頭上から凶器が…東京都「1万3900本に異状」の衝撃!「倒木を招く“落ち葉クレーム”」の皮肉

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幹を食うキノコ…600本即伐採

6月16日午前10時ごろ、世界遺産・下鴨神社(京都市左京区)で、高さ30m、幹回り約3m、推定樹齢約450年の御神木のシイの木が根元から折れて倒れているのを職員が見つけた。東京でも3月、世田谷区砧公園でサクラの木が倒れ、70代の女性が下敷きに。その翌日には同じく砧公園の駐車場脇のヒマラヤスギが倒れ、車2台が損傷した。

相次ぐ倒木トラブルを受けて、東京都では公園や学校など、都有施設にある高さ3m以上の樹木、約80万本を緊急点検。結果、「約1万3900本(全体の2%)に異状」があるということが判明した。

「驚きました。『こんなにあるの?』と。同時にこれは嘘偽りのない数字だろうなとも思いました」

こう言うのは、樹木医として国指定天然記念物の山高神代ザクラなどの調査や樹勢回復を手がけている和田博幸氏。

それにしても、「異状」というのは、どのような状態なのか。

「今回の調査は、東京都が作成した『街路樹診断マニュアル』の令和3年版をもとにしています。それによると、幹の一部が腐朽している、空洞ができている、根元に腐朽菌のベッコウタケやコフキタケがついている、枝の伸びが悪い、枯れ枝が残っているなどが『異状』と判断されます。

幹の内部に腐朽や空洞が予測できたものについては内部を診断機器で調査して、状況がひどいものは伐採します。伐採までする必要がないと判断されれば、1〜3年後にもう一度診断することになります」

すでに約1万3900本のうち、約600本が伐採された。今回の一斉調査がなければ、危ないところだったのだ。

「都有施設の樹木は、ローテーションを組んで調べているはずですが、見落としがあったのも正直なところだと思います」

猛暑と過度な剪定…木を襲う悲劇

砧公園が開園してから60年。そのころ植えられた木々が“寿命”を迎えているのではないかという声もある。

「植物の細胞は、次々に分裂して生まれてくるので、“寿命”という概念がありません。ただ樹齢を経たことによって根が伸び切ってしまうと、枝葉が若いときのように伸びなくなって見た目には衰退しているように見えるかもしれません。

長く生きていれば傷を負ったりする機会も増えてくるので、そこにキノコの胞子が着床する確率も高くなり、それによって腐朽したり、空洞化したりすることもあります」

和田氏によると、キノコは幹の中の組織を栄養にして、どんどん増える。腐朽したり、空洞化したりするのはキノコが原因なのだとか。

木を弱らせるのはキノコだけではない。樹間の狭さも一因だという。

「砧公園で倒れたサクラの樹間もかなり狭かった。そのため根を十分張ることができなかったと推測されますし、樹間が狭いと幹の太さや枝張りに対して葉の数が少なくなって、木が衰退していきます」

たとえばソメイヨシノの樹間は15m必要。ところが実際は、7〜8m、狭いところでは5m間隔で植えられているところがある。和田氏によると、樹間が狭いと隣の木の枝と交差して、下のほうの葉に日光が届きにくくなり、光合成が低下してしまう。植物は葉で光合成を行って、生きていくためのエネルギーを作っているので、葉の数が少ないと木が弱ってくるのだという。

ソメイヨシノは同一の遺伝子をもつクローンだから、寿命は60年だともいわれているが、

「ソメイヨシノの寿命が60年ということはありません。もともと強い木で、植えて20年もすれば樹高10mを超すし、幹の直径も50cm近くになります。実際、青森県の弘前公園をはじめ、全国には樹齢100年以上のソメイヨシノがたくさんあります」

そのほか、地下工事によって根を切断してしまったり、深く剪定することも木を弱らせているとか。

「ベッコウタケやコフキタケは根元につきますが、さまざまなキノコの胞子は空中を浮遊し、木の切り口につきます。深く剪定すると切り口が大きくなり、それだけ胞子がつきやすく腐朽菌が侵入する可能性が高くなります」

切り口に何か塗られているのを見たことがあるが、あれは薬?

