事は江戸を見習え! “飲む点滴”=「甘酒」

 猛暑の新習慣としてもう一つおすすめなのが、“飲む点滴”と呼ばれるあのドリンク。発酵学者の小泉武夫氏が力説する。

「夏の食事は“江戸見習い”がいい。冷房も扇風機もない環境にあった江戸時代の人びとの食文化には、酷暑を乗り切る多くのヒントが隠されています。中でも、特筆すべきは甘酒です」

 甘酒には米麴だけで作るものと、酒粕や砂糖を加えるものがあるが、酒類ではない。冬をイメージしがちだが、実は甘酒は夏の季語。古くから日本の夏を支えるスタミナドリンクだったのだ。

「甘酒生姜」がイチオシ! セットで「アボカドトースト」もおすすめ

 “飲む点滴”の秘密は、その豊富な栄養素にある。メーカーの「八海山」広報が解説する。

「当社が分析したところ、麹甘酒にはパントテン酸、ビオチンなどのビタミンB群、必須アミノ酸9種類を含むすべてのアミノ酸が含まれるほか、ビタミンEの7,000倍の抗酸化能をもつといわれるエルゴチオネインなど、豊富な栄養成分が含まれることが分かりました。

 夏なら、割ってさっぱりと飲むのがおすすめです。牛乳や豆乳で割れば甘さがまろやかになり、お子さんにも美味しく飲んでもらえるでしょう。炭酸で割れば爽快な飲み口に。柑橘ジュースと合わせてスムージー風にするのも若い女性に人気です」

 小泉氏のイチ押しの飲み方は「甘酒生姜」だそう。

「甘酒に生姜のしぼり汁を一滴。ジンゲロールなどの辛味成分が胃を刺激して、甘酒の栄養成分の吸収が、グンと高まります」

 一日の始めの大事な朝食に、牛乳や甘酒だけでは物足りない、でも寝苦しい夜が明けたあとはあまり食欲が……という向きには、安中氏が提案するアボカドトーストはどうだろう。

「アボカドは汗で失われるカリウムを多く含みます。紫外線の害から肌を守るビタミンEも豊富。ふんわりと冷たく軽い食感なので、食欲がわかない朝でも食べやすいでしょう」(安中氏)

社会人におすすめしたい 「ランチカレー」で熱中症対策

 サラリーマンには待ちに待った昼休み。ここにも“いい汗をかく”ためのコツがある。

 オフィスで冷房漬けの現代社会人にとって、昼休みは衰えがちな汗腺を鍛える絶好のチャンス。だが、熱中症のリスクがあるので、冷房を切ったり、ましてや無理に運動するのは禁物だ。

 そこで食事による“汗腺トレーニング”を実践したい。冷房の効いた部屋で、辛いものや温かいものを食べ、適度に汗をかくのだ。

「熱中症を予防しながら安全に汗をかくには、食事が最適。忙しくてコンビニのおにぎりで済ます場合でも、体を温める効果のある生姜入りのスープなどを一緒に。辛さに慣れてしまうので毎日はおすすめしませんが、スパイシーなカレーで汗腺を刺激するのも効果的です」(五味院長)

 食品成分に詳しい、愛知学院大学心身科学部健康栄養学科の大澤俊彦教授もカレーの効能を説く。

「家庭でカレーを作るなら、豚肉のほかに、鶏のむね肉もいい。イミダゾールペプチドという、渡り鳥や回遊魚に含まれるアミノ酸結合体の栄養素に、疲労回復効果が確認されています。

 スパイスも夏バテにいい。クルクミン(ウコン)は脳の機能改善効果が報告されています。カレー粉中の辛味成分カプサイシン(唐辛子の成分)やピペリン(コショウの成分)には食欲増進や疲労回復効果が期待できる。塩分と油分の多い市販のルウはなるべく使わず、カレー粉で作る。レモン水でビタミンも一緒に補給するとなおよいですね。

 夏バテでダメージを受けるのは胃腸。冷たいものを摂り過ぎると胃の粘膜に負担がかかるので、ビタミンAやビタミンCを積極的に摂りましょう」

中華ならレバニラ炒め 喫茶店で休憩ならカフェオレ

 ビタミンAといえばレバー。ならば中華料理店に入って熱々のレバニラ炒めで一汗かくのもいいかもしれない。

 活動量が増える日中は血液量増加のチャンスでもある、と解説するのは信州大学医学系研究科の能勢博特任教授だ。

「血液量を増やす牛乳は、運動後30分以内に飲むとより効果的です。運動といっても朝晩、通勤通学の10分程度の歩きで十分。ややきついと感じる速度で歩くのがポイントです。営業マンが喫茶店で休憩するときは、コーヒーより牛乳のたっぷり入った甘いカフェラテ、というのもいいですね。もちろん歩く最中の水分補給も重要です」

