妻と結婚して30年。恋人とは交際24年。63歳夫が語る「ふたりがいないとバランスがとれない」
【前後編の前編/後編を読む】がんの手術を最初に打ち明けたのは妻ではなく24年続く恋人 「もし命果てたら…」63歳夫が先輩に託した“最後の頼み”
婚姻関係にある人と恋人、どちらも選べない。両方いるから自分が自分でいられる。不倫をしている当事者の中には、そう言う人は少なくはない。今の時代、男女問わずである。
「妻とは結婚して30年、家庭を築き、ふたりの子を育て、ともに年をとってきた。まさに共同体です。一方の恋人とはつきあって24年、妻とはケンカしませんが彼女とは激しいバトルを繰り広げたり議論を戦わせたりしながら生きてきた。どちらが僕にとってより大事とは言えないんです。ふたりがいなければ僕はバランスがとれなかった。ようやくここまで来たのだから、このままでいたいのが本音です」

田橋潤之介さん(63歳・仮名=以下同)は少しこけた頬を撫でながらそう言った。学生時代の友人からの紹介でつきあい、33歳のときに結婚したのが静流さんだ。3歳年下の彼女は「専業主婦として生きていきたい」と堂々と言った。家事が大好きだからというのがその理由だ。結婚を決めたときに知ったのだが、華道も茶道も師範の免状をもっていた。
「ある意味では変わった女性だなと思いました。僕みたいな凡庸なサラリーマンと結婚して本当にいいのと何度も尋ねたけど、彼女は『私は普通の人と普通の結婚がしたいの。あなたとなら穏やかな家庭が作れると思う』とご機嫌でした。
実際、静流さんは家事を楽しみ、全力で子育てをしていた。完璧主義というわけではなく、いつでも心から楽しそうだった。
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僕は上等な人間じゃない
「すごいですよね、神というか仏というか。34歳のとき長女、2年後に次女が産まれました。僕も子育ては楽しかった。妻のおかげで仕事に全力で取り組むことができたから、同期の中では出世も早いほうだったし、ときどき家族4人で出かけるのが何よりも大事な時間でした。娘たちは僕の希望でもあった」
理想的な家庭だと友人たちからも羨ましがられた。双方の親との関係も円満だったが、それもまた静流さんのおかげだった。どうしてこんな「上等の人間」が僕と結婚してくれたのだろうと、潤之介さんは常に思っていたという。
「僕はそんなに上等な人間じゃないんですよ。20代の頃はふたまたかけられてフラれるなんて日常茶飯事だったし、僕から告白しておいてろくにつきあいもせずに逃げたこともある。もちろん、騙したわけではなく、数回デートしたら合わないなと嫌になってしまったんですが、ちゃんと別れの言葉を言えなかった。恨まれたくなかったから。ずるいんです」
そんなずるさは今も続いているのかもしれないと彼は小声で言った。確かに24年もつきあっている女性が他にいるというのは「ずるさ」がなければできないことだろう。
紗和さんとの出会い
妻と同じく3歳年下の紗和さんとは、仕事で知り合った。ある仕事で多数の企業と組むことになったのだが、そのひとつが紗和さんのいる会社だったのだ。紗和さんは、その企業のチームリーダーで潤之介さんとの打ち合わせ等も頻繁だった。
「最初から感じのいい人だなと思っていましたが、仕事が進むにつれてどんどん親しみが増していった。もちろん恋とはほど遠い感情でしたが、準備から始まって半年ほどかかったその仕事が終わったときは、彼女と会えなくなるのがさみしくてたまらなかった。あんな気持ちは初めてでしたね」
恋だと自分でも思った。中学生のときのような憧れの気持ちと、それを否定する気持ち、さらには大人の分別など吹っ飛んだ妙に純な気持ちが交錯して、日常が急に色鮮やかになったと語る。
