又吉は濃密なメキシコの1か月を経てオイシックスへ【写真:羽鳥慶太】

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ソフトバンクから戦力外→メキシコ行きも1か月で解雇…それでも得たもの

 昨オフ、プロ野球のソフトバンクから戦力外通告を受けた又吉克樹投手は、まず新天地をメキシコに求めた。2月にユカタン・ライオンズへの加入が発表され3月には現地へ。キャンプ、オープン戦と順調に投げたものの、開幕直前の4月7日になってここでもチームの構想外となり、日本へ戻った。ただそれでも「もう1回メキシコに行きたい」と断言する。実績十分の35歳は、なぜそこまでメキシコ野球に魅入られたのか。地球の反対側で一変したという野球観を教えてくれた。

 又吉はユカタン・ライオンズを退団直後の4月18日、NPBのファーム・リーグに参加するオイシックスへの加入が発表された。しかしここは“通過点”として存在する球団だ。又吉に期待されるのもまずNPB復帰。その先に、新たな世界を見ている。

「もう1回行きたいんです。メキシコに。今度はシーズンを過ごしたいなと思っています」。そう言い切れるのは、わずか1か月の滞在中に、野球観が一変するほどの衝撃を受けたからだ。

「今まで野球をやってきて、投げるんだったら抑えないといけない、ゼロで帰ってこないといけないという縛りがあった気がするんです。そこから抜けて、自己表現をするために1日をどうやって過ごそうかと考えるようになりましたね。結果的にゼロになればベストだけど、ただ『マウンドでどうやって自分を表現しようか』と考える1日が本当に楽しくて。見え方が全然違ったんです」

 沖縄出身の又吉は、環太平洋大(岡山)から四国アイランドリーグの香川を経て、2014年にドラフト2位で中日入り。2022年にはFAでソフトバンクに移籍し投げ続けた。1軍通算503試合に登板し、47勝32敗11セーブ、173ホールド。独立リーグ出身者としては支配下ドラフト2位指名も、FA宣言も初で、無名の存在から道を切り開いてきた右腕だ。

 ただソフトバンクで4年目となる昨季は1軍登板がなく、オフには戦力外通告を受けた。12球団合同トライアウトに参加し、現役続行が叶うなら海外への移籍も視野に入れていると表明。メキシコからオファーが届き、3月には現地入りした。そこで球団オーナーに最初に言われた言葉からして、意外だった。

「ここでは野球は楽しいものだ。マウンドは自分を表現する場だと思ってやってほしい、と言われたんです」

「何が申し訳ないんだ?」打たれたときの態度に衝撃

 投手コーチやメンタルコーチにも「何をしようとか考え過ぎず、できることをマウンドで表現してくれればいい」と言われた。すると、まず「抑えなければ」と考えるのではなく、サインが出たときに「俺はこれをするだけだ」と集中できるようになったのだという。そうして他の投手を見ると、日本の選手とは心の持ちようが全く違っていた。

「打たれて『申し訳ない』という感じで帰ってきたら『何が申し訳ないんだ?』『やれることはやれたんだろ』と言われたんです。その辺からですかね。自分がやれることに集中する方が、マウンドでいい結果につながるなと思えるようになれたのは。周りがみんな、打たれても『俺は今日、球がしっかり投げられたからな』という感じ。そういう感覚って大切やなと思わされました」

 ただ、シビアな現実も味わった。オープン戦3試合で防御率2.25という好成績を残しながら解雇される際に伝えられたのは、今季の投手陣を150キロ中盤から後半を投げられる投手で固めたいというチーム方針だった。「実際に、僕と同じようなスピードのタイプはごっそり切られたんです」という状況でかけられた言葉も、渡った時と同様に意外なものだった。

「メキシコから帰るとき、オーナーに『野球はすごく楽しいものだと思って帰ってほしい』と言われたんです。クビになってるのにですよ。『お前が日本でやってきたキャリアも、日本人がどういうメンタリティで野球に向き合っているのか、職人気質なのもわかるよ』と。ただ野球はまず、楽しいものだと。これは響きましたね」

 新天地に選んだオイシックスでは、イラン情勢悪化の影響で、自分のユニホームがなかなか届かないなどのハプニングはあったが、火消し役としてチームに貢献している。

「メキシコで得られた感覚と、自分が求めているピッチングがうまいことフィットしてるかなと思います。僕の場合、ストライク・ボールのばらつきがある時はありますけど、そこに引っ張られないでやれています。『これはもう審判の仕事。僕はやることをやる』と」

 以前なら微妙なコースにボールが行った時、審判と自分のジャッジが合わないと、精神的に揺れてしまうこともあった。メキシコの経験で、自分ができることだけにフォーカスするという癖がついたのだという。「もう少しこっち側に投げないと……と考えるのではなく、自分がやることはサインに対して投げることなので」。マウンドでの重しを1つ、下ろせたのだ。

オイシックスでは手本に…自身の背中を追う若者に伝えたいこと

 メキシコで変わったメンタルに、オイシックスでは技術的な発見が乗った。今季、CBO(チーフ・ベースボール・オフィサー)に就任した桑田真澄氏と入団後、フォームや投球スタイルについて話し合ったのだという。

「後ろを大きく、遠心力を使ってという話をして、キャッチボールも1回させてもらいました。そこで『このタイミングだね』というものがあったんです。あと自分はやはり、どちらかと言えばキレのピッチャー。キレとコントロールをなじませることで、付加価値が生まれるのかなと」

 ソフトバンク時代の最後は、スピードを求めて投げていた。フォームもショートアームにするなど試行錯誤したが、なかなかタイミングが合わなかったという。それをサイドスローの特徴を生かしたものに変え「今のフォームがもう少しちゃんと噛み合ってくれば、もっと自分が見えていなかった部分が出てくるのかな」と感じている。自分はまだ伸びると信じられる日々だ。

 又吉のチームでの役割は、もう一つある。周りにいるのはかつての自分と同じように、ドラフト指名へのラストチャンスにかける選手ばかりだ。又吉の野球人生は、オイシックスでの仲間が目指す姿そのもの。逆に新しいチームメートは、又吉の瞳にどう映っているのだろうか。

「もっと尖っていいと思うんですよね。いいものを持っているのに『俺はこれで絶対に上に駆け上がるんだ』というのを、ちょっと隠してるようにも見えるんです。そこを少しずつ出していけば、自分のモチベーションも上がるんじゃないかな。僕の時はもう『俺がナンバーワンピッチャーだ』と思って投げていたので」

 又吉が中日のドラフト指名を受けたのは、もう13年前になる。この間投手の高速化は進み、その波はつい最近まで学生だった選手にも達している。又吉も「僕の時に比べると、ポテンシャルの高い子、球の速い子がいっぱいいるので」と認めるところだ。ただ世代の特性なのか、おとなしい印象も強いという。

「俺はこれで生きていくんだ、俺のこれを見てくれ……というのを、もっと前面に出して行く方がいいんじゃないかなとは、はたから見ていて思います」。その中でヒントを求め、近づいてきた選手も何人かいる。「僕は聞かれたら答えます。ただ、僕がみんなのことをまだ知らないので、知っていきつつ、聞いてきた時にポンとアドバイスができるようにしておきたいなと思います」。ブルペンの背番号19が、オイシックス選手の技術もメンタルも押し上げる。

(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)