ズレた若者を、あえて採用する 〜アクセンチュアとの取り組み(前編)

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世界最大規模のコンサルティングファーム・アクセンチュアは、若新氏が企画してきた「就活アウトロー採用」や「ナルシスト採用」などの活動をサポートしている。しかもそこから、実際に5人の若者を採用した。同社で本業のかたわら企業市民活動を展開してきたマネージング・ディレクターの市川博久氏と、「ニート株式会社」や「鯖江市役所JK課」などの企画を通して創造的な組織やコミュニケーションのあり方を模索してきた若新氏は、頻繁に顔を合わせ、互いに触発し合う間柄である。異質な両者はどのように出会い、何を目指しているのか。

■「支援する」というやり方は正しいのか?

【若新】市川さんと最初に出会ったのは、僕がニート株式会社を始める少し前、2012年頃でしたね。

【市川】そうですね。僕は2010年から、アクセンチュアの企業市民活動の一環として日本の若者の就労支援に取り組んでいますが、若新さんとはその活動を通じて知り合いました。ちょうど自分たちの支援のあり方に疑問を感じていた時期だったんです。引きこもりやニートの若者を支援するにしても、彼ら、彼女らがみんな経済的に困窮した弱者かというと、そうではない人もいる。「支援する」というやり方が正しいのだろうかと。

若新さんといろいろ話をするなかで感じたのは、「支援と被支援」の構図では、本当に若者のためになる活動にはならないのではないかということです。支援と被支援の上下関係ではなく、若者が主体性を損なわずに、対等な目線で刺激しあうようなやり方でなければ意味がない。若新さんはそれをニート株式会社などで模索していました。ぜひ一緒に何かやりたいと思いました。

【若新】初めて会った時、市川さんが僕の活動に共感してくれたことは想定外で、すごくうれしかったんです。実は、アクセンチュアの偉い人を紹介してもらえるということになった時、あんまり期待してなかったんです(笑)。やろうとしていることをそのまんま説明しても、なかなか理解してもらえないことが多いので……。

たとえば、就活がバカらしいという若者をターゲットにした「就活アウトロー採用(http://outlaw.so/)」だと、ほんのごく一部の若者にだけ確実に届くメッセージであればいいと思ってるんです。結果的に、偏屈で高学歴な若者が毎回100人程度集まっていて、すごいねって言われるんですが、マス向けの就活サービスだとしたら人数が少なすぎて、成立しません。マニア向けのサービスだから、成立している(笑)。アクセンチュアのようなまともな大組織に属する人には、興味を持ってもらえないだろうというあきらめがありましたね。

【市川】若新さんが最初のうちテンションが低かったのは、そういう理由だったんですね。派手な髪型のお兄さんが黙って座っているので、どういうことなのか、気にはなっていたんです(笑)。でも、途中から話が弾みましたね。若新さんと話していると、僕自身が子どもの頃に抱いていた社会への疑問や、この会社に入社してやりたかったことなど、自分の原点を思い出すきっかけになりました。僕自身の振り返りにもなるんです。出会った頃は、特にミーティングの目的も決めずに会って、1〜2時間話すこともザラにありました。

【若新】この人時給めちゃくちゃ高いはずなのになぁと思いながらも、好き放題にしゃべってました(笑)。その後、前述の就活アウトロー採用や、自意識過剰な若者向けの「ナルシスト採用(http://narcissist.so/)」の活動などをアクセンチュアさんに支援してもらえることになりました。

■ズレた若者を、あえて採用する

【市川】若者が集まっただけでなく、ベンチャー企業の経営者や大企業の採用担当の方々もたくさん参加されて、採用実績もたくさん出ました。僕が担当する企業市民活動の取り組みでは、実は若新さんたちとご一緒させていただいている活動はもっとも成果を上げている活動のひとつです。ただし、若新さんもおっしゃったように、ニッチな層の若者に向けたサービスのためメッセージや表現が過激で、活動をサポートするにあたり社内での説明には気を遣いました。明確な成果が出て、誰も否定しえない状況になった今では、社内でも大きな声で言ってますが(笑)。

【若新】御社には、活動をサポートするだけではなく、就活アウトロー採用とナルシスト採用で合わせて5人もの若者を、実際に採用してもらうことができました。そうなったらいいなとは思ってたんですが(笑)、本当に採用してもらえて、すごく感謝しています。

【市川】本当にいいサービスだと思ったのなら、自分たちの会社でも採用しないと口だけの嘘になるじゃないですか。実際、採用した若者は、海外の一流大学を卒業した人や、居酒屋でずっとホールを担当していた人などバラエティに富んでいて、そして、みんなすごくいい仕事をしています。