 夏休みで家にいることが多い子どもたちには、おやつで一工夫できる。スイカに塩は昔からの定番だが、実は熱中症対策には非常に理に適っているという。

「汗で奪われ、不足しがちなカリウムや塩分を効率よく補給できる。スーパーやコンビニで買うお菓子なら、ビタミン豊富で抗酸化力も高いナッツ類、血圧低下や動脈硬化予防が期待できる高カカオのチョコレートもいい」(大澤教授)

 ナッツならばアーモンドバターを使う手もある。

「若い女性に人気の、バナナとアーモンドバターのサンドイッチはいかがでしょうか。アーモンドやバナナにはカリウム、ビタミンが豊富で、何より美味しく簡単。子どものおやつにはもちろんですが、朝食にも最適です」(安中氏)

「体力をつけるにはタンパク質」ぜひ取り入れたい“味噌汁”

 体力をつけるには、身体をつくる源となるタンパク質が重要。医師で医療ジャーナリストの森田豊氏は、「高齢者こそタンパク質の摂取が大事」と指摘する。カロリーは足りているもののタンパク質が不足しがちな「新型栄養失調」の人が、現代の高齢者には多いという。

「熱中症に負けない体づくりには、筋肉や血液量を増やすため豚肉や牛乳、大豆などタンパク質を意識的に摂取する必要があります。

 そこで夕食に、ビタミンも豊富な豚肉と、にんにく、キムチを炒めた豚キムチなどはどうでしょう。キムチのカプサイシンで食欲を喚起しつつ、にんにくに含まれるアリシンが豚肉のビタミンの吸収を助けてくれる、バランスのよい組み合わせです」(森田氏)

 主菜に添える一品として、ぜひ取り入れたいのが味噌汁だ。

 味噌汁は貴重なタンパク源。大豆のタンパク質は30%超と、和牛(17〜18%)を凌ぐ。畑の肉といわれる所以だ。“江戸見習い”を説く小泉氏がいう。

「江戸時代の食事をみると、朝昼晩、味噌汁をすすっていたことが分かります。具には豆腐、挽き割り納豆、その上に刻んだ油揚げを入れていた。肉が貴重品の時代に、現代人の平均の摂取量を上回るタンパク質を摂取できていたのです。牛肉や豚肉で摂ろうとすればあっというまにコレステロール過多。味噌汁は塩分補給もでき、すばらしいスタミナ食です」

 味噌汁にスプラウト(発芽野菜)を添えるとなおよい、というのは大澤教授だ。

「辛味のあるブロッコリースプラウトやカイワレを薬味的に加えれば食欲もアップ、栄養価もアップします」

酢で疲労回復をはかる

 猛暑で消耗した体力の回復をはかるには、お酢も積極的に活用したい。酢に含まれるクエン酸がエネルギー代謝を促し、エネルギーを効率的に生産し、疲労からの回復を促してくれるからだ。五味院長によれば、酢の物は動脈硬化の予防や、新陳代謝を高めるのに有効だという。

 東京農業大学醸造科学科の穂坂賢教授が補足する。

「ふつうの酢もよいですが、黒糖もろみ酢もおすすめです。クエン酸やアミノ酸を多く含むほか、黒糖はミネラル類も豊富。ふつうの酢と同様にお料理に使えますし、飲用にも適しています」

 五味院長はまた、夏こそ鍋を、と提案する。

「トマトやきゅうりなど体温を下げる夏野菜だけでなく、大根やごぼうなど冬野菜も取り入れたい。鍋ならタンパク質も手軽に摂取できるし、冷房の下、温かい鍋でじんわり汗をかけば汗腺が鍛えられる。ポン酢で食べればクエン酸も摂取できて、一石二鳥にも三鳥にもなるでしょう」

 汗をかいた一日の終わりにはついビールに手が伸びがちだが、飲み過ぎにはご用心。特に寝る前は、脱水による熱中症に注意が必要になる。

「少なくともアルコールと同量の水分を飲むようにしたいですね。おすすめなのは梅酒です。疲労回復効果のあるクエン酸も含まれ、酒税法で一定の条件はあるものの、自宅でも作れるから経済的です」(穂坂教授)

