裁判で勝訴したのに大損する"具体的事例"
※本稿は「プレジデント」(2018年1月29日号)の特集「24時間の使い方」の掲載記事を再編集したものです。
■弁護士費用は着手金と報酬金で最低20万円
トラブルが発生し、裁判で白黒をつけることに。勝って自分の主張が認められれば、少なくとも自分が損することはない――。そう考えている人が多いが、裁判制度は万能ではない。訴えの内容や相手方の状況によっては、勝ったのに「損する」ケースもある。
日本の民事裁判は、原則的に、トラブルを事後にお金で解決する法制度に立脚している。感情的な部分はひとまず置いておき、金銭的な損得という視点で考えてみよう。
損をするのは、ズバリ、裁判のコストが、勝訴時に手にできるお金を上回る場合だ。裁判に要する弁護士費用は事務所や事案によって異なるが、ざっくりいって着手金と報酬金のトータルで、20万〜30万円は最低でもかかるのではないか。つまり損害額がそれ以下のトラブルなら、勝訴して賠償してもらえても持ち出しになってしまう。
典型例は、少額の消費者被害だろう。近年、ネット通販でお金を払ったのに商品が届かないというトラブルが目立っている。しかし、被害額が数千〜数万円レベルなら、弁護士に依頼して勝訴しても元が取れないどころか損をする。
少額の消費者被害でも、被害者を集めて集団訴訟を起こせば裁判費用をまかなえる可能性はあるが、これが難しい場合もある。クレジットカードで支払っているなら、カード会社に相談して対応してもらうことも現実的な選択肢となりうるだろう。
■勝訴しても1円も回収できず費用だけかかった
額が大きいトラブルなら持ち出しのリスクは低いから大丈夫、と考えるのも早計だ。たとえ多額の支払いが判決で認められても、相手に資力がなければ絵に描いた餅になりかねない。
とくに注意したいのは、経営状態が悪い会社を相手に起こす売掛金などの債権回収訴訟だ。こちらの主張が認められて、支払いを命じる判決が出ても、その会社にお金がなければ回収は困難である。破産などの倒産手続きに移行した場合、配当などがもらえる可能性はあるが、多くの場合は債権額全額には届かない。
被告が個人の場合も、相手に資力がないとつらい。毎月定収入があるサラリーマンや公務員なら、比較的回収はしやすいが、実態がつかみづらい自営業者や、自分の稼ぎを持たない専業主婦が相手だと、勝訴しても1円も回収できず、費用だけがかかったということもありうる。
また裁判には、長い時間を要するものもある。たとえば、離婚や相続などの調停や訴訟では、各自の言い分がまとまらず、解決に年単位の時間を要することも少なくない。もし弁護士との契約が作業時間によって支払うタイムチャージ制であれば、長引くほど費用はかさんでいくし、タイムチャージでなくても、日当などが無視できない額になることもある。最終的に自分の主張が通っても、疲弊してしまうかもしれない。
裁判という選択肢を考えるとき、本人の納得感を得られるかどうかが非常に重要だ。だから、金銭的に見合わないとか、時間がかかるからといって、「争うだけムダ」ということではない。しかし、裁判の結果に後悔しないように、事前に費用や見通しに関する「リスク」をしっかり把握しておくことは肝要だろう。
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×:勝訴時に手にできるお金が、弁護士費用より高いと持ち出しに
○:少額の被害があきらめられないなら、被害者を集めて集団訴訟を起こす
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弁護士
テレビ局で番組制作に携わった後、法科大学院を経て2008年弁護士登録。東京丸の内法律事務所にて訴訟事件を含む企業法務・一般民事、倒産、知的財産権(著作権など)等を扱う。
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(弁護士 上村 剛 構成=村上 敬 写真=PIXTA)
