【馬飼野 元宏】「アニソンなんか歌ってると終わるぞ」80年代、音楽業界の冷たい空気を『ガンダムZZ』主題歌歌手・新井正人が明かす

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今年、『機動戦士ガンダムZZ』の主題歌「アニメじゃない─夢を忘れた古い地球人よ─」でのソロ・デビューから40周年を迎える新井正人。そのキャリアを振り返るインタビューの後編は、アニソンシンガーとして、シティポップの名盤を生み出したアーティストとして、さらに「BRAND NEW OMEGA TRIBE」のヴォーカリスト、そして近年の活動までを語った。

【前編】『シティポップブームで再注目…「アニソン」ボーカリストの新井正人が語る「知らずに作っていた」大ヒット曲の裏側』よりつづく。

カルチャーとして先進的だった「アニソン」

――パル解散後の新井:さんは、86年に『機動戦士ガンダムZZ』の主題歌「アニメじゃない─夢を忘れた古い地球人よ─」(以下、「アニメじゃない」)をリリースされています。

新井正人(以下新井): 実は、「アニメじゃない」を歌う1年ぐらい前、葉巻型のUFOを羽田沖で見たんですよ(笑)。パルの船橋孝樹さんが大田区に住んでいて、彼の家に泊まっていた時、UFOらしきものを見たんです。

「アニメじゃない」のサブタイトルが「夢を忘れた古い地球人よ」だし、秋元康さんの書いた詞にも「みんなが寝静まった夜 窓から空を見ていると とってもすごいものを見たんだ」っていうフレーズがあるでしょう。偶然ですが、僕の体験そのままなんですよ(笑)。

――すごいシンクロニシティが。実際にこの時、新井さんはアニソンというものを、どのように捉えていたんでしょうか。

新井: 僕が『太陽の子エステバン』の主題歌「冒険者たち」を歌っていた82年頃は、業界内でもアニソンの位置は決して高くはなかったんです。

ある先輩から「アニソンなんか歌っていると、(歌手キャリアが)終わっちゃうぞ」みたいなことを言われたことがあって。今のように、アニメが世界的なコンテンツになるなんて、当時は誰も思っていなかったんですね。でも僕はそんなふうに捉えてはいなかった。

たとえば、ビートルズは『イエロー・サブマリン』で、アニメ映画を作ったじゃないですか。あれはプロモーション・ビデオのハシリだと思うんです。僕らが子どもの頃、無意識に観ていた『巨人の星』などのアニメで主題歌が流れる場面など、まさしくPVですよね。だからPVの始まりってアニソンだったんじゃないか、と思っています。カルチャーとしても先進的だったと思いますよ。

――特に『機動戦士ガンダム』の主題歌は、井上大輔さんや森口博子さん、やしきたかじんさんなども歌っていますし、あの時代に我々がイメージしていた "アニソン "とは立ち位置が違っていたように思います。

新井: 『ガンダム』の30周年の年に、発祥の地である名古屋のポートメッセなごやで、8万人を集めたイベント(『生誕30周年祭in NAGOYA ガンダム THE FIRST〜未来創造の世紀へ〜』)が行われたんです。その時に僕も出席して「アニメじゃない」を披露することになったんです。光栄なことでしたし、これからも大切に歌っていきたい1曲ですね。

――その翌年、ハミングバードからソロ・アルバム『MASAHITO ARAI』を発表しています。ソロ・アルバムは89年まで3枚をリリースしていますが、内容は完全にAORで、シティポップ人気の中で再び注目が集まっているのも頷けます。新井:さんとしても、ここに至るのは必然的な流れでしたでしょうか。

新井: 意識はしていないですが、僕がずっと作り続けてきた世界ですし、僕自身はそれ以前とあまり変わっていないと思っています。この3枚はセンチメンタル・シティ・ロマンスと組んで作ったんですが、昔、シュガー・ベイブとセンチが中野公会堂で共演したことがあって、僕、そのライブを観に行ってるんです。その後センチのメンバーと一緒にやるとは、その時はまったく思いもよらなかったけれど、これもご縁ですね。

――センチメンタル・シティ・ロマンスと組むことになった経緯は何だったのですか?

新井: ハミングバードのディレクターから紹介されて、名古屋まで彼らに会いに行ったんです。そこでビートルズの曲やR&Bをセッションしてみたら、告井延隆さんが「ああ、いいんじゃない」と言ってくれて、それで告井さんたちが東京に来てくれて、レコーディングすることになったんです。

Dance, Dance, Dance (2015 Remaster)――シュガー・ベイブからセンチに移られた野口明彦さんや、村田和人さんも参加しています。

新井: 村田さんは、ソロ1枚目の『MASAHITO ARAI』に入っている「ダンス、ダンス、ダンス」でコーラスをやってくれました。1枚目はほとんど告井さんのアレンジで、2枚目からは細井豊さんも何曲かアレンジしてくださいました。彼らと、僕が培ってきた音楽のセオリーが大体一緒なんです。メロディーの“こう来たら、こう行くだろう”という感覚がね。

コード進行は僕が自分でつけました。彼らはウエストコースト・サウンドなので、カチッとした響きになるけれど、僕だとマイケル・フランクスっぽいというか、哀愁が漂う曲になる。そういうビート感と、告井さんたちのロック感覚が上手く融合できたアルバムじゃないかな。

