福岡ソフトバンクホークスの最年長野手である、捕手の高谷裕亮(37歳)の経歴は少し変わっている。高校卒業後に富士重工業に入社して社会人野球からプロを目指したが、ケガに悩まされて2年間で退社。1年の浪人を経て、22歳の時に一般入試で白鴎大学に入学すると、2年春から野球部のキャプテンを務めるなど頭角を現し、2006年のドラフト3位でホークスに入団した。

 プロ12年目のシーズンとなった昨季の日本シリーズでは、勝利した4戦すべてで甲斐拓也に代わって途中出場し、日本一の瞬間をグラウンドで迎えた。リーグ戦には73試合に出場し、盗塁阻止率は甲斐に次ぐリーグ2位(.385)と、強力な投手陣を支えた功労者である。そんな高谷に、捕手として大切にしていること、今シーズンの意気込みなどを聞いた。


昨年の日本シリーズで日本一を決め、投手の森唯斗(左)と抱き合う高谷

──社会人野球、大学を経てプロ入りした経緯について教えてください。

「高校を卒業して社会人野球の門を叩いたのですが、すぐにケガをしてしまい2年で退社しました。当時は『これで野球の道とはおさらばかな』と思っていましたね。しかし月日が経つにつれて、子どもの頃から野球を通じてお世話になった方々のためにも、もう一度チャレンジしたいという気持ちが強くなり、大学進学を決意しました」

──大学入学時は22歳。戸惑いはありませんでしたか?

「それが、野球部の部員たちは僕を先輩として迎えてくれたんですよ。気を遣ってもらえてうれしかったです」

──大学での4年間で得たものは?

「”助け合いの精神”じゃないかと思います。当時の白鴎大学野球部は、室内練習場がないなど練習環境が整っているとは言いがたかった。それでも、足りないところは部員同士で補おうと毎日のようにアイディアを出し合い、トレーニング方法などを考えて練習に励みました。そういった考える力、他の選手と話し合ってそれを実現させていく力は、今でも役に立っていると思います」

──プロ野球を本格的に意識したのはいつですか?

「当時、白鴎大学で活躍していた飯原誉士(ヤクルト→現BC栃木)がプロから注目されていて、練習場にもスカウトの方たちがよく来ていましたから、『頑張れば自分もプロに行けるかも』と思うようになりました。僕は古田敦也(元ヤクルト)さんに憧れていたので、少しでも近づきたいと思いながら野球をしていました」

──背番号12についてのこだわりは

「入団契約の際、球団から3つほど候補の番号の提示していただいたんですが、単純にその中で一番若い番号を選びました。知人から、『高校野球の控え捕手みたいな番号だね』」と言われたこともあります(笑)。でも、僕にとってはとても愛着のある番号になっています」

──ホークスに入団後、プロのすごさを実感した出来事はありますか?

「入団してすぐ、同級生でもある馬原孝浩(ホークス→オリックス)のフォークボールを受けた時の衝撃は今でも忘れられません。最初は捕れませんでしたからね(苦笑)。自分と同じ年で、こんなボールが投げられるのかと感心しきりでした。他の投手も、三振を取るための決め球のレベルが高く驚きましたね」

──捕手として大切にしていることは?

「練習や試合の時だけでなく、日常生活から”気づくこと”を意識しています。例えば、『髪型が変わった』、『普段はコーヒーしか飲まないのに、今日はコーラを飲んでいる』とかですね。アンテナを張り巡らすことを習慣づけることで、試合でも『(相手打者が)いつもよりバットを短く持っている』など、さまざまな情報を収集できることにつながっています」

──試合の終盤に起用されることが多いことについて、どう思っていますか?

「かなり痺れます! 負けたら僕の責任だと思ってマスクを被っていますよ。だから、勝ったときはより一層うれしさがこみ上げてきます」

──同じポジションの甲斐選手とは違ったアピールポイントなどは?

「それは気にしたことはありません。仮に、『バッティングは僕のほうが上だ!』と思っていたとしても、起用を決めるのは首脳陣ですから。アピール云々ではなく、自分のベストを尽くすのみです」

──高谷選手にとって、とくに印象深かった試合などはありますか?

「昨年5月13日にホームで行なわれた試合で、日本ハム・西川遥輝選手の盗塁を防いだ場面ですね。それまで彼は15回盗塁を試みてアウトになっておらず、その試合でも初回2死一塁の場面で走ってくる予感がありましたが、『走られるよりもリードが単調にならないように』と注意していました。

 そして打者の中田翔選手に対する3球目、先発の(武田)翔太に3球目カーブを要求したところ、西川選手はカーブを読んでいたのかのようにスタートを切ってきた。翔太のボールはワンバウンドになり、僕の送球もベース手前でバウンドしてしまったんですが、セカンドの(川島)慶三がうまく捕ってくれてアウトになりました。翔太の絶妙なクイックと、慶三の無駄のないタッチに助けられた”三位一体”のプレーでしたね」

──現在の投手陣をどう見ていますか?

「頼もしいメンバーがたくさんいますね。パワーがある投手や技巧派の投手などが左右両方でいて、先発、中継ぎともに穴がない布陣になっていると思います」

──過去にはこれまでも頼もしい投手たちのボールを受けてきましたが。

「現在もチームにいる和田(毅)さん、斉藤(和巳)さん、杉内(俊哉)さんたちがいた時代は、”投手たるもの先発完投”という意識が強く、『俺の力でリリーフ陣を休ませるんだ!』と、メラメラした空気が漂っていたように思います。投手の”分業制”が進んだ今でも、先発の投手陣にはその意志が受け継がれていますね」

──最後に、チームの目標と自身の目標を聞かせください。

「チームとしての目標はリーグ優勝です。昨年は2位になってしまったのでみんなが悔しがっている。今季はリーグ優勝から3年連続の日本一を手にするために、チーム内の競争が激しくなっていることを感じます。個人としては、プロ野球選手である以上は全試合出場を目指します。そのためにも、いかに自分がチームに貢献できるかを常に考えて新シーズンに臨みたいです」