「あれは新たな菌の侵入を防ぐための傷口保護剤です。すでに腐朽しているときは、腐朽をそれ以上拡大させないために、木を元気にしなければならない。元気になると、菌が拡大しないように木自身が幹や枝の組織内にバリアを作ります」

元気にするためには、肥料を与えたり、土を柔らかくしたり、あまりに密集しているところは、間引くこともあるという。

木を弱らせる要因はもう一つ。最近の気象だ。

「最近は目に見えて環境が変わってきています。夏場は40℃近い気温になることもあるし、昨年は梅雨の時期に雨がほとんど降らなかった。12月から2月にかけても、60数日雨が降らない日が続きました。

水が足りないということもありますし、気温が高いと光合成を低下させてしまい、水を吸い上げることもしなくなるんです。高気温、少雨などが断続的に、長期間起こるのは、木にとって相当ダメージになっていると思われます」

人間の都合で切られる東京の樹木

歩いていると、樹間が狭い街路樹をよく見かける。深く剪定され、丸坊主に近い樹木も目にする。このままでは木を弱らせるばかりで、ドミノ倒しのように倒木が起こるのではと心配になる。どうすればいいのか。

「周囲の状況を考えて、どのくらいの大きさの木にするか決め、2年に一度剪定する、肥料を施す、時には根元まわりを広げるなど手入れをするのが理想です」

が、現実はなかなか理想どおりにはいかない。予算の都合で剪定が5年に1度になることも、しばしばあるとか。2年に1度の剪定なら、枝が太くならないうちに切ることができるが、5年に1度になると枝も太くなって、切り口も大きくなってしまう。

「落葉樹の適正剪定時期は、落葉してから芽吹きの時期の間。その期間は木を腐朽させるキノコの胞子も少ないので適正時期に剪定すれば、腐朽菌の侵入も起こりにくいのですが、『落ち葉が大変だから、どうにかして』という声が大きくなると、落葉前に剪定することも行われています。そうすると、腐朽菌が侵入しやすくなってしまうんです」

確かに落ち葉の清掃は大変だが、丸坊主になってしまった並木道を歩くのは悲しい。

「景観の面もありますが、樹木は都市のヒートアイランド現象を防ぐ大きな役割があることから、世界的に樹冠被覆率を増やしていこうという動きがあるんです」

「樹冠被覆率」とは、樹木の枝葉(樹冠)が地表をどれだけ覆っているかを示す世界標準の指標のこと。東京大学大学院の寺田徹教授のグループの調査によると、’13年から’22年の9年間で、東京23区内の樹冠被覆率は9.2%から7.3%に減少。樹冠被覆の約2割が消失したと報告されている。神宮外苑などの再整備による伐採が一因と考えられているが、

「深く剪定することも影響しているのではないかと思います。並木道の近くに暮らしている人が落葉を迷惑だと感じるのはわかります。これからは樹木がいかに大切な役割を担っているのか理解を深めていかなければいけないと考えています。また、行政側も倒木を恐れるあまり伐採するのではなく、計画的に樹木の管理をしていってほしい。気候が厳しくなっている今、このままでは樹木が心配です」

▼和田博幸 樹木医。(一社)日本樹木医会理事。NPO法人みどり環境ネットワーク!理事長、NPO法人東京樹木医プロジェクト理事も務める。これまでに国指定天然記念物の山高神代ザクラ(山梨県)、根古屋神社の大ケヤキ(山梨県)、大島のサクラ株(東京都)の調査や樹勢回復に携わるほか、サクラの名所づくりと花のまちづくりにおける地域計画や設計、住民指導や講演会講師などを行っている。

取材・文:中川いづみ