北朝鮮による瀬取りの監視を目的に、カナダ軍の艦艇と航空機が沖縄に展開しました。これまでも同様の活動は実施してきましたが、今回は少々、事情が異なります。端的に言えば「本腰を入れ始めた」わけで、その背景と意義を探ります。

カナダ軍の哨戒機と艦艇が沖縄に続々展開

 2019年6月26日(水)、筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は沖縄県にあるアメリカ空軍嘉手納基地、およびアメリカ海軍の港湾施設であるホワイトビーチ地区に赴きました。その目的は、嘉手納基地に展開しているカナダ軍の哨戒機CP-140「オーロラ」と、ホワイトビーチに停泊しているカナダ海軍のハリファックス級フリゲート「レジャイナ」および補給艦「アストリクス」を取材することです。これらカナダ軍の航空機および艦艇が日本にやってきたのは、いずれも北朝鮮による瀬取り(洋上での船舶同士による物資の積み替え)を監視するためです。


沖縄県うるま市のホワイトビーチに停泊するカナダ海軍フリゲート「レジャイナ」 (2019年6月26日、稲葉義泰撮影)。

 これは、北朝鮮が行っている核兵器や弾道ミサイルの開発を止めさせるために出された、2017年の「国連安全保障理事会決議第2375号」に基づく制裁内容を履行するための措置です。具体的には、決議により同国への輸出が禁じられている、あるいは輸出量に制限が設けられている石油などの資源や物品が、洋上で違法にやり取りされることがないように各国が艦艇や航空機を用いて監視しています。

 カナダは、この瀬取り監視の取り組みに2018年5月から参加していますが、実は今年になって、そのスタンスは大きな変化を迎えました。

「オペレーションNEON」は従来と何が違う?

 これまでカナダは、2018年にCP-140哨戒機およびフリゲート「バンクーバー」「カルガリー」をそれぞれ瀬取り監視のために派遣してきましたが、これはカナダ軍のグローバルな展開を通じた各国との連携強化を目的とする「オペレーションPROJECTION」の一環として行われていました。つまり、これまでの派遣は瀬取り監視のみを目的とした作戦のもとで実施されていたわけではなかったのです。


カナダ空軍の哨戒機、CP-140「オーロラ」(画像:カナダ空軍)。

 しかし、2019年4月28日に、カナダ政府は瀬取りを通じた北朝鮮による制裁逃れに対抗するべく、それを監視するための新たな作戦を実施することを発表しました。それが「オペレーションNEON」と呼ばれるもので、これは2019年5月から2021年4月までの2年間に、艦艇や航空機を継続的に派遣し、おもに東シナ海において瀬取り監視を実施するという内容です。ただし北朝鮮の動向次第では、この2年間という期間が伸縮する可能性もあるようです。

 そして今回、取材したフリゲート「レジャイナ」と補給艦「アストリクス」、そしてCP-140哨戒機が、この「オペレーションNEON」のもとで派遣された最初の艦艇および航空機なのです。2019年6月現在までに明らかにされているところでは、今後、2019年9月から10月にかけてはフリゲート「オタワ」が、そして10月から11月にかけてはCP-140哨戒機が、それぞれ派遣されることになっています。また、「オタワ」は10月に相模湾で実施される、海上自衛隊の国際観艦式にも参加することが予定されています。

瀬取り監視がもたらすカナダにとっての3つの意義とは

 では、こうした瀬取り監視活動への参加は、カナダにとってどのような意義があるのでしょうか。これについて、在日カナダ大使館に武官として駐在するカナダ海軍のウグ・カヌエル大佐は次のように説明します。

「カナダにとっての瀬取り監視の意義は、おもに3つあります。第1に、瀬取り監視は国連が定めた重要な任務であると同時に、カナダ政府が掲げる『北東アジアにおける平和と安全の提供』という方針にも合致すること。第2に、他国軍との連携や共同訓練の機会となること。そして第3に、瀬取り監視が自衛隊との共同作戦であり、カナダと日本との連携が強化できることです」

 この3つの意義の中でも、とくに日本にとって注目されるのはやはり3つ目の「日本とカナダとの連携強化」という部分ですが、これはすでに具体的な実績が積み重ねられているようです。

「瀬取り監視のための艦艇や航空機の派遣は、日本とカナダとの2国間訓練を実施する機会ともなります。実際に今回、派遣されている『レジャイナ』と『アストリクス』は南シナ海で海上自衛隊の護衛艦『いずも』と、日加共同訓練『KAEDEX19-1』を実施しましたし、嘉手納に派遣されているCP-140は海上自衛隊那覇基地のP-3C哨戒機と共同訓練を実施しました」(在日カナダ大使館 ウグ・カヌエル大佐)

 さらに、日本とカナダの安全保障面における連携強化について、2019年6月3日には、日本の岩屋毅防衛大臣とカナダのハージット・シン・サージャン国防大臣が東京で会合を開き、「日本国防衛省とカナダ国防省との防衛協力に関する共同声明」と題された声明を発表しました。この共同発表では、日本とカナダがお互いに連携を強化し、自由で開かれたインド太平洋の実現を共に推し進めていくことで一致しました。ちなみに、日本とカナダによるこのような共同発表が出されたのは、今回が初めてのことです。


「レジャイナ」艦尾のヘリ甲板にて、左から艦長のジェイコブ・F・フレンチ中佐、駐日カナダ大使館武官のウグ・カヌエル大佐(2019年6月26日、稲葉義泰撮影)。

 このように、カナダは瀬取り監視をひとつの大きな目的として、今後ますますインド太平洋地域におけるプレゼンス(存在感)の強化を推し進めていくことになるでしょう。そして、これは日本にとっても無関係な話ではなく、むしろ日本とカナダが共に協力して活動する機会が増えていくことを意味しているのです。