藤田浩一さんとの出会い

――その後、またまた変貌を繰り返し、93年には「BRAND NEW OMEGA TRIBE(BNOT)」のヴォーカリストとして活動することになります。

新井: 杉山清貴&オメガトライブはリスナーとしてよく聞いていましたが、サウンドも林哲司さんがしっかり作られていて、今のシティポップ、当時で言うAORの王道ですよね。自分の好みの音でもあるし、僕がそこに参加するとなった時は嬉しかったですね。

実は、オメガをやる前に、林さんの三島のスタジオに行って3曲ぐらい録音していたんです。2人で競作した曲も2曲あって、レコーディングまで済ませていたんですが、ちょうどその時にオメガの話が来て、その音源はオクラになりました。

――この時の新井さんは、トライアングル・プロの所属でしたか。

新井: そうです。社長の藤田浩一さんは、GSのアウト・キャストにいた方ですが、僕がダイアリーでデビューした時に関わってくれた水谷公生さんも、元アウト・キャスト。この偶然には驚きましたね。面白い話があって、藤田さんが亡くなられた時、お別れの会で影山ヒロノブさんと初めてお会いするんです。

――影山さんといえばレイジーですよね。それこそトライアングル・プロの最初期の所属バンドでした。

新井: そうなんです。それで影山さんも「アニメじゃない」をカバーしてくれていたので、挨拶をしてお話をしているうちに、「えっ、新井さんって『アニメじゃない』を歌われていた、あの新井さんですか!?」と言われて(笑)。

ブランニュー・オメガトライブの新井と、アニソンを歌う新井が一致していなかったみたいです。もちろんパルの新井だったことも知らなかったわけです(笑)。

――オメガトライブのレコーディングは藤田浩一さんがディレクションされるんでしょうか。

新井: そうです。その辺りは藤田さんが完璧主義者で、サウンドも自分の思い描くものがすごく強かった。フレーズ1つをとっても、3回歌い方を変えてトライしても、全部「違う」って言う。

10回ぐらい歌い方を変えながらやってもみても「違う」。歌い方に関しても、藤田さんなりのこだわりがすごくあるんです。僕はBRAND NEW OMEGA TRIBEで11曲レコーディングしましたが、11曲に半年かけているんですよ。

すごいですよね。僕も色々なディレクターとお付き合いしましたが、皆さんそれぞれのやり方でプロデューシングされるので、勉強になりました。

パルの時の荒木一郎さんは、イメージ的には怖そうですよね?(笑) でも実はとても優しい方でした。ダブルトラックを僕の枯れた声で、ウィスパリング・ヴォイスにすると面白いと思ってやってみたら「新井:くんさ、俺は大丈夫だと思うけど、新井:くんはどうなの?」って聞いてくる、そんな方です。

“Image ,think ,believe ,do”

――現在は、作曲家としての活動に加え、たいらいさおさん、MIQさんと共に組まれた「ST4」でも活躍されていますが、ST4はどういった経緯でスタートしたんですか。

新井: ST4も始めてからもう10年になりますが、きっかけは、先ほどお話ししたガンダム30周年の名古屋でのイベントでMIQちゃんと一緒になって、彼女のR&B感覚というか、フェイクやリズム感に僕と共通のセンスを感じたんです。ロバータ・フラックの「やさしく歌って」とかスティーヴィー・ワンダーのナンバーを一緒に歌ってセッションしました。

へいちゃ兄(たいらいさの愛称)は、お互い加山雄三さんの湘南サウンドが好きだったところから入って、それで3人でやろうとなって、僕も「曲を作るから歌ってくれませんか?」という感じで、一緒にハーモニーをやったらすごく面白かったんです。

そんなに派手な活動ではないですが、3人でボランティアにも行きました。高齢者の介護ホームなどを訪問して、フランク永井とか歌うと喜んでくれるんですよ(笑)。そこでアニソンを歌うと、みなさん元気が出るようで、楽しんでいただいています。

――ここまで新井さんのキャリアについてお話を聞いていると、パル、『ガンダム』、シティポップのソロアルバム、オメガトライブ、ST4と活動の範囲が広すぎますが、それぞれの楽曲を聴いていると、そこに通底するものを感じます。ご自身ではこれまでのキャリアを振り返って、今、どのように思われていますか。

新井: 確かにバラバラな活動に見えますが、繋げてみると音楽性は一貫していると思います。それにキャリアの随所で、いろいろな方たちとどこかで繋がっていて、不思議な感じもありますね。僕はフロントマンとして立つ一方、半分は裏方としても活動していたので、スタッフサイドの意見はすごく大事にします。

みなさんが知恵を与えてくれたことには感謝しています。もちろん最終的には時代と、オーディエンスが受け入れてくれるかにかかっていますが、 "面白いものをやる "という上では、クリエイターたちが一丸となって作った時には、いいものができると思っているんです。僕の好きな言葉に“Image ,think ,believe ,do”

というのがあるんですが、イメージして、思い続けて信じて、最後に行動すればなんとかなるんじゃない? という考え。それをずっと思い描いていたから、今、ここにいるのかもしれませんね。

(進行・文:馬飼野元宏/写真:Ryoma Shomura)

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