『風、薫る』写真提供=NHK

写真拡大

 2028年度前期のNHK連続テレビ小説が『ほんのモキチ』に決定した。日本を代表する歌人・斎藤茂吉とその妻・輝子をモデルに、“朝ドラ”史上最も不仲な夫婦の物語として描かれる本作のヒロインを河合優実、脚本を宮藤官九郎が務める。

参考:河合優実、初の朝ドラヒロインに「やる気まんまんです!」 宮藤官九郎との再タッグに感謝

 本作は大阪制作の2027年度後期に先んじて発表されたことや『あまちゃん』(2013年度前期)以来、15年ぶりに朝ドラの脚本を手がける宮藤が、ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)にも出演した河合を朝ドラヒロインに抜擢したことなど、話題を集めるトピックが多い。特に河合は『あんぱん』(2025年度前期)で主人公の妹・蘭子役として、印象的な芝居を見せていたばかりなので、間隔を空けずに主演ヒロインの座を任されたことには驚いた。

 近年は朝ドラヒロインの選考にも変化が起きている。これまでは『おむすび』(2024年度後期)の橋本環奈や『あんぱん』の今田美桜など、地上波連続ドラマで主演を務めたことのある俳優たちがヒロインの座を託されていた。潮目が変わったのは『ばけばけ』(2025年度後期)以降だろうか。

 『ばけばけ』の髙石あかりや現在放送中の『風、薫る』でヒロインを務める見上愛は、地上波GP帯での連続ドラマで主演経験はなかったものの、インディペンデントな映画に出演して評価を高めていた。前者は阪元裕吾監督の映画『ベイビーわるきゅーれ』シリーズの杉本ちさと役をきっかけに、その名を世に知らしめ、後者は松居大悟監督の『不死身ラヴァーズ』(2024年)で映画単独初主演を飾り、活躍の場を広げていった。まだお茶の間には名前が知れ渡っていなくとも、ミニシアターで公開される映画や深夜ドラマなど、継続的に映像作品を追っている人が信頼を置く俳優たちが、続々と起用されている。

■脚本家×ヒロインの相性も重要なポイントに そして、NHKドラマでの印象的な活躍も朝ドラヒロインを託されるきっかけになっているのは間違いない。髙石は夜ドラ『わたしの一番最悪なともだち』(2023年)で主人公・笠松ほたる(蒔田彩珠)の幼なじみ・鍵谷美晴の個性的なキャラクターを見事に体現し、蒔田とはコミカルな会話劇も披露。見上は大河ドラマ『光る君へ』(2024年)で演じた藤原道長(柄本佑)の娘・彰子役での演技がヒロインのオファーに繋がったという。

 『風、薫る』で見上とともにW主演を務める上坂樹里は『生理のおじさんとその娘』(2023年)で主人公の娘役として等身大の思い悩みを表現し、『巡るスワン』(2027年度前期)で主演ヒロインに抜擢された森田望智は『おかえりモネ』(2021年度前期)や『虎に翼』(2024年度前期)で演じたキャラクターの印象が強い。2人がそれぞれ高校時代と大人になった姿を演じた夜ドラ『いつか、無重力の宙で』(2025年)で見せた切実な芝居は、登場人物たちの夢や憧れが詰まった作品の純度を高める起点にもなった。2026年度後期の朝ドラ『ブラッサム』でヒロインのバトンを受け取る石橋静河も、NHKドラマには欠かせない存在。近年は『燕は戻ってこない』(2024年)で主演を務め、『リラの花咲くけものみち』(2025年)でも存在感を発揮している。

 現在、放送中の『風、薫る』の見上と上坂は朝ドラ自体は初めての出演で、キャスト陣にもフレッシュな顔ぶれが揃っている。2人が演じているのは、異なる境遇で生まれ育ちながらも、同じ看護の道へと進んでいくりんと直美。対照的なのにどこか似た部分もあるバディとして、絆を深めていくりんと直美の姿は、見上と上坂の成長とも重なっていく。着実にNHKドラマで経験を積み重ねてステップを踏み、満を持して朝ドラヒロインを演じる流れが定着しつつある。

 脚本家と主演ヒロインの親和性も、近年の朝ドラにおいては重要視されているポイントだろう。『ばけばけ』で脚本を務めたふじきみつ彦が描くおかしみのある現代風の会話劇に、髙石が違和感なく溶け込んだ姿も記憶に新しい。『巡るスワン』で脚本を務めるバカリズムと森田、『ブラッサム』で脚本を務める櫻井剛と石橋など、物語のトーンと役者の雰囲気が自然と一致するような組み合わせが多いのも特徴的だ。宮藤と河合がその系譜に連なることはいうまでもない。唯一無二の作家性を持つ脚本家と、その世界観に呼応するヒロインのタッグは、これからの朝ドラの定番になるかもしれない。

 『ほんのモキチ』で河合が演じるのは、“痛快ばあさん”として世間を賑わせた“猛女”としても知られている輝子。自由奔放な人生を歩んだ彼女をどのように演じるのか。宮藤がコメディテイストで描く壮絶な夫婦喧嘩も含めて、放送はまだ先ではあるものの、続報を楽しみに待ちたい。(文=ばやし)