ナルシスト採用からきた留学経験のある女性のAさんは、自分の上司にも遠慮なくツッコミを入れるんです。社内の外国人幹部へのプレゼンを前に緊張している上司に向かって、“Are you OK?”と平気で言ってのけますから(笑)。そんな風に上司を突き上げることができる部下は、彼女くらいでしょうね。チームとは何かを改めて考えさせられます。とてもいい味を出してくれていますね。

【若新】就活アウトロー採用やナルシスト採用で集まる若者は、確かに学歴が高めですが、彼らの魅力は他の若者よりも成績が良いか悪いかということではなく、どれだけ横に幅があるかということだと思います。つまり、どれだけ堂々とズレているか。小規模なベンチャー企業に紹介する場合は、そのズレ具合がちょうどいい会社とマッチングできます。

でも、社員の“平均値”がはっきりと存在するような大企業の場合はそうもいきません。にも関わらず、市川さんは、世間一般の大企業基準に合う若者を採用するのではなく、あえて基準からズレた若者を採用することで、職場がどう変化するかを試してみたい、とおっしゃってくださいました。

【市川】採用した人たちは、みんないいキャラしていますね。映像制作などのクリエイティブな仕事を任せると、これまでの社員からは考えられなかったようなものが出来上がってきて、毎回おもしろいです。

【若新】一番嬉しかったのは、あえて組織からズレている人を採用するにあたって、だからこそ大切な“共感をつくる”ということを徹底してくれたことです。採用基準として、一般的に企業が候補者に課すような総合適性検査結果はどうしても会社的に必要ということでしたが、あとは「この人と働きたい」と思えるかどうかだけを考えてくれて、市川さんの部下は応募者と何度も食事にいって、お互いの気持ちを確かめる時間をつくってくれました。

■社内の力学やルールは気にしない

【若新】彼らを採用してみて、職場に何か変化は生まれていますか。

【市川】これまでは、仕事が切羽詰まるとみんなカリカリしがちでしたが、異質な人が入ってくることでその傾向が薄まり、空気が和むようになりました。一番は、何事においてもすぐに答えを求めなくなったことですかね。チームの雰囲気はかなりよくなったと思います。

また、彼らの予測できない言動が、ヒントを与えてくれることもあります。彼らは、これまでの社員なら絶対にやらないこと、たとえば一般的な規律や常識に照らし合わせると“アウト”なアイデアもポンポン出してきます。しかし、そこがすごく重要なんです。僕たちが無意識のうちに自己規制してしまっていたことに、気づかせてくれるわけです。

【若新】御社のような大企業だからできることはたくさんあって、せっかく就職できたなら、それを活用しない手はないと思います。でも、大組織が個人に与える影響というのは思っている以上に大きくて、社内での評価を気にしたり、先輩後輩の関係はこうあるべきだと思い込んだりして、思考や行動のスケールが小さくなってしまうというのは避けづらいことなのだと思います。

その点、上司に向かって“Are you OK?”と言い放つAさんは、組織の概念をなかなか鮮やかに打ち砕いていますね(笑)。社外のお客さんへのプレゼンで緊張するならまだしも、社内の人間へのプレゼンで緊張するなんて滑稽だなと、彼女ならそんなふうに思ったのかもしれません。本来、社内の人は一緒に働く仲間であり、緊張する相手ではないはずですもんね。社内のヒエラルキーなんて意識しない、と言いながらも意識してしまうのがヒエラルキー。Aさんは、それを教えてくれているような気がします。

【市川】そうですね。彼女について付け加えるなら、仕事の内容よりも、誰と仕事するかをとても大切にしているような気がします。また、別の2人は、彼らなりのソーシャルグッドをやりたいという思いから僕らの企業市民活動に共感して、いろいろ工夫してくれています。このように、誰と仕事をするかを大切にする人もいれば、活動の動機づけにこだわる人もいてさまざまなんですが、共通するのは、社内の力学や一般的なルールにとらわれすぎないということなんですね。

【若新】彼らも、さまざまな“大人の事情”を含めて自分の置かれた環境や事情を、実は冷静に認知していると思います。ただ、「それがすべて」だと捉えるか、「そういうもの」として俯瞰的に捉えるかで大きく違ってくるのだと思います。

アクセンチュアという世界最大のコンサルティングファームで働いている自分のことも、それはそれで「そういうもの」として俯瞰して見ている。だから、組織内の力学やルールに縛られず、自由に行動できる。そういう俯瞰的な視点や柔軟性がある人材こそ、「グローバル」なんだと思います。

実は1年以上前に、この連載の中で、ナルシストこそがグローバル人材なのではないか? みたいなことを書いたんですが、残念ながら伝わりにくかったみたいで、PVはあんまり伸びませんでした(笑)(連載第5回 http://president.jp/articles/-/12794?page=2 参照)。

でも、Aさんがその仮説を実証してくれました(笑)。

(後編へつづく)

(市川博久、若新雄純=談、前田はるみ=構成)