広大な敷地内の一角にある弓道場で、日々研鑽を積む清真学園弓道部【写真:荒川祐史】

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全国制覇の経験もある清真学園はSSH指定の文武両道校

 東京ドーム3個分という広大な敷地内の一角にある弓道場からは大きな張りのある声が響く。ここで日々研鑽を積んでいるのが、茨城県屈指の進学校・清真学園の弓道部だ。このほど女子が6年ぶり3度目のインターハイ(7月26日開幕・東海)出場を決めた。男子は2年前に全国高校総体(インターハイ)と全国選抜大会で2冠を達成。全国でも屈指の弓道強豪校は、同時に文科省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されている文武両道校としても知られる。

 平日は放課後の約1時間程度の練習時間の中で、どんな工夫をもってチームを作り上げているのか。自身は弓道経験ゼロから指導して20年以上。全国有数の強豪に育て上げた佐久間和彰監督が指導論と信念を語った。

 同校は平日は月、金が6時間、火、水、木が7時間授業。学校の規定により、午後6時45分までには完全下校となるため、練習時間は月、金で約2時間。7時間授業の火、水、木は午後5時〜6時までの約1時間だけとなる。その中で、中学生を含めて男女で計50人以上の部員が練習を積んでいる。

「練習にセオリーはないです。弓道のオーソドックスな練習は同じことの繰り返し。練習の開始時間もバラバラですし、揃えようという気はさらさらなくて、ずれているならそのまま利用しようと思っています。月曜から金曜に関しては、生徒に任せるしかないところもあります。短い時間の中でどう工夫して練習をするのか。考えさせることが1番です。というよりも必然的に考えざるを得ない。私がやっていることは、その環境をどう作るかだけです」

 高校の弓道は試合中の選手間のコミュニケーション、監督、指導者からのアドバイスなどがすべて禁止されている。試合に臨めば、自分との戦い。言い換えれば究極の孤独との戦いでもある。

 だからこそ、日々の練習から、試合に備えたメンタリティーを作り上げる必要がある。自らの考える力であり、一方では徹底した反復練習により培われた基本だ。同校では平日の短い練習で、個々が考える力を養い、比較的時間のある土日には、外部からのコーチを招いて基本練習を徹底する。

「うちは55人が同時に練習する。グループが4つに分かれてローテーションでやっています。生徒たちが練習メニューを考えながら動かしていくんです。大会が近づいてくると、試合に向けた練習になってきますよね。レギュラーの選手は時間を確保するために、ほかの選手には我慢してもらわないといけない。そこも考えているから、生徒からは『そろそろこういう練習を入れて良いですか』と言われますよ」

 同校では監督の指導だけでなく、下級生の指導を上級生が行うケースもある。他者に教えることで、自らに対する気づきにもつながるのだという。

「練習は厳しくしますよ。試合では誰も助けてくれない。孤独なんです。一度の狂いで矢が的から外れる。こちらもあらゆるリスクを想像して、リスクマネジメントを考えてやっています。狂った時に基本に戻らないといけない。何が狂ったのか、気が付くためのスキルをもってなければいけない。それを試合の最中にアドバイスすることができないのですから」

「引率だけしていればいい」と言われて始まった監督生活

 実は佐久間監督自身に弓道経験は全くない。日体大の水泳部出身で、卒業後は別の公立校で常勤講師、非常勤講師などを務めていたが、27歳の時に清真学園の体育科の教員として採用されたことが転機だった。

「仕事がなかったので、転々としていました。学校の常勤講師や非常勤講師は、夏場などは仕事がありません。監視員などは期間が短く、どうしてもお金がもらえない時期がある。その間はアルバイトとして、ゴルフ場のキャディーや、ギター教室の講師をしたこともありました。教員をあきらめて平成3年に生活協同組合に就職したのですが、その時に、清真学園から採用試験を受けてみませんか? という話がありダメもとで受けさせていただきました。その時に部活動顧問の経験を聞かれ、ここぞとばかりに経験のある部活を全てアピールし、名ばかりだった弓道部顧問の経験もお話しさせていただきました」

 結果的にはその“アピール”が実り、同校に採用され、弓道部を任されることとなった。すでに弓道ではある程度知られた学校で、文字通りゼロからのスタートで苦労もあったという。「25年は早かったですね」と当時を振り返った。

「最初に『先生は引率だけしていればいい』と言われた。正直びっくりしました。前に顧問を務めていた県立校とは流派が違ったのがあるし、来たばかりの僕の指導を受け入れたくないというのがあったと思います。『あなたに教えてもらおうとは思っていない』という事を遠回しに言ったんでしょう。むっとしたのは事実ですね」

