【Mr.tsubaking】「280円の牛丼に対抗した」…1杯330円のラーメン店が明かす《激安価格の舞台裏》
1杯330円。
とんこつラーメンの聖地である福岡に、これほどありがたい価格でラーメンが食べられるチェーン店「18(いっぱち)ラーメン」はある。
その味や特徴は前編記事『《330円のとんこつラーメンが旨すぎる》…観光客がたどり着かない福岡「地元民に愛されるラーメン店の実力」』の通り。
本稿では、同店を運営する有限会社ワンアンドナインの代表取締役である岩井満則氏に、安さの秘密とこの価格に託した思いを聞いた。
「これは勝負にならん!」価格破壊を決断した理由
ラーメン1杯330円という衝撃的とも言える価格でラーメンを提供する「18ラーメン」は、福岡県内に4店舗を展開している。
元は、佐賀県鳥栖市で1996年(平成8年)に「満○ラーメン」という名で開業している。
当時の価格は400円ほど。決して高くはないものの驚くべき安さというわけではない。なぜ、安価路線に大きく舵をきったのか。
「まだ『満○ラーメン』だった頃、大手の牛丼チェーンが安く牛丼を出していたんですよ。280円とかでしたかね。うちの店の近くにも牛丼屋さんがあって様子を見ていると、若い人たちがうちを通り過ぎて次々とそっちに入っていく。それで、『これは勝負にならん!』と思って、一気に安く振り切りました」(岩井満則氏、以下の「」も)
そうした思いからコンセプトと店名を変え「18ラーメン」が誕生。当初の価格はなんと、250円だったのだ。
さらに、岩井氏には「とんこつラーメンのあり方」としての矜持があった。
「『今日は、お父さんたちは出かけてくるけん、これでラーメンでも食べんね』と、親に渡された小銭を握りしめて、子どもたちが食べに来られるような店にしたかったんです。だから、今でも学生さんがたくさん来て喜んでくれるのを見ると嬉しいですね」
一風堂や一蘭などの尽力もあって、とんこつラーメンは全国区になった。一方で、博多の人にとってのとんこつラーメンは「気軽な日常食」という一面がある。
「18ラーメン」は、そんな岩井氏の想いによって生まれ、現在も親しまれているのだ。
製麺機も大きな寸胴鍋もない店。安さを支える舞台裏
どんなに気持ちがあっても、安さと美味しさを両立させたラーメンを提供し続けるのは難しい。
また、安すぎれば「従業員が、過重な労働を強いられているのでは」という疑念の目を向けられかねない。
しかし、「18ラーメン」には明確な「安さの秘密」があった。
福岡市の外れ南区老司に、「一九ラーメン」という店がある。1965年(昭和40年)に創業したラーメン店で、60年以上たった今でも行列の絶えない人気の老舗だ。
同じ屋号の店は県内に複数店舗あるが、全て親戚筋で経営されており、各店がそれぞれの地域で愛されている。実は、岩井氏は「一九ラーメン老司店」の店主も務めているのだ。
「『18ラーメン』で使っている食材は、スープ・麺・タレも含めてほぼすべて『一九ラーメン 老司店』で作って各店に配送しているものです。ハイエースの冷蔵車で、毎日100kmくらいは走って運んでいます」
つまり、「18ラーメン」は仕込みのコストが大幅に抑えられているというわけだ。
その上、超人気店である「一九ラーメン」と同じ味なので、コストパフォーマンスは県内屈指といってもいいはずだ(「一九ラーメン」も1杯500円という安価で食べられることも付け加えておく)。
「同じ味なのに、なぜ安い?」やすさを維持する細かな工夫
「18ラーメン」が驚異的な安さでラーメンを提供できる仕組みはわかった。しかし、こうした運営方法について、三代にわたっての常連客がいるという「一九ラーメン」のファンからは、批判の声はなかったのか。
「なかったです。『同じ味なのに、なんで値段が違うと?』とは言われていましたけど(笑)。『一九ラーメン』は、僕やベテランのスタッフがいて、お客さんの様子も見ながらやっていますが、『18ラーメン』は基本的に若い子たちに任せています。一生懸命やってくれていますが、もしかしたら行き届かない部分もあるかもしれません。そこは大目に見てくださいという気持ちもありますね」
さらに、細部にも価格を抑える工夫が垣間見える。例えば、「一九ラーメン」では「辛し高菜ラーメン」が650円で、基本のラーメンとの差額は150円だが、「18ラーメン」では200円の差になっている。
トッピングの価格に差をつけることで、ミニマムなラーメンの低価格を維持し続けているわけだ。
もっとも、こうした工夫があっても昨今の原材料高騰の影響は避けられない。
「大変ですよ。もうすぐまた、肉も米も値上がりすると言われたのですが、値段を二度見するような上がり方です。原価率が上がっているので、1杯あたりの利益率は250円で出していた時より小さくなっているかもしれません。豚肉もとんこつも、当時に比べると2倍くらいになっていますから」
これが博多のソウルフード!毎日食べたくなるスープの哲学
どうしても価格に目が惹かれるが、もちろん、美味しさへの妥協もない。「18ラーメン」に配送している食材へのこだわりを聞いた。
「麺は、保存料などを使わずに小麦粉とかんすいだけで作っています。日持ちしないから管理が大変です。作り置きができないので、売上杯数を予測しながらギリギリを狙って作ります」
とんこつスープは昨今、ドロドロ系や泡系などの濃度の高いとんこつスープが人気だが、それらとは一線を画す。
「うちでは、豚の頭の骨は使わず、背骨とげんこつだけで炊いています。とんこつは、あまり濃くすると、本来の甘みが失われてしまうんです。だから僕は、濃すぎるスープは美味しくないと思っていて、バランスを考えながら作っています」
写真に撮って人に見せたいラーメンではなく、毎日食べたくなるような優しい口当たりのスープは、こうした思いから作られていたのだ。
いまや、とんこつラーメンは世界に誇るコンテンツになった。だからこそ、気軽にすすれる「日常食」から遠ざかった側面もある。
そんな中、「18ラーメン」が330円という価格で守ろうとしているのは、福岡の食文化そのものなのかもしれない。財布を気にせず替玉まで頼める幸福は、案外ぜいたくなことなのだ。
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