約150年の歴史を誇る科学技術誌、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)。これまで主に男性読者に支えられてきたが、この1年半で女性読者を一気に増やした。同誌によれば、現在、オンライン購読者の半数が女性であり、これは1年半前の2倍に当たるという。

同誌の編集長ジョー・ブラウン氏は、2016年8月の入社時(同誌には以前にも勤めたことがあり、ワイアード(Wired)とギズモード(Gizmodo)での勤務経験もある)、ボニアー(Bonnier)社が有するこの老舗雑誌を名前のとおり、より包括的なものに刷新するという使命を負っていた。ただ当初は、懐疑的な反応を返されることも少なくなかったという。

「科学技術誌のオタク読者層以外にも広くアピールすること、それをまずは重要視した」と、ブラウン氏は振り返る。「科学にフォーカスした女性向け雑誌は数々あるが、どれも主題にふさわしい権威に欠けていた。私たちは『ポピュラー・サイエンス』を名前にふさわしい、万人に愛される雑誌にしたい。Webでも紙でも、誰もが気軽に読めるものにしたいんだ」。

女性スタッフを大量投入



そのためにブラウン氏が実施したのは、単に女性の興味をそそりそうな記事を増やしただけではない。ほぼ男性ばかりだったスタッフ陣に、女性を数多く加えることにした。「私はニューヨークシティ生まれの白人男性で、メディアの人間だ。そんな私に、女性に向けた科学関連の記事が書けるはずもない。文字どおりの門外漢だからね」。そこで新たに雇用したのが、オンラインディレクターのエイミー・シェレンバウム氏であり、サイエンスエディターのレイチェル・フェルトマン氏であり、アシスタントエディターのメアリー・ベス・グリッグズ氏だった。いまや、25人いる編集部員の約半数が女性だ。

結果、リプロダクティブヘルス(reproductive health:性と生殖に関する健康)やコスメティクスなど、女性の関心を惹く健康関連の記事が増えたのはもちろん、スタッフに多くの女性が加わったことで、全体により幅広い視点で書かれた記事が自然と増えた。ケンドラ・ピエール・ルイ氏(現在はニューヨーク・タイムズ紙勤務)が寄せた、メイク用品が有色人種の女性に与えうる毒性影響に関する記事 や、妊娠中の女性が避けるべき不健康な生活習慣を取り上げたサラ・チョドッシュ氏による 記事は、その好例だ。

「どんなテーマにするかは、毎日のミーティングで決める」と、シェレンバウム氏。「最低限必要な人数の女性が揃っているから、身体一般のことを話題にしても、女性の視点を十分に取り入れることができる」。同誌はまた、記事に添える写真の包括性にも気を配り、たとえば「iPhoneを握る白人男性の手」ばかりにならないように注意していると、シュレンバウム氏は言い添える。「いかにも女性向けの記事を書いているわけじゃない。記事のテーマ自体は、過去146年間のそれと何も変わっていない。ただし重要なのは、それを女性が書いている、という点。だから、投げかける疑問が違うし、写真やデザインも違う、見出しも違う」。

広告主の変化はまだ



また、読者層拡大を後押しした別の要因として、他誌と同じく、ネットに載せる記事の数を25本から10本程度に減らしたことも挙げられる。数を減らしたことで、1本1本の内容に深みが増し、結果的に、より多くの視点を備える誌面になった。インターネット視聴率調査/デジタル市場分析業者コムスコア(comScore)によれば、昨年5月、同誌のオンライン読者は40%増の580万人で、同月の女性読者の割合も41%から52%に増加した。

一方、コムスコアによる同年5月の調査では、ほかのオンライン科学技術系誌は、大半が依然として男性偏重の傾向を示す。同年5月の読者に占める男性の割合は、ギズモードが58.6%、ポピュラー・メカニクス(Popular Mechanics)が68%、テッククランチ(TechCrunch)が56%、ザ・ヴァージ(The Verge)が61.4%、ワイアードが47.6%だった。

女性読者の獲得は比較的最近のことであるため、同誌の担当者によれば、まだ新たな広告主の獲得には至っていない。だが、親会社ボニアー・メディアのエグゼクティブバイスプレジデント、グレゴリー・ガトー氏は、読者層拡大の結果として、プログラマティック広告に伸びが見られると語る。「自社ブランドが成長し、新たな読者層を獲得する様子を目にすることはもちろん、出版社にとって大きな励みとなる。しかも、それが記事の包括性と質を高めた結果であれば、なおさらうれしい」。

確かに、150年近くもの歴史があるため、一部読者が抱く男性向け誌というイメージを変えるには、しばらくの時間を要するかもしれないが、女性読者の有意な増加は、データによる裏付けがあれば、テック系マーケターを惹きつける材料に十分になり得ると、米大手広告会社クラマー・クラッセル(Cramer‑Krasselt)のシニアバイスプレジデントにしてメディア&アナリティクス部門エグゼクティブ・ディレクターのクリス・ウェクスラー氏は指摘する。

「現在の文化におけるテクノロジーの位置づけがよく現れている」と、ウェクスラー氏はポピュラー・サイエンス誌の進化について語る。「テクノロジーはもはや、薄汚いガレージで機械をいじり回している男だけのものじゃない。その魅力はいまや、ジェンダーの壁を越えて浸透している。メディアがオーディエンスベースのバイイングへとますます傾倒するなか、人々が何に関心を持っているのかには、我々も多いに関心がある。テクノロジーは広大なスペースだ。多くの読者を取り込めるというのに、端から半分に限定してしまうのはバカげている」。

さらなる多様性を求めて



このように、ライバル誌よりも女性層を重視し、オンライン読者層の割合で劇的な変化を見せている『ポピュラー・サイエンス』だが、するべきことはまだまだあると、ブラウン氏は認める。印刷版の雑誌作りに女性ライターを数多く起用したことは進歩ではある。だがその一方で、印刷版の読者層を変えるには、大半が1年単位の定期購読者であるため、かなりの時間を要するだろう。実際、大手マーケティングリサーチ企業GfK MRIの今春の雑誌読者データによれば、印刷版『ポピュラー・サイエンス』ではいまだ、読者の82%を男性が占めている。同誌のFacebookフォロワーも依然として大半が男性であり、ソーシャルネットワークでの販促法についても、同誌はまだこれといった変化を見せていない。

さらに、スタッフについても改善の余地がある。男女比はほぼ同じになったが、いまだ白人が大半を占めているからだ。ブラウン氏は、ワークブレイクダウンならぬスタッフブレイクダウンのことは知らないが、「人種に関しては、正直、もっとできることがあるはずだ」と認める。「多様性を持たせるための努力に終わりはないと思う。スタッフ一人ひとりがつねに多様性を念頭に置いて記事を書き、編集し、写真やイラストを選ぶようになること、私はそこを目指している」。

Lucia Moses(原文 / 訳:SI Japan)