 衝撃的ともいえる弓道部顧問としてのスタートだったが、愚痴を言っていても仕方がない。佐久間監督自身は部員たちに、まず認めてもらうことから始めたという。

「自分が知識をため込まなければいけない。情報が欲しい。だから(高体連の)役員を始めました。色々な人に話を聞ける。経験ができる。当時、学校の敷地の隣には、系列の短大があって、そこにいた先生、今は筑波大の弓道部の監督を務めている方に教わりました。教わりながら、徹底して調べていたのが記録でした」

 着目したのは記録、データだったという。それには日体大時代の水泳での経験が生きている。

「水泳的な練習法から出てくるのですが、ベストタイムが例えば1分の選手が、50秒台を出すためにどうするかを考える。50メートルを20本泳ぐのか、100メートルを10本泳ぐのか……。色々とトレーニングの仕方を変えていきますよね。これを弓道に応用するとどうなるのかと。弓道は水泳のタイムほど細かい目安は分けられないのですが、練習の数としては組み立てられる。例えば1人12射引く試合があるとすれば、練習でも『4射を3回』のペースで区切ってやるなど、試合からさかのぼって決めるようにしました。ある程度やっていくと、子どもたちも覚えて自然にやっていきます。ほかの方法も試しながら、どんどん練習のバリエーションも増えていく。そうすると彼らの力量に任せられるようになる。人数や、それぞれの力量に合わせて自分たちで何が必要かを考えて下さいね、となります」

大切なのは生徒とのコミュニケーション

 最初は生徒たちから信用されていなかったと振り返るが、徐々にその努力が認められていったのだという。当時から心がけていることが生徒たちとの対話だ。対話のための生徒の“情報収集”も大事だという。

「意識しているつもりはないですが、(生徒の情報は)勝手に入ってきます(笑)。ほかの先生方と話して、横をつないでいくと生徒たちの色々な情報が出てきます。普段こんなことを言っているとか。それをネタとして持っていて、それをここぞとばかりに出しています。特に女子は気まぐれな時もありますが、それは当たり前。なんでも話せる子、そうでない子もいる。声をかける時に気を使うこともありますね。安心した顔を見せてくれたときはホッとします」

 コミュニケーション中の微妙な表情の変化にも気を配っているのだという。傾向として女子に関しては、もともとコツコツと努力を積むが、最後にちょっとしたミスから自信を失うこともあるのだという。その時にいかに、無言で背中を押してやれるか。練習であれだけやってきたのだから、大丈夫だと自信をつけさせることがカギで、そのためにもコミュニケーションが欠かせないと強調する。

 そんな指揮官の指導もあり、6年ぶりに全国への切符をつかんだ女子。2年生で主将を務める紙田梨華子は初のインターハイへ向けて強い意気込みを口にした。

「ずっと目標にしてきた舞台なので、みんなで一つの日本一という目標に向かって、絶対に日本一になるという強い気持ちがあります。なかなか自分がやりたいことができなかったり、辛いことはあるんですが、それを直そうと続けていくことが大事だなと思います。うまく行かなかった時は、今までやってきたことを思い出して、佐久間先生に言われたことをしっかりやりきろうという気持ちで切り替える。試合中は今までやってきたことを信じて、それをやり切ることだけ考えて臨みたいと思います」

 また、たった一人の3年生で、弓道を始めたのは高校からという川崎百華は全国に出たいという一心で、テニス部から弓道部に転向。試行錯誤を重ねて、今やチームをけん引する大黒柱だ。

「弓道は奥が深いと思います。難しいところ、なかなかうまくなれないところ、頂点が見えないところです。3年生としての重圧もありますが、やらなくてはいけないことだけを頭の中で考えるようにはしています。終わった後は前には戻れないので、すぐに切り替えるように努力をしています」

 川崎は競技歴の短さを埋めるために、とにかく部員の中で1番練習したという。ほかの部員に負けない部分は「練習を休まないこと」だと断言する。

「休んだことはないと思います。最初は周りに追いつくのに必死でした。1番遅くまで残って弓を引いていたと思います。努力は裏切らないということは後輩たちにも伝えたいです」

 全国制覇の期待もかかる清真学園の弓道部。試行錯誤の成果を見せる大舞台はまもなくやってくる。

◇インターハイの弓道は8月2日に開幕し、4日間にわたって熱戦が繰り広げられる。今大会は全国高体連公式インターハイ応援サイト「インハイTV」を展開。インターハイ全30競技の熱戦を無料で配信中。また、映像は試合終了後でもさかのぼって視聴でき、熱戦を振り返ることができる。(THE ANSWER編集部)