脳医学で解き明かす「なぜ人は浮気に走るのか?」
われわれ人類の起源は、きわめて乱交的だった。人類は近親相姦を避けるため、目新しい相手に惹かれるよう進化した──最新の研究が「浮気の正体」を解き明かす!
『性の進化論』(作品社)をカシルダ・ジェタと執筆したところ、世界21カ国で翻訳され、大好評を博した。内容を一言で要約すると、「女性も男性と同じように強い性的関心があり、一夫一妻制は自然の摂理に反する」ということだ。
では、なぜそもそも人は恋に落ちるのか。そこにはドーパミン、オキシトシンなどのさまざまな脳内麻薬や、プロジェスティンといったホルモンがかかわっている。だが、こういう化学反応だけで恋が芽生えるというものでもない。「ベートーヴェン」「母親」「スシ」も立派な愛の対象だが、そこには肉体関係は存在しない。では、性的関係を燃え上がらせるものは何なのか。端的に言って、「障壁」である。相手に魅力を感じるからこそそこに情熱が生まれるが、情熱をさらにかきたてるのが障壁だということだ。たとえば片方が(あるいは両方)既婚者である、遠距離恋愛で毎日会えない、生まれ育った文化背景が違う、家族から反対されている――といった要素があるからこそ、2人はこの障壁を乗り越えようとする。
そして男女間にある障壁を乗り越えるときに脳内麻薬やホルモンがさらに活発に分泌されるのではないか。情熱には、障壁が必要なのだ。「ロミオとジュリエット」の時代から何も変わらない方程式だ。
では、この仕組みを利用すれば相手に関心を持って、好きになってもらえるのか。恋愛関係を始めるには、まず相手を惹きつける必要があるわけだが、そんな魅力の源泉となるのが「自信」である。その次に上質な靴である。つまり、私から男性諸氏に送る言葉があるとすれば、まず自らに自信が持てるような生き方・ライフスタイルを選び、いい靴を履くことだ。
女性というのは相手の男性に敬意を払われ、価値を認められているという点を重視する。女性も男性に負けず劣らず非常に強い性欲があるわけだが、相手の男性から敬意を払われていない、価値を認められていない、安全が保障されていないという状態では性的関係に進むことはない。よって、相手の女性を誘い出すうえでの第一歩はまず自分が信頼できる相手であることを見せ、女性の感情に配慮できる男性だと示すことだ。たとえば、「もし君がよければ、夕食をとりながらもう少し話を続けたいんだけど」と誘ってみる。もし相手がノーと言ったら、深追いしてはならない。あなたが女性の意思に配慮できる相手だと示すのだ。
周囲への配慮ができる人は、女性への配慮もできる。狩猟部族においては、最も裕福な男とは一番多くを周囲に分け与える者であり、物質的には一番貧しい場合がほとんどである。しかし 、物質的に一番貧しい男こそ、一番友人が多く、最も尊敬されており、セックスの相手にも恵まれているのである。
ただし、もしあなたに高い知性が備わっているにもかかわらず、相手の女性が金銭にしか興味がない場合は、選ぶ相手が間違っているのだ。間違った相手に対して悪あがきするくらいなら、自分のよさを認めてくれる「次」に行ったほうがよい。私自身もこの真理にたどり着くまで若いころ散々時間を無駄にして遠回りしたが、それが成熟というものだ。
そうやって彼女を誘い出し、障壁も乗り越え、めでたくカップルになれたとしよう。それでも、何年かすれば必ず倦怠期がやってくる。例外はない。そして浮気する場合が多い。こういう統計では往々にして嘘をつく人が多いので一概に信用できるとは限らないが、米国の既婚男性のうち約60〜70%、そして既婚女性の30〜40%が結婚相手以外との性交渉の経験があるという。
ただし、要注意なのは「不倫」の定義が文化により大きく異なることだ。これについては、パメラ・ドラッカーマンが映画『Lost in Translation』をもじって『Lust in Translation』(Lustは“肉欲”の意)というタイトルで書いた本に詳しく書かれている。米国の場合は、いかなる事情であれ結婚相手以外と関係を持った場合は「不倫」と見なされるが、皆さんご存じの通り日本で風俗に行くのは「不倫」ではなく問題にはならない。同じく、ロシアの場合は「夏休み中のできごと」は不倫とカウントされない。社会が一夫一妻制を堅持していても、実態は大きく違うのだ。浮気はするのが普通であり、この制度はあくまで経済的な意味で私有財産を自分の子供に相続させるために女性の性的関係を束縛するシステムにすぎない。
1つ確かなのは、人類はおしなべて何か新しいものに興味を示すものということだ。目新しい食べ物、音楽、芸術、旅行先、なんでもそうだ。とすれば、新しいセックスの相手に興味を示さないと考えるほうがおかしい。「一筋」と言い張る男でも実は3回目の結婚だったり、ポルノを見ていたりする。もちろん、毎回違う女性のものだ。これでは単婚(モノガミー)とはいえない。
端的にいって、婚外関係を持つ男女は相手に惹かれているのではない。取り巻く状況に惹かれているのである。
ときには愛を成就させるたびに離婚したり、地理的な距離を埋めるために移住して転職することもある。せっかく有意義だった結婚生活が終わりを告げ、新しい配偶者との生活が始まる。しかし、そうなると以前存在した障壁がなくなるので、2〜3年もするとかつての情熱は消えうせ、再び退屈な日常が戻ってくるのが世の定めだ。そして、結局は同じ問題を繰り返すことになるのだ。これを理解しておけば、中年になって道を踏み外すことが少なくなるのは間違いない。
男性が40〜50代を迎えると少し落ち込み気味となり、生きる意欲が減退することがままある。男性ホルモンのテストステロンが減少するからだ。テストステロンの減少自体は20代前半から始まっているが、この減少が顕著になる40代を迎えると幸福感が薄れ、食べ物の味が薄れ、睡眠に支障が出ることもある。そんなときに、40代男性のテストステロンレベルをほんの少しだけ上げる数少ない方法の1つが新しいパートナーとの熱いセックスなのだ。こうなると、次はどうなるか?
妻との生活が長くなり、一応幸せだが倦怠感と退屈感にさいなまれている。安定はしていても、そこに興奮や刺激はない。そこである女性と出会いセックスをすると突如としてテストステロンの影響もあり人生が明るくなった気がして、食べ物の味も復活し、周りが色鮮やかに見えてくる。この状態をバカな男は「恋に落ちた」と勘違いする。
だが、現実的にいえば新しいセックスパートナーのおかげで多少テストステロンの数値が上昇しただけなのだ。こうして勘違いした男は糟糠の妻を捨て、というより妻から捨てられ、子供とも疎遠になり、不倫相手と再婚したりするわけだが、2年か3年もしたら結局同じ状態になり、かつて新鮮だった相手はもはや新鮮ではなくなる。
私たちがこの本を著した主目的はそこにある。人間の性の実態について現実的で正確な見取り図を提示し、中年男性が単なるテストステロンの上昇を恋と勘違いして、つまらない女にひっかかって取り返しのつかない過ちを犯さないようにしてほしいということなのだ。
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心理学者、調査心理学博士。世界中を巡って得た各地の性文化に対する見識を活かして心理学研究を進める。現在、バルセロナに在住。バルセロナ医学大学講師を務める。医学関連書が多数あり、海外の雑誌・新聞・テレビなどでも活躍している。
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(心理学者クリストファー・ライアン インタビュー・構成=タカ大丸 写真=時事通信フォト)