「僕はまともな会社員だと自分でも思っていたから、仕事で知り合った人と恋に落ちるようなことはあり得ないと感じていたんです。だってめんどうなことになるのが見えているし、それだけは避けたかった。でも紗和に対しては、どうしても自分の気持ちを伝えたかった。フラれてもかまわない、自分が彼女を好きだということだけはわかってほしい。そんな強い感情に自分が負けました」
打ち上げの夜に…
みんなで打ち上げをした日、彼は一次会終了後にさりげなく「ちょっとだけふたりで行かない?」と誘った。ふっと顔を上げて彼を見た紗和さんの目に、妙に明るい光がともった。気持ちは同じだと彼は悟った。
「その日のうちにホテルに行ってしまいました。でもなにもしなかった。できなかったんです。あなたが大事すぎてと言ったら、『あなた、そういうタイプじゃないでしょ』とズバリと指摘された。ふたりで笑いました。できなくても気まずくならない。そんな女性、なかなかいませんよね。その日は夜中までホテルで話し込み、ふたりともまどろんで朝方、目覚めて、それからようやく結ばれたんです」
そのとき初めて、潤之介さんは彼女も既婚だと知った。なぜか独身だと思い込んでいたのだ。少し焦ったが、彼女は平然と、「独身みたいな働き方をしてるでしょ? うちはもう壊れてるから」と言った。
週末土曜日の朝、結婚してから初めて他の女性と関係をもち、家族が待つ家に帰った。もっとどきどきするかと思ったが、意外と落ち着いているのが自分でも不思議だった。おそらく、紗和さんへの気持ちが本気だったからだと潤之介さんは分析する。
「紗和とは前世できょうだいだったのではないかと思うほど似ているところがあるんです。たとえば会って『なに食べようか』と言ったあと、ふたりともすぐに『焼き鳥』とか『洋食』とか同じことを言う。居酒屋でメニューを選ぶときも、あ、僕もそれを頼もうと思っていたということばかりでした」
似ているところが多いと相手への親しみが強くなる。だがそれだけでは続かない。長くつきあうには違いを楽しむことも必要だ。ふたりには最初から自由に言いたいことを言いあえる雰囲気があった。似ているところを楽しみながら、違いも自然とわかりあっていった。
僕にまつわること、すべて紗和の意見が聞きたかった
「つきあいが長くなりそうだなと思ったのは2年くらいたったときですね。うちは子どもがいるから、やはり時間的な制約がある。もっと一緒にいたくても、もっと会いたくても時間がとれないとき、僕はつい『本当はもっと一緒にいたいんだよ』と率直に言っていたんです。でも彼女は『わかってるから遠慮しないで言って』って。そしてあるとき、小学校に入学したばかりの長女が、学校でちょっとケガをしてしまったんです。僕は彼女に素直にその話をして、『学校側はこう言ってるんだけど、どう思う?』と紗和の意見を聞こうとした。紗和は『あなたは、その話を妻にするべきじゃないの?』と言ったんです。そうだけど、紗和の意見も聞きたいんだと言うと、『私が言ったら、ただの出しゃばりになっちゃう』って。いいヤツだなあと思いました。でも僕は、僕にまつわること、家族も含めてですが、ほぼすべて紗和の意見が聞きたかった」
妻をないがしろにしているわけではない。妻の意見は聞いている。だが、最終的に妻はいつも彼に同調するのが常だった。彼はひとりの自立した人間として、紗和さんの本音を聞きたかったのだ。
「妻とは同じ船に乗っている。でも紗和とは別の船に乗りながら、同じ島を目指している。たとえるならそんな感じなんですよね。どちらをより信頼しているという話じゃなくて」
そういう生活を続けながら、潤之介さんは紗和さんとの関係を深めていった。
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妻との家庭を守りながら、紗和さんとの関係も深めていった潤之介さん。記事後編では、24年に及んだ関係が、病と老いを前にどのような形をとっていったのかを紹介している。
亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部