 こんなご意見も。

「寝苦しい夜の晩酌には、少量の本みりんがいい。味が濃いのでオンザロックで。米麹と焼酎を合わせて作るみりんには甘酒同様の成分が含まれ、スタミナもつくし、女性は美容効果も期待できますよ」(小泉氏)

酷暑県に学ぶ、夏をのりきるメニュー

 天井知らずの高温が続く日本列島。7月16日には岐阜県揖斐川町で今年全国最高の39.3度をマークした(のち埼玉県熊谷市などが更新)。

 岐阜は過去にも多治見や美濃で40度超えを記録するなど、厳しい暑さで知られるが、“酷暑県”ならではの食の知恵はあるのだろうか。岐阜県栄養士会・地域活動事業部の後藤恵子氏に聞いた。

「岐阜では、かつては川でよくうなぎが獲れ、日常のタンパク源でした。その名残で、今も一年を通じてよく食べます。東京では土用の丑の日しか食べない人がいるなんて、信じられません(笑)」

 味が濃い甘辛しょうゆタレは食欲増進、塩分補給にもいい。また、岐阜は海がない代わりに長良川、木曽川など河川が多いので、鮎もよく食べるという。

「家庭の食卓にも、学校の給食でも出てきます。鮎は『川魚の王』と言われるほど栄養価が高く、抗酸化作用のあるビタミンEは魚の中でトップクラス。さらに内臓(腸)まで食べられ、やはり抗酸化作用のあるビタミンAとビタミンEが豊富。暑さや紫外線で酸化しやすい体を守ってくれます」(同前)

 岐阜や愛知、三重は大豆だけで作られた「豆味噌文化圏」としても知られる。

「うどんにもおでんにも、炒め物にも味噌を使うのが一般的です。米や麦を一切使わず、大豆だけが原料の八丁味噌などは、タンパク質の他、ビタミンやミネラルがふつうの味噌以上に豊富なのです」(同前)

 猛暑報道の常連、群馬県はどうかといえば、小麦の産地なので、自ずと麺類が多くなる。桐生大学短期大学部生活科学科講師の中村裕子氏によれば、定番は「ごま汁(冷汁)」だという。

「すり鉢ですったゴマに味噌を加え、少量のだしを加えてのばしたつゆで食べるうどんやそうめんです。群馬ではたっぷり、丸ごと一本分くらいのきゅうりを入れて体の熱を取り、ミネラルを補給します。野菜の一大産地でもあるので、けんちん汁や、こんにゃく、椎茸、ネギの頭文字をとった『こしね汁』など、具沢山の汁物もよく食べますね」

 亜熱帯地域の沖縄、奄美地方には、甘酒に劣らない秘伝の栄養ドリンクがあるという。鹿児島大学農学部・郄峯和則教授の解説。

「『ミキ』という沖縄・奄美版の甘酒があります。奄美のものは、おかゆ状に炊いたお米にすり潰した生のサツマイモを加え、攪拌しながら糖化させた後、貯蔵中に乳酸菌で発酵させたものです」

 奄美でトップシェアを誇る花田ミキ店の花田謙一郎社長が語る。

「夏は家庭の冷蔵庫に必ず一本は入っていて、奄美でミキを知らない人はいません(笑)。夏バテしてどうしても食欲がない時に、ごはんの代わりに飲む人が多いですね。甘酒よりさっぱりした酸味が特徴で、すぐエネルギーに変わるので、地元の高校生は部活の前に飲んだりもしています」

暑い夏でも簡単のものぐさレシピ 作り置きしてアレンジ自在!

 これまでに紹介したポイントを押さえた、酷暑にぴったりの三食を、管理栄養士の安中氏に考案してもらった。

「キッチンにエアコンが付いていない家庭もありますし、汗をかきながらお料理をする方も多いと思います。そこで、簡単に作れて栄養バランス抜群の三食を考えました。

 キッチンばさみで調理できるスプラウトやししとうは、存在感もあって華やかなので夏場は重宝します。具沢山汁のように、冷蔵庫に作り置きできてアレンジ自在なお料理も大事。そうめんや冷麦よりビタミンやミネラルが豊富な蕎麦、抗酸化作用の高いスプラウトやししとう、カリウムやビタミン豊富なアボカドを使い、タンパク質もしっかり摂れるよう工夫しました」

 酷暑との闘いは長期戦。充実した食生活で、万全の体づくりに励みたい。

猛暑を乗り切る! かんたんレシピ6選

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2018年8月2日号)